コソコソと大義名分を求めて・その2
マルライツァー少将閣下の脳内プラン。
俺がリハビリ完了と同時に除隊申請する前提。
その後、改めて……もちろん内部のゴタゴタは説明しないで、グラナーダ領で“一時的に”迎える。
この“一時的に”っていうのがポイント。
旅人だし? いつでも出ていって大丈夫だよ、と。
引き留めはしないけれど、できればちょっと力を貸してくれよ、と。
「まさかキサマが税金を気にして義務を果たそうなどと考えるとは思いもしなかった。これは完全に私の偏見だな。旅人など誰も彼も自由人でしかないと。もちろん、それを否定はせんよ。自由と引き換えに失ったもの、望んでも得ることができんものもあるだろう」
失ったもの。
俺の場合は日本での日々。
女神の力を持ってしても帰ることは。
まったく気にしてないかと言われれば、ちょっと……ね?
「ようはキサマの人間性を侮っていたワケだ。その点は間違いなく私の失態だ。安易に軍の中に招き入れたことについては謝罪する。すまなかった」
深く頭を下げる少将殿。
まぁまぁ。
どうか頭を上げてくださいな。
その態度は心に刺さっちゃう。
女神の加護あるしと軍隊ナメて安易に参加して後悔したバカが目の前にいますよ~?
んで。
なかなか出てこないし、いっそ迎えに行こうかと思っていたところに例の……蹴り姫さま事件。
「キサマが堪え性のある人間でなければ……と、肝を冷やしたものだ。幻想種なとどいう規格外と戦える術師に、国の中枢がある中央区で暴れられたらと思うと―――あれほど全身の血の気が引いたのは、クソ新兵呼ばわりされていたころの初陣以来だよ」
たぶん。
チート縛りをしていなかったら。
あとは……手札を迂闊に見せたくなかったし。
ただ。
耐えたことと許すかは別ッスよ?
「当然だな。キサマの私物を盗み出したことはもちろん、エスタリアの軍法に上官が下士官等に自由に暴力を振るって良しなどというフザけた規則は存在しない。レグルナルヴァ閣下は現国家元首殿の御息女ではあるが、だからといって特権は認められていない。にもかかわらず現場を、それも新兵訓練の現場での横暴な振る舞いにしかもそれを不敬罪などという最も権力者が乱用してはならんもので正当化して黙らせるなどという莫迦げたことが罷り通るなど一軍人として許せるワケがないだろうッ!!!」
うぉッ!?
「―――ハッ!? す、すまんッ! つい……いや、仮にも上級将校の身分で部下を相手に感情的に怒鳴り散らすなど」
鬼のような剣幕で怒鳴ったかと思えば。
いきなり冷静になってオロオロと。
……そっか。そうだよな。
軍人たって、少将とかいう地位にあったって人間だもんな。
そりゃあイライラだってするよな。
テーブル殴った音がデカくてちょっとビクッとしちゃったけど。
「……話がずれたな。えー、なんだ……そう、強化人間計画についての調査を頼みはしたが、ストディウムにキサマの私物が流れている可能性があり、それが軍の過失である以上、そちらを優先してくれても文句は言わん。もちろん国内も我々が探しはするが……情けない話だが、あまり期待は」
んー。
そっちの責任なんだからそっちでちゃんと探せよ、と。
本当なら言ってもいいんだろうけど。
心情的に、なぁ?
俺のナイフ1本とは比べ物にならないくらい苦労してるみたいだし。
そこは仕方ない、と割り切ってもいいかな。
ただし革命派。テメーはダメだ。
「あとは……最悪の想定として、キサマがストディウムにいる間に革命派が動いた場合だ。そのときは」
そのときは?
「―――せめて、兵士どもの命だけでも見逃してくれないだろうか?」
軍隊の命令。
よくある話だね。
責任は、命令を実行した兵士ではなく。
命令した上の人間に。
うん。
それはわかるけど。
その言い方だとさ……なに? 俺が軍隊まるごと返り討ちにする前提なの?
……そんな「お前は何を言ってるんだ」みたいな顔。
「キサマはなにを言ってるんだ? そのために被害届を出さなかったのではないのか? キサマ自身の手で盗人と関係者を始末するつもりだったのだろう?」
物騒ッ!?