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戦う兵隊さんたち

「ふむ。召喚したリザードタイプを騎馬として扱うとはな。なかなか面白いことをする。我が軍でも活用してみるか」



 騎士ゴーレムたちの間をすり抜けて駆けていくふたりを見送り、どこか安心したようにマルライツァーが呟いた。


 状況が持久戦を許さないのは知っているため、どこかで無茶をしなければならない。


 そう考えていたところに思わぬ救援、それも単独での戦闘力にはかなりの期待ができる実力者。


 人間性についても、少なくともマルライツァーは信頼できると考えていたため、素直に喜ぶことができた。



(ルジャナ帝国にて魔術師に最も近いと言われる“北の賢人”ネルガ・ホガートが認めたほどだからな。フィンブルムでも“斬鉄”のボルバンや“轟天”のガノッサといった実力者たちが高く評価している。判断材料としては充分だろう)



 なにより、直接言葉を交わして確信したことがある。


 気取ったような、取り繕ったような、中立的な。


 1歩引いた冷静な視点で物事を語るような雰囲気ではあるが、どうしても価値観の甘い部分が隠しきれていない。


 あのようなお人好しでは悪人は務まらないだろう。


 彼ならば、デュラン・ダールであれば。リーフェルジルヴァを見捨てるような行動はきっと選ばない。選べない。


 姫君の心配は無用。



 故に。


 マルライツァーは心置きなく全力を出せる。



「後々のために戦力の配分を、と考えていたが……まぁ、突入したふたりに敵が殺到しても困るからな。兵力を分散させるためにも、少しは私も暴れさせてもらおうか。―――さぁ、燃え盛れ“鳳華狂咲”」



 自らの名を呼ばれたソレは、このときを待っていたと言わんばかりに、鋼色の刀身に勢いよく霊気の炎を宿した!


 そして、その場に居合わせた戦士たち全てが幻視する!


 紅蓮の翼を大きく広げ、天に向かい嘶く炎の鳳をッ!



「「なにッ!?」」


「「おおッ!!」」



 抱える感情に違いはあれど、敵からも味方からも驚嘆の声があがる。


 ひと振り。


 マルライツァーの周囲に迫っていた騎士ゴーレムたちは、霊気の炎に焼かれて塵芥と成り果てた!



「ちぃッ! 怯むなッ! とにかくゴーレムをぶつけろッ! いくらエーテルウェポンが強力でもヤツとて人間、無限に霊気を使えるワケじゃねぇッ!!」


「それはたしかに道理だな。では、霊気を節約しながら丁寧に処理するとしよう」


「―――は?」



 再び迫り来るゴーレムたちを、マルライツァーは事も無げに斬り捨てていく。


 先ほどのように派手に炎で薙ぎ払うのではなく、流れるような動きで刀を振るい、次々とゴーレムたちを分解している。



「見た目と違い、やはり手応えは金属のモノではないな。霊気……いや、魔力の物質化したものか? 魔導水晶によく似た何物か。不思議ではあるが、斬れるのであればなにも問題はないな。さ、遠慮はいらんぞ? 20でも30でも、好きなだけぶつけてくるがいい」


「ふんッ! 人形遊びだけだと侮ってもらっては困るな! 貴様がそうであるように、こちらにもエーテルウェポンの使い手はいるのだ! この俺のようになッ!」


「……ふむ。ただの武器として所持しているのではなく、どうやらしっかりと開放できているようだな。感心だ」


「ほざけッ! 互いに武器の条件は同じッ! だがそれだけだッ! 貴様のような椅子に座ってばかりの高級将校と違い、我らは常に戦いの中にあったッ! 経験値が違うんだよッ! なにより、ゴーレムはまだいくらでも残っているのだッ! 貴様の勝ち目など皆無よッ!!」


「……ふぅ」



 軍帽を正し、どこか―――諦めというよりは呆れの感情が含まれたため息がもれた。


 その様子が気に入らなかったのだろう、反乱軍の若き将官が声を張り上げようとした……そのとき。



 轟音と雄叫び。


 そして強大な霊気の波動。



「な、なんだッ!? いまの音はッ!? そ、それに、この霊気は……」


「どうやらレグルナルヴァ特務大将閣下は部下に恵まれなかったようだな。キサマはあらゆる面で哀れなほどに思い違いをしている」


「なにィッ!?」


「こちら側のエーテルウェポンの使い手が、私ひとりのワケがないだろう? それにだ。強力な武器を保有している者が、どうして前線に出ないと思った? ムダに戦力を遊ばせておく必要性がどこにある。たしかに事務仕事も多いがな、我々武官が戦場から離れるワケがないだろう」



「ダーハッハッハァッ!! 跳ねっ返りどもが相手ではと気後れしておったが! ゴーレム相手ならば手加減がいらんから気楽でええのぉッ!! そぉれ、吹っ飛べぇいッ!!」


「御老、あまりムリをなさりませんよう……また腰を痛めては、奥方の心労が増えてしまいますよ? ここは私どもにお任せ下さい―――ませッ!!」


「やれやれ、マルライツァー少将殿が本気を出したとたん、急に皆さん元気になりましたねぇ。まぁいいでしょう。せっかくですからね、ボクも流れに……乗るとしましょうかッ!!」



「そんな……貴様らァッ!! わざと手加減をして我々を弄んでいたとでも言うのかッ!!」


「つくづく莫迦かキサマは。不測の事態に備えて戦力を温存してきただけだ。だがそれも、ついさきほど事情は変わった。不確定要素も多くリスクも高いが……まぁ、安全な戦争なぞ存在しないからな。致し方あるまい」



 ◇◇◇



 反乱軍たちの動揺が瞬く間に広がった。


 戦況が一気に傾いたから……で、あるならばまだ納得できたかもしれない。


 条件は未だに決定的なモノではない。


 やはり数の有利、それも自身の安全を全く省みないゴーレムの存在はエーテルウェポンの所有者たちにとっても充分に脅威である。


 軍の本部を囲む防壁、その奥に控えている目が眩むほどの物量。


 数人が奮戦した程度で容易く尽きるとは思えない。


 にもかかわらず。


 破壊されるゴーレムを見ているだけで、反乱軍たちは大いに士気が削がれてしまっていた。



(無様、で済ませるにはあまりにも酷い。ヤツらとて訓練兵団での日々を越えて軍服を着ているのだ、これではあまりにも……なんだ? この違和感は……)



 徐々に戦況が有利になる様子を見ながらも、マルライツァーの内側では不安が膨らみ始めていた。


 自分が侮られたことは不思議ではない。


 若い将校の中には常にそういう者が現れるのを知っている。


 それもまた、ひとつの向上心。


 だが、革命などという大それたことを起こしたにしては……あまりにも砕けるのが早すぎる。



(ゴーレムどもの出所も不明。魔導水晶による召喚の情報は規制できなかったからな、こうして利用されるのは想定内であるが……そこにやはり、ナニかがあるのか? このゴーレムの正体に……)



 騎士ゴーレムの波状攻撃を次々と斬り伏せながらも、マルライツァーは自分たちの優勢を全く信じられずにいた。

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