ばっちり決まった方針なので
正義とか、道徳とか。
名誉だったり財産だったり。
安全を求めたり好奇心を優先したり。
人の動くときは、たいていなにか理由がある……と、俺は思っている。
考えるより先に体が動く、みたいな話も聞くけれど。
それだって所詮は経験則なんじゃないかな?
心が、体が。
そうありたい、と。
日頃の行いがあるから動けるってだけじゃないかな~、と。思うワケですよ。
んで。
いまの俺がレグルナルヴァのために動く理由。
あるだろうか?
ないよね。
まったくない。
もしも俺がなんの頼るモノもなく異世界に放り出されてたなら喜んで部下になったかもしれない。
身の安全、あとは生活? やっぱり大事だもん。
だが、いまの俺は誰かにそれを保証してもらう必要はない。
だって女神の加護があるんだもの。
心配する要素、ほぼ無し。
強いて不満をあげるなら日本に帰れないことくらいだけど。
これはなぁ……女神さまでさえムリだもの、どう足掻いてもムリでしょう。
うん。
レグルナルヴァのために動く理由は特に無い。
が。
俺が動かない理由はある。
別にレグルナルヴァの言葉が信用できないか、と聞かれればそんなことはない。
あれは本気だろう。
なんとなくだけど、そう思える。
レグルナルヴァが気に入らないかと聞かれれば、そんなことは……ちょっとあるかもしれんけど。
顔面キック。
あれはちょっとなぁ。
……うん? あのときの反抗的な態度を見て勧誘を決めた?
マジっすか。
ぐぬぬ。
下らない見栄張らないで名乗っておけば正解だったのか……。
もう遅いけど。
まぁ、とにかく。
妹ちゃんそのものは一応、信用できる。
協力すれば覇道とやらもガシガシ進めるだろう。
それもまた、異世界の楽しみかたとしてはアリかもしれない。
俺は戦争イヤだから結局ムリなんだけどさ。
まぁ、戦争云々はひとまず置いておいて。
勧誘を断るしかない決定的な理由。
俺、もうね?
組織に所属、できないんだよ。
かつての俺ならまだ考える余地はあっただろう。
だけど、いまの俺は……自由を知ってしまったから。
たまに聞くセリフ。
1度楽を覚えたら戻るのは難しい。
真実だったねぇ~!
自由。
その言葉には、前向きで明るいイメージ持ってた。
でも実際に体験してみると、やっぱり違うね。
ほんの少し……欠片に触れただけでも全身を巡り致命傷となる、厄介でえげつない猛毒だったよ。
かつての日常すら、いまの俺には受け入れられるか怪しいレベル。
群れの一員、あるいは組織の歯車。
そういう生活がね、もうね、アカンのよ。
と、まぁそんなワケです。
こんな危ない人間を取り込んだら、間違いなく後悔することになるからさ。
だから素直に諦めてもらいたかったんだけど表情が完璧に面白がってやがるよチクショウ。
はい?
そういう人間を従えることができてこそ支配者の器?
いやいや。
組織の秩序を優先しよう?
むぅ。
予想外の展開というか、想定外に妹姫さまはちゃんと国の未来を考えていた。
が。
予想通りというか、やっぱり戦いは避けられそうにないね。
レグルナルヴァは俺が欲しい。
俺は自由を手放したくない。
うん。
話し合いで解決できないなら、もう戦いで決着させるしかないじゃない?
もともとそのつもりだけどね。
女神の秘宝。
ただただ俺の都合のために、放置しておくワケにはいかないから。
……なんというか。
こうして、いろんな事情があることを知ってもなお。
それでも俺は自分のために戦うんだなぁ。
自由、恐るべし。
完全に毒されてるな、俺。
間違いなく俺はロクな死に方をしないだろうね!
戦う理由で迷わなくて済むのは楽だけど。
こうして向かい合ってると、やっぱり強いんだよ。気配が、姫さまはさ。
本人の霊気と、女神の秘宝である剣に宿る魔力。
冷や汗ダラダラですわよ。
祝福の加護も反発のせいで反応がイマイチ鈍いままだし。
こんな状況で、俺はなんのために戦うんだろう……みたいな、正義のありかたに迷う主人公みたいなノリやってたらアウトだよ。
違う意味で自由になってしまう。
天に召される的な。
……よし。
アホなこと考えられる程度にはまだ精神は余裕。
力を隠すのは諦める前提にしたし。
あとで反動でボロボロになるのも必要経費。
あとは……そうだな。勘違いだけはするなよ、俺。
お前はレグルナルヴァよりも格下なんだ。
平和な日本で生きてきた人間と、争い事の絶えない世界で生きている人間。
どちらが戦士として格上か。
そんなん考えるまでもない。
油断するなよ、俺。
よし、それじゃあ早速ッ!
それじゃあ……早速……。
………。
とりあえず。
リズをどうやって守ろうかなぁ……?
主人公のいまの状態を某女神が転生するRPGで例えると、ほどほどにライト(善)寄りのがっつりカオス(混沌)属性になってます。
お人好し(善)だけれど集団行動ができない(混沌)状態ですね。