ほどほどに学院探検・その1
まずは可能性の薄そうなところから。
見渡しのいい場所。
あるいは、空間の限られた場所。
例えば、グラウンドや中庭。
開け過ぎて隠し事には間違いなく向いていない。
ワンチャンス、地下への入り口がないとも限らないけれど。
不審な魔力や霊気の流れはない。
この世界、なにかカラクリを仕込むとしたら術式やら式陣やらを使うだろう……という判断でね。
もしも転移装置のような物でメッチャ地下へとかだったとしても、魔力とかは察知できるだろう。
……たぶん。
いやぁ、自分が利用したことないから、詳しくは知らんのよね。
自前で用意したのは祝福の加護で作ったヤツだったし。
次。屋上含めた建物の上の階。
空いた空間に秘密の部屋を作るには、ちょっとスペースが足りないだろう。
研究だもんね。
充分な広さを確保しなければ作業も大変だろうし。
ちなみに学生たちは……服作りか。
あとは細かなアクセサリーとか。
なるほど。
必要な素材が軽いもんな。
軽い……軽いか?
布の塊って結構な重さもあると思うけれど。
ん? そうでもない?
運搬用のゴンドラがある?
ほー、どれどれ……おぉ。
ちょっとしたエレベーター。
仕組みは思いの外、物理だったけれど。
まさかの人力。
ただ、ハンドルや滑車とか、そういう部分に式陣が刻まれているようだ。
か弱い女子生徒でもラクラク。
「そういえば、そのスーツ。お買い上げ、ありがとうございますね、センセ♪ よければ替えのシャツなんかも採寸しましょうか?」
オーダーメイドのシャツか。
日本でもそんなん買ったことなかったな。
うむ。
せっかくだからお願いしようかな。
ちょっと楽しみ。
ちなみに授業の一環ということで料金は発生しないらしい。
しかし、個人的にはタダってのはなぁ。
素材も技術もしっかり商品レベル。
なので。
とりあえず食堂の日替わりメニューの食券で支払っておきましょ。
◇◇◇
上の階層、一巡り。
シャツやらネクタイやら。
果てはメガネまで作ってもらえることに。
これも一応、生徒たちの役に立ってる……のかな?
実験台としては……まぁ。
日替わり食券、200枚ほど買うことになったけれど。
俺にとっては大した出費でないけどね。
と、いうワケで次。
1階部分を巡ってみる。
料理系と鍛冶系がメイン。
素材の保管用に大きな倉庫もあるから、秘密の遊び場には困らないだろう。
でもまぁ、ハズレには違いないべ。
生徒の出入りも頻繁だし。
研究私設へのナイショの入り口を作るのには向いてないだろう。
でも一応。
「……と、こんな感じだな。農業科のヤツらが頑張ってくれてるから食材は豊富だし、工作科と霊術科の協力で作られた倉庫で鮮度もバッチリってな!」
うん。
普通にスゴい。
遠目に見てたときはともかく。
近くで見ると、かなりデカイ。
そして、中も広い。
冷蔵棚……あっちは冷凍庫か。
さすがにガラス張りとはいかないらしく、中身がわかるように貼り紙がしてある。
お。
スパイスも豊富じゃまいか。
これだけあるならカレーとかも作れそうだな。
「ん? 先生はカレー平気な人か? ……へぇー、珍しいな。いや、オレもカレーは好きだけどさ。あの独特の匂いとか苦手って人多いじゃん? 作るのにもけっこう気を使うんだよなぁ。特に学生寮の中でなんか作った日にはクレームもんだぜ?」
あら意外。
異世界料理無双の定番なのに。
あー……でも。
言われてみれば。
転生前の日本と大差ない食生活してたけれど、カレーを出すお店とかってほとんど見た覚えがないな。
「もしカレー食いたくなったら料理科に来なよ。カレー愛好会でちょくちょく作るからさ。お値段格安、魔獣の肉を持ってきてくれたらタダでもオッケー。どうよ?」
ソイツはぜひともご相伴に預かりたいね!
できるだけ上等な肉を確保しとこう。