のんびり授業を手伝いながら……おや?
生産系を冷やかしつつ。
戦闘系の実技の相手。
そんな数日間。
ぶっちゃけ、楽しんでます。ハイ。
もちろん本来の目的は忘れてない。
セカンダリエリアは全部歩いた。
学生たちの魔力と霊気の波長パターンもタブレットに記録した。
異変が起きれば対処もできる……かも?
どうかな。
遠隔操作、というか自立型の監視できる使い魔とか。
そういうのを配置すればいいのだろうけど。
エラーが起きたとき。
エーテルリンクが切れたときどうなるのか……少し、怖いな。
悩ましい。
リスクとリターン、というより。
どの部分のリスクを許容するかの話。
あとは、プライマリエリアをどう探索するか。
いや、ステルス潜入は確定なんだけど。
どうしようか?
また虫型の使い魔でも飛ばすか?
タブレットで直接操作しながらなら、なにか起きても即座に消せるからリスクは低め。
もちろん、もし見つかれば。
そこから俺までたどり着く可能性はあるけれど。
それは仕方ない。
プライマリの人間から見れば、秘密を探る俺は完全に敵対者。
簡単には逃がしてはくれまい。
簡単に逃げる手段はあるけれど。
必殺の祝福結界がな!
時の流れが歪んだ世界、追い付けるものなら追い付いてみるがいいさ!
フハハハハ。
はい。
できればスマートに片付けたいね。
だけど俺の頭では推理の閃きは期待できん。
どこかでムチャをする必要は出てくるだろう。
色んなパターンを想定して、手札を増やすくらいはしておこうかな。
◇◇◇
んで。
本日の手合わせ。
卒業検定を控えた戦闘学科のパーティー。
ふむ。
後衛の、術師も添えてバランスがいい。
こういう異世界学園モノって、大抵は魔法使い的な人たちって特権階級扱いされてたりするけれど。
ちゃんと平民もいるんだよな。
代わりに教員がかな~り少ないけれど。
まぁ、平民だろうが貴族だろうが、本人の能力はまた別の問題だからね。
なかなか強い。
卒業手前というだけあり、学生なれど油断できない。
いい動きするよ、ホント。
個人ではなくチームの動き。
まだ祝福の加護に頼るほどではないけれど。
それでも、素手の投げ技縛りプレイではもうムリだな。
と、いうことで。
術式“狡猾なる風の障壁”!
「なんだこりゃ……風の霊気、の……玉?」
「ハンッ! こんなもん避けるまでもないわ! 真っ二つにしてあげるッ!」
ニヤリ。
「え―――まてッ! 触るなッ!!」
「へ? ―――きゃあッ!?」
「「うわぁぁぁッ!?」」
金属片の代わりに圧縮した風の霊気。
霊気風圧クレイモア、いい感じ。
直接相手にダメージは入らない。
1番表層の霊気のガードすら削れちゃいない。
が。
単純に吹っ飛んだ。
うむ。アリだな。
干渉された方への指向性。
あとは魔力や霊気に反応してとかも面白そうだ。
複雑なのはお腹一杯になるけれど。
シンプルなトラップ系は好きだな。
「―――くぅッ! イッテェなちくしょうッ!」
「け、けどネタさえわかればこっちのもんよ!」
「おうッ! 気をつけて対処すれ……ば……対処、を……マジかよ……」
誰がひとつだけだと言った?
「クソがッ! おい、弓と霊術で撃ち落とせないか!?」
「投擲も使うか。あの数では全員で防がないと―――ハッ。防がせるつもりもなし、かよ……」
誰がその場から動かせないと言った?
「……ハハッ。あんたがオレたちの先生で嬉しいぜ、チクショウが」
◇◇◇
いまのところ、無傷で完勝。
自分でも意外。
自己評価よりは魔力を使えているらしい。
ま、学生たちを相手に苦戦する日も遠くはなさそうだけれどね。
今日の、この短時間だけでも。
それなりに研究されてるし。
まだまだ手札は残っているけれど……いやはや、どこまで使わせられるのやら。
……ん?
なんか向こうがザワザワと?
「失礼。途中から拝見させていただきました。実に見事な立ち回りでしたね。貴方ほどの人物が埋もれていたとは、我が国もまだまだ人材発掘の余地があるようですね」
出た。イケメンだ!
竜人のシュッとした美形。
学院の正規教員……か? ネクタイ。しかし少し模様が違うけれど。
「あぁ。自分はプライマリで教鞭を……おっと、名乗るのが遅れてしまいましたね。私はオルトロット・ワーグニーと申します。プライマリでは主に術師として生徒たちと関わっております。初めまして……デュラン、先生。はい。どうぞよろしくお願いいたします」
どうもどうも。
しかし。
わざわざプライマリの先生が?
「セカンダリに所属する貴方が身構える気持ちはわかります。しかし、誤解しないでいただきたい。自分はあくまでも教師ですから。組織の一員として、自由が過ぎる振る舞いは許されませんが……気持ちはいつだって、学院全ての学生たちの教師のつもりです」
ふーん。
そいつは立派な心がけですこと。
組織は組織。
個人は個人。
そういう考え方はキライではないよ。
「ありがとうございます。本当なら貴方にもプライマリの学生たちと会って欲しいところです。よい刺激になるでしょうから。しかし、学院全体の事情が事情ですからね。残念ですが、いつかの機会を楽しみにするしかありませんね」
ずいぶんと評価してくれるじゃないか。
そういうオルトロット先生もかなりの実力者なんじゃないのかな?
なかなか珍しい武器もお持ちじゃないの。
「あぁ、これですか? ハハッ、なんというか……話すのも恥ずかしいのですが。これは学院で管理する遺跡ダンジョンの中で偶然手に入れた物なんです。それこそ、魔獣から命からがら逃げ出した先で、偶然。本当に……幸運でした。実に興味深いナイフですよ。エーテルウェポンの中でもかなり特殊な……実に研究意欲を刺激してくれますね」
うむ。確かに。
かなり複雑な式陣が刻まれてるからね。
それでいて魔力に乱れが一切無い。
実に素晴らしい。
まるで―――
まるで。
女神の祝福が施されているかのように。
「女神の祝福、ですか。フフッ、なるほど。そんな気分もするかもしれません。デュラン先生はロマンチストなんですね。……おっと、少し時間を忘れ過ぎたようです。デュラン先生、もしよろしければ、のちほどゆっくりとお話を」
そうね。
ゆっくりとね。
ははは。
………。
見つけたよ?