ちょっと黒い内部の話・その2
「取り引きといっても、1番の目的は果たしてしまったようなものなのよね。デュラン君、アナタが革命派に参加するつもりがないことを確認したかったのよ」
逆に聞きたいよね。
その可能性を考えた経緯を。
ふむ?
軍人としては、可能性を潰すまでは警戒する必要が?
立場上、楽観視するワケには。
なるほど。
そう言われるとチクチク反論するのはちと違うな。
ほんで。
1番の、があるってことは2番もあるのかな?
「ふふッ、ご明察。アナタには魔導学院都市ストディウムの様子を見てきて欲しいの。本当なら私の部下を潜り込ませたいところなんだけど、人員が足りてなくて。単独行動に慣れていて、かつ心配しなくていい程度の戦闘力を持つ……と、なるとなかなか数がねぇ」
単独行動?
超☆得意分野ですが?
なんの様子見かは聞くまでもないね。
強化人間計画だね。
一応、当時のエスタリアとしてはメモ書きレベルのペーパープランだったらしい。
なのですぐに廃棄された、という記録が残っている。
が。
真実はどうかなんてわからない。
それに、魔導学院都市だもんな。
色んな研究もしてるだろうしな。
可能性はわからない。
ふむ。
それで、飴玉はどんなのを用意してくれているのかな?
「世界を自由に旅しながら術式の研究を。そんな生活をしていたアナタには、エスタリアの軍服は窮屈なのではないかしら? どうせ脱ぐのなら、雑に散らかすよりもちゃんとトルソーにでも着せておいたほうが見栄えもいいわよね?」
そうきたか~。
やってくれるぜ大将閣下。
「と、いうかな? デュラン・ダール。キサマ、なぜ最後まで訓練兵団に残っていたのだ? リハビリが済んだ時点で除隊申請を出せばよかったではないか。フィンブルムやルジャナの行動を見るに、キサマは組織に属するのは……特に権力の徒となるのは好まぬように見えたのだがな」
考えなかったか、と言われれば。
もちろん考えましたとも。
ただ。
問題がひとつ、ありまして。
訓練生の衣食住。
あれらがナニで賄われていたか。
税金です。
市民の皆さんからの税金です。
税ッ! 金ッ!
まさかそれでメシ食って布団で眠ってさ?
それでリハビリ終わったらハイさよなら~では不義理もいいところでしょう。
そんなお天道様に顔向けできないようなことを―――おや?
「税金……税金てお前……」
閣下?
「ゴホンッ! まぁ、なんだ。キサマのその感性は称賛に値する。事実、訓練生の中には無駄飯喰らいで怠ける莫迦者が存在するからな。もちろん特別指導の対象だが」
でしょう?
つまり。
訓練が終わった時点の俺、市民のみなさんに借金状態。
俺の予定では。
バリバリ働いて。
それこそ、他の人たちの倍くらいは働いてね。
訓練中に世話になったぶんのお返しができたら終わり!
ってな感じでね。
「あらあら。ずいぶん義理堅いのね? 旅人さんにしては珍しいのではないかしら。そういうことなら、ちょうどよかったかもしれないわね。訓練中にアナタに使われた費用に対して、強化人間計画の阻止はむしろコチラの利が大きすぎるくらいだもの」
対等ではないとヴェンティ閣下。
俺としては、それぐらいでちょうどいいと思うけどね。
だって、俺の身勝手な都合で軍を辞める計画してたんだし。
ただ。
どうしても気になることが。
というより、そのせいで俺も悩んでいることが。
修了検定の、あの日。
リーフェルジルヴァ特務大将が発した言葉。
そうそう簡単には軍を抜けることはできないのでは?
「……そうねぇ。たしかに気軽に退役してもらうワケにはいかないのよねぇ。北方ガルバリン領の領地法の適用地域ではね」
でしょう?
だから、いくら取り引きとはいえ―――領地法?
おっと。
グリージニア隊長が笑っておられる。
あ。
やな予感~。
「だっはっは! あぁ、まぁ、領地法についての説明は着任して任務に慣れてからのパターンが多いからな。アタシもすっかり忘れてたぜ。よかったな~デュラン、南方配属で。1週間も真面目に働いてりゃあ、手続きひとつで自由の身だぜ?」
なんですとぉッ!?




