コソコソと大義名分を求めて・その1
お部屋の移動。
マルライツァー少将殿の執務室。
さっきまでの部屋もそうだけど、俺がイメージする軍隊の偉い人の部屋に比べると質素だね。
そーゆーところ、キライじゃないわ!
「1番可能性が高いのはストディウムの中央にある魔導学院だ。あの国は学院の権力が王族のそれを凌駕しているから、悪巧みをするなら学院が主導だろう。まぁ、南西に術師協会の総本山であるタマユラの国があるからな。どうしても術師の権限が―――おっと。術師であるキサマにこの辺りの説明は野暮だったな」
そんなことないですよー。
説明してくれていいですよー。
ふむ。
タマユラの国。
旅の術師の設定をより強固にするために、少し調べないとだな。
個人で研究してるとはいえ、あまりにも世間を知らないのでは格好悪いし。
そして術師協会の総本山が―――あれ? 術式協会だっけ?
「あぁ、あれは地域と方針で呼び方が違うらしいな。研究色が強いところでは術式協会だったか? 同じ組織で呼び名がふたつ。どうにも身内が分かれて揉めてるせいで、下衆の勘繰りをしてしまうがな!」
あっはっは! たしかに。
……閣下、俺が前にいた世界ではそれを“フラグ”と申します。
さて。
そんなワケで魔導学院を家捜しすっぺと。
「あそこは臨時講師を常に募集していたはずだ。日雇いというより、講義1回ごとの時間給与だったかでな。もちろん正式に教員として潜り込むことも可能ではあるだろうが……キサマの性格を考えると止めたほうがいいだろうな」
それはもう!
今回の一件でこりごりでさぁ。
しかも、学校系となればなおさら。
生徒たちへの責任は軽くない。軽くないよ?
せっかくチートだし、先生でもやってみようかな~?
とか。
私は遠慮しておきます。
いや、まぁ。
本気でやるなら、それはそれで楽しめるのかもしれないけれどさ。
やっぱり気ままな旅人でいたいね!
「資料はこれだ。残念ながら、特別面白いような内容ではない。ストディウムとの交流はエバルト領の仕事だからな。下手に干渉するワケにはいかんのだ」
手出し口出しするのなら。
自分もされても文句は言えない。
いまはなおさら。
西方と東方は革命派が主流になりつつあるとのこと。
ちなみに北は?
保守派。ほー。
ブルム帝国と常にビシバシやってるんだし、むしろ革命派に賛成してそうなもんだけど。
積極的防衛策、だっけ?
「北部の皆は現実が見えているからな。我がエスタリアの軍は侵攻戦のノウハウがほとんど存在しない。専守防衛だからこその百戦錬磨だ」
自分たちのフィールドでの戦いだからこそ。
有利な条件を充分に整えているからこその勝利。
地の利をわざわざ自分から棄てるか?
そりゃ賛成しないわ。
……やっぱり、革命派。アホではなかろうか?
「それから、キサマの盗まれたナイフだがな。もしかしたらストディウムまで流れている可能性もある。あれは魔導の研究者にとって垂涎の逸品だからな」
仮定の話。
ストディウムとエスタリア革命派が協力して強化人間について研究している場合もある。
もちろんこんな計画、大手を振って堂々とできるワケがない。
危ない橋を渡らせるなら。
そりゃあね、それなりのエサで釣る必要があるってか。
しかし。
それなら、攻め込むようなことしなくてよくね?
だって共犯者なんだべ?
「これはまだ我々の推測でしかないが、研究が成功したら武力で奪うつもりなのかもしれん。ストディウムは中立を宣言しているが、だからこそこういう危険な研究をしているからと大義名分を掲げてな」
アイツら、こんなワルいことしてたんすよッ!
先に大声上げたもん勝ち。
正義の名のもとに堂々と研究成果をゲットってか。
なるほどね~。
………。
中立国ったって、軍隊くらいあるだろうに。
自分の身を守る手段もなしに中立は保てんやろ。
勝てる前提での計画。
いやいや、もしそうなら順番が違うだろう。
他所の地域にケンカ売るために戦力を増やそうって、それで強化人間を造ろうとしてるなら。
先に手出ししたらダメだと思うんですけど。
「どの程度計画が、研究が進んでいるのかによっては、もしかしたらプロトタイプくらいは革命派の手元にあるのかもしれん。詳しいことは、南方は革命派の浸透を防ぐのに精一杯で奴らの手の内を探る余裕がなくてな。そうでなければ、なぜ外部の人間であるキサマに危険なマネを押し付けるものか」
言われてみれば。
普通はこんなヤベェこと、俺みたいなのに持ちかけない。
もとから交流があったのならともかく。
いくら能力があるからといって、国の一大事を任せるほどの信用を得るような出来事はなかったはず。
つまり、それだけ手段を選べない状態ってことか。
「その通りだ。それに、私の中の計画では、もっと平和的にキサマと協力関係を結ぶ予定だったからな」
ほぅ?