ぼちぼち着任・南方グラナーダ領にて
とりあえず一言いいッスかね?
少将閣下ってけっこうヒマなんでありますか?
「まさか。腐っても私は将帥だぞ? もちろん多忙に決まっている。だが、それはキサマら新兵の出迎えを蔑ろにしてよい理由にはならんというだけだ。まぁ、下士官の多くが北と東に持っていかれた弊害でもあるがな」
第241訓練兵団のメンバー、まとめて南方領に配属。
本来ならそんなことはならないらしい。
今回はタイミングが悪かった……いや、良かったのかな?
見慣れた仲間と一緒なのは心強いし。
えーと、アレだ。
情勢の変化に合わせての戦力の振り分けね。
南方は同盟国との貿易が主な仕事だから……と、北方と東方に兵力を持っていかれたと。
んで。それに対して、それならばせめて新兵くらいよこせと。
言葉にすると簡単だけど、きっと激しい交渉というか攻防があったんだろうね。
でも、だからって出迎えを少将御自らってどうなのよ?
「グラナーダ領はそういう方向性なのだから仕方ない。各区長どころか、領主たる大将閣下とて今朝早くからスコップ片手に排水溝の掃除に出かけているからな。こうして軍服に身を包んでキサマら兵どもの前に立っているだけ、私はまだ軍人らしいだろう?」
フフンッ、と鼻を鳴らすマルライツァー閣下。
上が働き者なのは個人的には好印象なんだけどさ。
それって組織としてはどうなんだろう……。
いや。
きっとこれがエスタリア流なんだろう。
考えるのは時間のムダだな!
現在、とりあえずは全員が中央区に集まっている。
で、ここから東西南北のそれぞれの区域に振り分けられることに。
俺は……中央区か。
警邏部隊配属。
隊長は……おやまぁ。
「いようッ! やっぱり合格してたか。久しぶりだな!」
鬼の指導員、グリージニア戦闘教官殿ではあ~りませんか!
フフフ。これは幸先よろしいですなぁ~。
リベンジマッチが楽しみだぜ!
………。
うん。
俺、1度も勝ててないのよね。
祝福の加護に頼りきりな俺が弱かったのか。
それともグリージニア教官が強かったのか。
あるいは両方か。
連戦連敗だったけれど、自分より強い相手との訓練は実に充実していたね!
「………ところでよぉ、ひとついいか? なんで顔の識別番号、消してねぇんだ?」
てへッ。
これもまぁ、ちょっとした意趣返しのひとつ。
本来なら、私物の返却に合わせて番号を返す。
が。
俺は私物の全てを返却してもらってない。
だから番号も返さない。
あと、なんか“いかにも”って感じでカッコいいじゃん?
番号呼び。
わからない人には絶対わからない感性だろうね!
「まぁ、目印としては覚えやすくてよろしいのではありませんか? わたくしたちも、ずっとフェイスさんと呼んでいましたし」
いまはもう名前、知ってるのにな。
いまだにデュランと呼ぶのはルームメイトの4人だけだよ。
慣れって怖いねぇ。
一通り説明と顔合わせ。
そしてゾロゾロ宿舎へゴー。
狭いながらも個室。
さすがにトイレやシャワーは共同か。
食堂は24時間営業。
不規則な時間の任務でも安心ですね。
ふむ。
寝床がプライベート感増えた以外、そんなに訓練中と変わらないっぽい?
さて。
中央区組は明日から即任務。
もちろん俺も。
まずはパトロールで街を覚えるところから。
仕事とはいえ、ちょっと楽しみだね!