ちょっと黒い内部の話・その3
国家にはそれぞれ法律がある。
が。
地方ごとに異なる事情全てをカバーしていないことが多い。
そりゃそうだろう。
地域が変われば事情もかわる。
その事情に応じて組まれたのが領地法。
なるほどねぇ。
日本だって、都道府県でそれぞれ条例あるもんな。
で。エスタリアの場合。
敵対国でも最大のブルム帝国、そこと隣接している北方ガルバリン領が1番厳しく。
次いで4国同盟と睨み合いしてる東方ライオラット領が。
中立かつ友好国のストディウムと交流のある西方エバルト領は比較的緩く。
同盟国のクーライル連邦と交易している南方グラナーダ領はかな~りあまあま。
「エスタリアに限らず、同盟国や友好国と隣接している領地は規則が緩いのが普通よ? アナタが立ち寄ったコルキュアスやプロミネーズも、旅人であるアナタを簡単に迎えてくれたでしょう?」
あー、そういえばそのふたつも友好国のお隣さんか。
どっちも偶然そこにたどり着いただけだったんだよな。
なぜ規則が甘いのか。
すべては政治的な理由から。
同盟国との境目に戦力を置きすぎて、疑われるのを防ぐため。
実は侵攻戦の準備じゃないかってね。
で。
その流れ。
軍の規則があんまり厳しいと、そこを突っつかれるそうだ。
そんな難癖みたいなことを? と、思うけど。
そのへんが価値観とか感覚の違いなんだろうな。
平和な日本の、一般人には特にわからんよね。
「ま、よくある話ではあるな。旅人もそうだけどよ、成り立ての行商人とかも領地法でトラブルってのは。説明が遅れたのはアタシのミスだけど」
現地の人はそれが当たり前だからね。
ついうっかり。
わかる~☆
でも俺としては初日に説明欲しかったな!
……はぁ。
空回りが酷かったけど、出口が見えただけマシだなぁ。
領地法か。
旅人気取りでフラフラしておきながら、法律を気にしてなかったのは致命的。
それに関しては俺が甘かった。
どうせ女神チートあるし……と。
慢心案件です。
あと、組織に所属すること。
日本にいたときだって、会社で働いて金を貰ってたのにな。
以前は当たり前に、わざわざ意識するほどのことでもなかった給金に対する責任とか。
一緒に働く同僚とかに迷惑かけないように……とかも。
完全にすっぽ抜けてやんの。
いっそ割り切れば楽なんだろうな。
旅の恥はかき捨て。
どうせ異世界なんだし、と。
でもな~、あんまり開き直ってチート振り撒くのもな~。
ちょっとお下品ではありませんのことよ?
おっと。
また自分の世界に酔いしれてしまった。
取り引き。
うん、乗ってみようじゃないか。
平和的に旅人に戻れるならアリでしょう。
「ふふ、ありがとう。あら、でもよく考えたら取り引きの材料としては不正よね。だってアナタが自由になる権利は最初から認められていたんだもの。そうねぇ~、なにか……そうだわッ!」
いかにも閃いた!
そんな笑顔のヴェンティ閣下。
上品で可愛げあるけど。
曲者っぽい知将キャラの閃いたはアブねぇよな?
「これから、アナタがなにか困ったことがあれば。そのときは遠慮なく相談してちょうだいな。なんでもとは言えないけれども、私の力で解決できるなら手を貸すわ。もちろん、倫理と尊厳に反しない範囲の中で、ね?」
わぉ。
ワイルドカード、ゲットだぜ!
これは素直にありがたい。
こちとら武力と幸運には自信がある。
けど、知力と政治と統率その他そっち系はからっきし。
これは助かる。
……ちょっと腹黒そうなのは、先入観だよな? な!
「さて、国の厄介事を引き受けてくれるというならば、しっかりと説明すべきこともある。デュラン・ダール、ここからは私が説明しよう。先に言っておくが、あくまで旅の術師のキサマへの依頼だからな。後出しで不利になるような条件は考えておらんから安心しろ」