ぼちぼち一時休戦でも
取り引き。
向こうが差し出すのは情報。
俺が差し出すのは安全。
なにかヒミツを教えるから見逃してくれ、だそうだ。
ふーむ。
どっちかって~と、見逃してくれと頼むのは俺のほうだと思うんだけど。
囲まれてるし。
「数の有利は正直であっても絶対ではないよ。貴殿、まだまだ手札を隠しているだろう? それにだ、貴殿と敵対することで貴殿とその仲間……であろう、他の幻想狩りたちと争うことになるのは御免だからな」
ある意味、ナイス判断と言わざるを得ない。
なにせ“全部俺”だもんね。
了解。
強化人間と事を構えるときは気を付けるようにしましょう。
んで?
正直なところ、引いてくれるなら情報なしでも構わないんだけど。
ダメ? なんでさ?
取り引きはしっかり遂行しないと、今後の信用にかかわる?
なるほど。
そういうことなら。
「ちゃんと貴殿の興味を引きそうなモノでもあるよ。なにせ幻想種に関する話だからね。……実はね。ブルム帝国の第1皇子、ドローゼラ・ガルデンブルムが幻想種の力の軍事利用を企んでいるのだよ」
第1皇子ドローゼラ。
ブルム帝国の後継者争いの本命。
兄弟姉妹の中で最大勢力を誇るそうな。
んで。
これまた定番というかなんというか……イロイロと、まぁ。手段選ばずなお方だそうで。
強化人間もけっこうな人数、確保してるそうな。
なるほどね。
幻想種の魔導水晶、欲しがるよね。
しかし。
その危険な皇子、君らの雇い主なの?
いいのか、そんなにペラペラ喋っちゃっても。
信用がどうとか言ってたやん。
「問題ない。今回の任務が終わり次第、ドローゼラとは敵対関係となる。言っておくがね、先に不義理を働いたのは向こうなのだよ。信じるかどうかは貴殿に任せるが……仮に、あの男と戦うようなことになったとき、私たちまで敵視されたのでは困るからね。助力を求めるほど図々しい真似はしないけれど、それならせめて、というワケさ」
そうきたか。
たしかに、巻き添え食らうのは勘弁してほしいよね。
そういう気持ちは理解できるかな。
真実ならば。
まぁ……疑う理由もいまのところないけれど。
ただ。
お前たちが、学生たちに危害を加える存在ではないとは言い切れないよな?
「……面白いことを言う。そういう貴殿こそ、いったいなにを目的にして学院に侵入したのだね? 不埒者はお互い様だろう?」
そういえばそうか。
俺、批判できる立場でもないか。
わかった。
この場はこれでお開きにしよう。
どのみち、情報戦の本職相手に交渉とかむぅ~りぃ~だもの。
思考能力はオーバーヒート寸前。
いますぐ帰りたいよ。
「貴殿が物わかりのよい人物でよかったよ。部下たちの隠蔽工作もムダにならずに済む。ん? 当然だろう? 貴殿とうちのアホとの戦い、それで発生した霊気と妖気はできる限り遮断したとも」
多芸だなぁ。
潜入、工作、戦闘。
普通に考えたら手放すのは惜しい人材の集まりだと思うんだけどねぇ。
権力者の考えることはワカランね!
「そうそう、もうひとつ。これは未確認の情報だが、隣国の、エスタリアにも幻想種の魔導水晶が持ち込まれたらしいよ。戦闘国家に幻想種の。なかなか危険な組み合わせだろう?」
ア、ハイ。
「持ち込んだのは旅の術師らしいが……貴殿も警戒したほうがよいかもしれないね。仮にドローゼラと接触したときにどうなることか。厚待遇を条件に懐柔されるかもしれない。そうなれば確実に厄介だからね」
ウン、ソウデスネ。
「では、縁があればまた会おう。そのときは敵ではないことを祈っているよ」
気絶したヘビちゃんを担いで立ち去る隊長(仮)さん。
同時に周囲の気配も消えた。
………。
とりあえず。
俺もこの場を離れるかな……。