ちょっと黒い内部の話・その1
200年くらい前の出来事。
当時、ブルム帝国と4国同盟が仲良くエスタリアに侵攻してきたときのこと。
これはイカンと防衛するも、相手は連合軍。
エスタリアだけでは防ぎきれない。
辛うじて初動を乗り切ったものの、戦力はかな~りピンチ。
そんなとき提案されたのが“強化人間計画”だ。
「魔導水晶を用いた魔力強化をより発展させたレベルアップの方法……魔獣の身体能力、戦闘能力をそのまま人間に移植させるための計画よ」
やっぱりろくでもないヤツだったよ!
つまりは人間と魔獣のキメラ作って兵隊にしようってことでしょ?
そんなん成功しても失敗しても悲劇しか生まないって!
……おや。
ちょっと意外、当時の国家元首さま。
それはそれは大激怒して却下したと?
連合の兵士を退けた次は、化物と成り果てた同胞と殺し合うのかと。
まとも!
ちなみに発案者はこっぴどく叱られはしたものの、それ以上のお咎めは無し。
国を護るための発言だったことに違いはなく、そのひと言でこれまでの貢献は無かったことにはならないと。
……まとも? まぁ温情だな。
それで、その強化人間計画に関する取り引きってナニよ。
「いまのエスタリアの状況って、少し当時に近いものがあるのよねぇ。北も東も不穏で不穏で……本当に、困っちゃうわよね?」
それは知っている。
そのせいで南方領地が人手不足って聞かされてるし。
「でね? 困ったことに、革命派の子たちってば、西にもちょっかいかけようとしてるのよ? 信じられる? この状態からさらに敵を増やそうとしてるのよ? ヒドイと思わない?」
自ら追い込まれいくというのか……。
いや。
これは俺でも展開が読めるぞ。
革命派、敵を増やしても勝てると思ってるから火の粉を飛ばそうとしてる。
なら、なぜ勝てると思っているのか?
そこで例の“強化人間計画”ですよ!
革命派の中で独自に研究したか。
あるいは、実は秘密裏に実行されていたのを復活させたか。
「もうひとつ。侵攻しようとしている西国に…ストディウムに強化人間計画に関わるなにかが存在していて、それを欲しがっている可能性もあるわ」
自分たちが思い付いたことを、他の誰かが思い付いたって不思議ではない、と。
強力な手札があるから攻めるのではなく、強力な手札を求めて攻める。
……素人判断だけどさ。
もしもそうなら。
それ、いよいよもってアホじゃなかろうか?
包囲されそう! ピンチでヤバイ!
でもきっと向こうに逆転できるお宝があるから奪いに行こうぜ!
アホじゃなかろうか?
多方面に迷惑過ぎんだろ。
「革命を考える人なんて、いつでもそんなモノでしょう。夢物語に支配されて過激になって。しかも自分の行動はなんでも正当化しちゃうからタチが悪いこと。例えば……窃盗行為とか」
真剣な目でコチラを見てくるヴェンティ閣下。
やっぱり知ってるのか。
こういう知的な年配キャラはなんでもお見通し。
定番だね。
しかし、それなら助けてくれてもよくない?
「残念だけど、グラナーダ領の秩序を護るので精一杯なのよ。革命派に参加する子たちがね? いろんな部署から階級から多くて多くて。積極的で自主的なのはいいのだけれど、もうちょっと冷静さも身につけてほしかったわねぇ」
さて、どうしたものか。
取り引きを、とヴェンティ大将殿は仰りましたワケですが。
つまりは、いまから俺に頼み事をしてくるワケだ。
んで。
向こうもなにか、俺に用意してくれているのだろう。
命令ではないって念押ししてきたし。
でも、かなりの大事な話になっている。
エスタリア、想像以上にガッタガタやんけ。
訓練中の……第241訓練兵団の教官たちがまともだったのは、相当な幸運だったのかな?
偶然って素晴らしい。
うーむ。
ここまで巻き込まれるくらいなら、いますぐ逃げ出したほうが賢いのかもしれない。
けど。
連想してしまった。
化物の能力を持つ、人の姿をしたモノ。
なにせこちとら日本人、空想物語の生産量はトップクラスの環境で過ごしてきたからね。
どうしてもアレに、幻想種のお嬢様につながる色んなルートがね。
もうね、パッと思い付いちゃうよね!
まぁ、さすがにあのレベルが量産されるとは思わないけれど。
んー。
あんまり大規模な戦争が起きると、俺も異世界生活を楽しめないよな……。
強化人間計画。
これ関係は俺の中で完全に“敵”認定でいいべ。
表面化する前に潰す。
女神の加護を貰ってる俺なら。
うむ。
病気も治療より予防が大事って、誰かも言ってたからね!
ちょ~とばかし、手洗い予防措置になるかもしれないけど。
クックック……。
勘違いしないでよね?
あくまで俺の心の平穏のためで、世界の平和のことなんてどうでもいいんだからねッ!
『あっはっはッ! 僅かにでも、ようやくいつものおヌシらしさが垣間見えてきておるな。心の平穏。結構結構ッ! 便利使いされるのは気に入らんが、わざわざ獲物の情報をくれるのであれば、な。掌の上で踊るもまた、一興か?』
俺らしさとやらがなにかは知らんけど。
取り引きとやら、話を聞こうかという気分くらいになったのは確か。
まずはそれからだな。