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薬毒

「面白いヤツだよ、ホントにさ。クラスSクランや軍隊と真っ向からケンカしてたヤツと同一人物とは思えないくらいにな」


「彼なりになにか基準があるのでしょうね。どこの国でも魔導院に入れば間違いなく重宝されるだろうに、旅人であることを大事にしているのもきっと」


「権力による自由じゃなく、生き方としての自由か。それで税金気にして抜けられなくなるってのがマヌケだな。アタシは嫌いじゃないけどな」


「そうねぇ。なにかよからぬことを企んで軍に潜り込もうとしているのではなくてよかったわね?」


「………。」


「あら。なにか不満でも?」


「人間性に欠点はなさそうだが、アレはまだまだなにか隠してやがるな。したたかというか、まぁ世界をフラついてるってんだ、切り札なんて何枚仕込んでるかわかんねぇのが当然の態度だろうがよ」


「ふふッ。これだから監視役をアナタに頼んで正解だったわ。そうね、信用とは別に、組織の力に頼ることなく生きるためには必要なことよね」


「孤独を求めて、か。そのわりにはコミュニケーション能力は充分に備わってたけどな。そしてカリスマ性もある」


「あぁ、修了検定の話。あれは仕方ないでしょう? 誰だって生き残らせてくれる指揮官に従いたいものですもの。どれだけ教育で理想を植え付けたところで、原始的な死の恐怖からは勝てないわ」


「そりゃそうだ。しかし、アイツに強化人間計画のこと、話しちまってよかったのか?」


「キメラ」


「………。」


「私の気のせいでなければ、彼はキメラという単語を口にしたわよね? 私が把握している限り、彼はエスタリアに滞在したことは過去に1度もない。なのにどうして計画の開発コードネームを知っていたのかしら。不思議よねぇ?」


「漏れていたか、同じ発想のヤツがいたか」


「別に不思議ではないけれど。もともと保有戦力で連合軍の侵攻を防げないからこその提言でしょう? なら、それを却下したのならば、どうやって連合軍を防ぎきったのか。その辺りの資料が何故かキレイに見つからないのよね」


「そりゃ、都合の悪い出来事があったんだろうさ。わざわざ自分たちの悪事を教訓として残しておこうなんて、そんな素晴らしい意識の持ち主なんてそうそういるかよ」


「普通はそうよねぇ。だからこそ、失敗を隠さず残した話が美談として伝わるのよねぇ。その内容が、冷静に分析すれば防げた事態を中途半端な判断で手遅れにしただけのことだったとしても」


「大将閣下殿はその手の話、トコトン嫌いだよな」


「えぇ、キライよ? そりゃあね、勝負となれば優劣がつくのは当たり前だし、人間だもの、失敗しないで生きている人なんて誰一人としていないでしょうけど……仮にも南方領主で指揮官ですもの。それを理由に甘えが許される立場ではないのよねぇ」


「実利優先か。世知辛いねぇ?」


「人生のスパイスとしては刺激的で楽しいわよ? 自分で選んだ道だもの、やっぱり楽しいと思うから。と、いうことでグリージニア大尉。楽しくないお仕事をアナタにお願いしてもいいかしら?」


「へぃへぃ。どうぞご命令を閣下」


「あのね? 最近季節の変わり目なせいか()()()()()が少しず~つ増えているのよね~。アナタにもお掃除を手伝ってもらってもいいかしら? 駆除は済んでいるから、後片付けだけお願いしたいの」


「ハッ。 さすがは閣下、小さな虫1匹すらお見逃しなくて惚れ惚れだぜ。人員は?」


「少なくても大丈夫。虫だけにもう虫の息、なんちゃって♪」


「フツーにコエーよ。それじゃ」


「はい、行ってらっしゃい」


「………なぁ」


「なぁに?」


「なんでもお見通しの閣下に聞きてぇことがあるんだがよ」


「あら、ずいぶん持ち上げてくれるのね。そんなふうに先回りされてしまって、私に答えられる質問かしら?」


「なんで革命派はデュラン・ダールに……E-7381に興味を持ったんだろうな」


「………。」


「まぁ? 召喚式陣つったか? それが魔導院の連中がよ、大喜びしてたのは知ってる。だから革命派が興味を持つのはわからなくもねぇ。わからなくもねぇが……あのナイフの情報はアンタの命令で限界ギリギリまで締め付けたよな?」


「えぇ。もちろん覚えているわ」


「未知の式陣が刻まれた……エーテルウェポンの上位互換、あるいはもっと別次元の―――オリジナルかもしれねぇってよ。ソイツがピンポイントで盗まれたってのはおもしれぇ偶然だよな?」


「あら、中央にだって優秀な術師はいるもの。あれほどの逸品を見逃すとは思えないけれど」


「そう思うか?」


「そう思うわ」




()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




「……ついうっかり忘れていたわ、では納得してくれなさそうね」


「ムリだな。仮にも南方領主で指揮官ですものなぁ?」


「そう。ならアナタの望んでいるでしょう答えを聞かせてあげるわ。それが1番、効率的だったから。どう? 満足してくれたかしら?」


「あぁ、満足だ。テメェ、ろくな死に方しねぇぜ。じゃあな。アタシはしっかり命令を遂行してくるぜ、大将閣下殿」


「えぇ、よろしくね?」


 ………。


 ……。


 …。




「本当に不思議ね。そんなに効率を求めるのが気に入らないのかしら? まさか部下たちに限界以上の労働を命令するワケにはいかないし、他に方法がなかっただけなのに。まぁ……そういう人間らしさは大切なことなのよね、きっと」


(もっとも、レグルナルヴァのお嬢ちゃんの行動は想定していなかったけれど。あの子、わざわざ現場まで足を運ぶような性格だったかしら?)


(部下たちの暴走を管理できていないところはいかにも彼女らしくて私は好きだけれど、あんな……不当な暴力なんて。どう考えても内部の不興を買うようなマネ、そんなことをするほど無能ではなかったのに)


(強化人間計画と革命派の繋がりはほぼ確定しているけれど、他にも……もしかしなくても、私の把握できないような手札を? だとすれば、なおさらデュラン君の活躍に期待するしかないわねぇ)




「エスタリアのためでもなく、もちろん私のためでもなく。なにも知らない人々の平和のために。それなら彼もきっと納得してくれるわよね? だから、がんばってね? ―――()()()()()()()()クン♪」

見習い軍人編・前半終了。

舞台は1度、次の国へ。


もちろん見習い編が終わったとしても軍人ライフは始まりません。

組織での活動は向いていないなと、本人も痛感しているでしょう。


それに、どこかに完全に腰を落ち着けてしまうとタイトル詐欺になってしまいますからネ!

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