ビシッと問答無用の命令
「リーフェルジルヴァ閣下、彼らがそうです」
「まぁ……彼らが。まだ検定期間の半分にも満たないのに合格するなんて。ふふ……よほど、優秀なのですね?」
ぞくり。
うわ……この人、妹さんよりヤッバーイ……。
顔は微笑んでる。
声も柔らかい。
けれど……危ない。
感覚的には1回目のラービーナ戦のとき。
あのときの空気に近いものを感じる。
能力も……もちろん魔力も霊気も強いし、そうとう曲者だぞ。たぶん。
アカン。
いますぐこの場を立ち去りてぇ。
立場的に親衛隊っぽい人が。
訓練生たちの合格についてコメントして。
うんうんと笑顔で頷く閣下。
偉い人に覚えてもらえるかもってんで、訓練生は得意げにアレコレ話している。
俺たちから奪ったことは当然ナイショ。
架空の武勇伝をドヤ顔で自慢していらっしゃる。
もちろんそれを黙って見ていられるワケがない―――かもしれないけど、ちょっちストップ。
まぁまぁ。
みんな、落ち着けって。
いや、マジで。
一通り会話が終わって。
「……閣下、もうよろしいかと」
「そうですね。それでは皆さん、早速ですが皆さんは現刻より私の軍団の一員として迎え入れることにします。これは特務大将としての正式な命令です」
おぉッ! と、盛り上がる面々。
特務大将直々のお誘いだからね。
そりゃ嬉しいだろう。
普通なら。
「それでは直ぐにでも北方ガルバリン領に向かうとしましょう。最前線はいつでも人手不足ですから、皆さんのように優秀な戦士は大歓迎ですよ?」
騒ぎがピタリと止まる。
「あ、あの~、閣下? オレら……いえ、自分たちは閣下の軍団に配属されるんスよね?」
「ええ。その通りですよ」
「いや、でも、最前線って……」
「ええ。ですから、私の軍団の兵士として、ともに最前線でブルム帝国と戦ってもらいます。もちろん帝国軍だけでなく、周囲の治安維持のために魔獣の討伐や迷宮攻略もお願いしますね?」
ニコニコ笑顔の閣下。
笑顔の消えた訓練生……いや、アイツらはもう正規兵か。
たぶん、油断してたな。
偉い人の軍団だから。
安全な中央でダラダラできるとか考えたんじゃないかな。
「あぁ、先に言っておきますが、もちろん皆さんに拒否権はありませんよ?」
「なッ!? まて! ……ください! それは約束が違います! いつでも自由に辞めてもいいって……ッ!」
「はい。訓練に耐えられないようであれば、いつでも辞めていいと。エスタリア軍部ではソレをたしかに認めています。が、皆さんはもう訓練生ではなく正規兵ですから。……私の言いたいことがわかりますか? 気に入らない仕事があればいつでも軍を辞められる、なんてふざけた自由を認めるワケがないでしょう?」
「「―――ッ!?」」
絶句しておりますな。
いや~、そもそも。
軍に所属した以上、そりゃ戦争に駆り出される可能性はあるだろうに。
アイツら、どういう心情で訓練兵団に参加したんだろうか?
俺なんか参加して2日目くらいで後悔してたのに。
どうやって軍を抜け出そうかって。
なるべく考えないように目を逸らしてただけで。
一応、当面はエスタリアの利益になるようがんばるつもりだけどさ。
「もちろん彼らは正規兵としての正当な扱いを受けることになる。最前線はつまり、手柄を立てやすいとも言えるからな。出世も努力次第だろう。もっとも―――自己の利益のために、仲間を背後から襲うような連中が……戦地で信用されるかはワカランがねぇ?」
ニヤリと笑う教官殿。
うわぁ、素敵な悪役スマイル。
「……これ、どこまでが軍の想定だったんだろうな?」
「わかんねぇ……けど、容赦ねぇっつーか、なんつーか」
「なんだか、訓練が終わったあとも恐ろしいですわね……」
アイツら、説教や指導では終わらないだろう。
最前線に連れていくんだし。
たとえば……無理やり、戦えるレベルまで叩き上げるとか?
それも、今度は問答無用。拒否権なし。
あるいは……容赦なく使い潰されるか。
どちらにせよ自業自得。
けど。
ちょっと可哀想だなと思う俺は……甘過ぎるんだろうなぁ。