ちゃっかり巻き込まれていた様子
「……なにか、問題でもありましたか?」
あー、えー、うん。
いやぁ、問題どころか、ねぇ?
うん。
さすがにこれを黙っているワケにはいかないですよ。
「………はぁ。よりよって管理私物の紛失ですか」
お姉さん、頭を押さえてため息。
一応聞くけど、誰かがうっかりどこかに落としたとかそういうパターンは?
「残念ながら、その可能性は低いでしょう。訓練兵団への参加希望者の私物の管理は信用問題に直結します。故に、その管理・運営にはかなり上の階級の軍人も関わっているくらいです。軍全体の不信につながりますからね。かなり厳重に、慎重に。……いまの貴方の前では説得力は皆無ですが」
管理に気を使ってただろうことは疑ってないけれど。
しかし現実に俺のナイフが失くなっているワケで。
と、いうことは?
「意図的に、何者かが貴方の、その、ナイフですか? それを盗み出したということです。外部の犯行の可能性はかなり低いでしょう。訓練期間中、階級の高い人物の不興を買うような行動に覚えは?」
ふむ。
階級の高い人物に。
思いっきり心当たりがあるね!
レグルナルヴァ特務大将殿ですな!
「……あぁ、あの方ですか……被害者の貴方にしてみれば見苦しい言い訳にしか聞こえないでしょうが、レグルナルヴァ閣下は苛烈な方ではありますが、卑劣な方ではありません。閣下がこのような命令を下したとは」
ふーむ?
さて、今回ならどんなパターンがあるだろうか?
前提条件、このお姉さんの言葉を信じるとして。
そう、だな……。
特務大将殿との一件のあと、調子に乗るなと絡まれたっけ。
あれがアイツらの独断だったとして~。
偉い人が目の敵にしたから、それに便乗してみた?
あるいは、忠誠心のアピール。
閣下への無礼者を成敗して見せましたよ的な。
その延長として。
フローライト、献上品にでもされたかな?
特務大将殿が本当に卑劣な方でないのなら、むしろ逆効果だと思うけれど。
もしかしなくても窃盗罪でしょうに。
「仕方ありません。本来ならば3等武官に聞かせる話ではありませんが、当事者ですからね。実は最近、軍の中に行動派……いえ、過激派といえるような派閥が誕生しまして。その筆頭がレグルナルヴァ閣下なのですが……」
もう出だしの時点で耳を塞ぎたい。
ダメ? もう巻き込まれてる?
なんてこったい。
まぁ、話の内容そのものは目新しいものではない。
国力が充分にある状態がしばらく続いたことで欲が出てきたのだろう。
積極的防衛策、と銘打っている新しい方針。
早い話が“ヤられる前にヤれ”の精神ですね!
そんな方針に賛成するのは、やはり血気盛んな連中。
なるほど。
ソイツらに狙われたんだな。
暴走気味の、取り巻きたちのアピール合戦の餌食。
迷惑だなぁ~。
……ふむ。
正直なところ、あのナイフはお気に入りなので取り戻したい。
そもそも、盗まれて泣き寝入りってのが面白くない。
面白くないんだけれど。
これ、騒ぎを大きくするとそれはそれで面倒なヤツだよ?
どうしようか?
俺はどうしたい?
……まぁ、選択肢なんてあって無いようなもんだけど。
「黙して引き下がる、ですか。貴方がそれで納得できるのなら……いえ、感謝します。ブルム帝国に加えて4国同盟まで不穏な動きを見せるいまは内輪揉めを表面化させるワケにはいきません」
悔しそうに頭を下げるお姉さん。
俺よりよっぽど納得できてなくない? 大丈夫?
これはアレだな。
きっと、この国のことが好きで、軍人であることに誇りを持ってるんだろうな。
と、いうワケで様子見。あるいは日和見に決定!
如何せん、俺はまだまだエスタリアについて知らないことが多すぎる。
一般教養レベルの話は座学でちょこちょこやったけど。
派閥争い。ヤな響きだねー。
まぁ……これはこれでね。
鍛練のための軍隊参加だったけど、ちょっとした楽しみができたと思えばいい。
俺は聖人の類いじゃないからな。
軍部全体を引っ掻き回してやろうとまでは思わないけれど、やられっぱなしは癪だもの。
いざとなれば女神チートもあるし。にひひ。
のんびりと意趣返し、考えようか!
……国が混乱しない程度にね。それ重要。