びっくりバトル! 人造妖魔・その2
なんとも色々と混乱は落ち着かない。
が。
のんびり考察している暇もない。
炎の毒。
ばっちり鎖にも付与しましょ。
攻防一体。
これでどの程度、凌げるのか。
どきどきハラハラ、ちょっとワクワク。
うん。
やっぱり俺、少し危なくなってるのかもしれん。
いまはどう考えてもお楽しみの状況じゃないよ。
さて、アサシンちゃんのほうは?
ふむ。
警戒してるな。
驚かせることには成功したらしい。
問題はここから。
次の一手をどうしようか?
「毒。毒ねぇ。毒かぁ。……くふッ。ふふふ。ふふふふッ!あははははぁ~ッ!!」
うぉ。なにごと?
「ねぇ……自分で言うのもナンだけどさ。ワタシって、けっこうカワイイと思わない?」
ふむ。
美人6割、可愛い4割。
愛嬌があって大変よろしいかと。
「でしょ? それにぃ~スタイルもそれなりに恵まれてるほうだし。あと、これでも料理とかさ、家事も得意なんだよ~♪ ねぇ、ねぇ! ワタシ、きっといいオヨメさんになれると思うんだよねぇ~」
なんだか急に可愛らしいこと言い始めたな。
纏う妖気はまったく可愛げの欠片もないけれど。
………違う。
妖気と霊気が混ざってる。
正しくは混ざってた、かな。
いまはどんどん妖気が膨らんでる。
「きっと、シアワセな家庭ってヤツ、ワタシとキミなら作れると思うんだよ。だからさ。だから、キミの全部。ワタシにちょうだい? ―――出番だよ、百眼蛇」
なるほど。
帝王種の魔導水晶、取り込んだって言ってたもんな。
いま、俺が見ているのがそうか。
アサシンの後ろに現れた巨大な白蛇。
人間どころかゾウさんも丸のみしそう。
身体にはピラミッドにでも描いてありそうな目玉の模様が―――わぁお、動くんか~い!
そうか。マルチアイ、ってたもんな。
視力、というより観察力とか? 強化されてるのかもしれない。
あと。
手足に白銀の鎧がいつの間にか出現してました。
まさにパワーアップ。
しかし。
この感覚。
霊気と妖気の違いはあるんだけれどさ。
これは。
この感覚は。
エーテルウェポン?
なんで?
「イクよ~♪ ガンバって全部、受け止めてね~ッ!!」
うは。やべぇわコレ。
鎖の迎撃がちょっち間に合ってない。
髪の毛は使ってこないけど。
妖気がヤバい。
パンチや蹴り技にあわせて、ムチのようにしなって襲ってくる。
なんかボクシングでこんな……フリッカーだったかな。
怖ッ。
ローブに仕込んだ回避の祝福がなかったら、と思うと。
ふぅ。
心に余裕はまだ残ってる。
けどさ、短時間に情報多すぎだよ。
俺の頭のCPUが悲鳴上げちゃうよ。
うん。
考えるの止めよ。
いま、目の前の敵を。
いま、この瞬間を生き延びなければ、全ては無意味。
思考放棄、仕方ないね!
というワケで、さっそく次の手札を切らせてもらいましょう。
技の祝福。
イメージはチェーンソー。
俺を中心に、強化した霊気の鎖をリング状に。
とりあえず4つでいいかな。
それを高速回転させて。
こんなもんか。
本物のチェーンソーは鎖に刃物、チップって言うんだっけか、そういうのが付くけれど。
攻撃的な霊気と高速回転。
これだけでも充分な武器になる―――かねぇッ!!!
「きゃッ!? っと。あはッ♪ 器用なコト、するよね~。んふ、やっぱりタノシイよ、キミは。たま~にクラスSのハンターとかとも戦う機会あるんだけどさ、いままでの相手と比べて……ん~、違うね、比べるまでもない―――よッ!!」
んん~、いい音しちゃってまぁ。
俺の鎖と相手の鎧。
ぶつかる度に音と衝撃スゴいわ。
しかしどうする?
どうやって、なにをして決着にすればいいのやら。
コイツが何者なのか。
それはそれで気になるけれど。
1番は。
1番は……さっさと逃げたい。
祝福結界を見せたくないから戦ってるワケで、今日はバトルを楽しむのが目的じゃないもんなぁ。
できればサクッと倒して逃走したいところなんだけれど。
加減、どうしようか?
相手を制圧するにも、加減を間違えると押し潰してペシャンコにしちゃうからね。
んー。
毒?
毒か?
いくつか手頃なのは用意しといたけどさ。
潜入用に。
コイツに試すにはマイルド過ぎて効果なさそう。
強化するかぁ。
どうせ技の祝福、見せちゃったし。
その流れでやっちゃうか。
術式に関わるような祝福はデュラン・ダールの手札だからね。
絶対に見せるワケにいかないし。
よし!
……神様ヘルプッ!
『仕方ないのぉ~。世話が焼けるのぉ~。むふふ♪ そうじゃね、ちぃっとばかしキツめの麻痺毒を霊気を頼りに流し込むかねぇ。いまの奴めは人間から大きく外れておるからな。むしろ致命傷にならんけぇ、好都合じゃね!』
よっしゃ。
プラン決定、祝福ブーストッ!
「―――くッ!!」
むむむ。
発動前に距離をとったか。
やはり良い勘してるな。
野生の動物がそういう感覚に鋭いように。
魔獣の力で危険への嗅覚が鋭いのかもしれん。
そもそもの基礎能力が俺とは全然違うだろうけどさ。
だが、ありがたい。
おかげで準備を調える時間ができた。
……よし。
いざ、突撃―――
「そこまでだ」
おや?
「お前、なにをしている。妖気の開放は許可していないハズだかな」
「……なに。いまイイトコなんだけど。ジャマするなら隊長だって容赦しな―――ひぎゃんッ!」
あ。
「まったく。これさえなければ蛇人族は種族として完璧なんだろうがな。さて……貴殿が噂の幻想狩り殿か。御目にかかれて光栄だよ」
丁寧に一礼するのは普通の人間……じゃない、只人族。只人族の女の人。
気絶する前、ヘビちゃんが隊長って言ってたな。
ふむ。
つまり、いま俺を包囲してんのは全員お仲間さんってことか。
探知範囲を広げなくてもわかる。
すっごい見られてるよ。
これがいわゆる“視線を感じる”ってヤツなのかな。地味に初体験ですわよ。
で。
霊気も妖気も戦闘濃度じゃないってことは。
「その通りだ幻想狩り殿。ここはひとつ、取り引きといかないか?」