ときには自分の心と
辛勝、でした。
祝福は使わないで乗り切れたけれど。
剣、折れちゃった。
俺だけでなく、他にも何人か残念なことに。
もっとも、使ってたのは最低限の補充物資枠の物品。
特に惜しむこともない。
むしろ、最後まで役目を果たしてくれたことを感謝です。
「……なんというか。ちと、甘く見てたと思い知らされた。競争する必要なんてなかったのにな。言われるまでそんな単純なことすら気がつかなかったぜ」
助けた部隊のリーダー的存在、凹む。
どうやら強行策は彼の提案らしい。
慢心していたのか。
それとも焦りか。
それでも誰も彼を責め立てるようなことはしない。
連帯責任、か。
もしその発想がなければ、いまごろ宿舎の空気は最悪だったろう。
「……うん! 提案! なぁ、アタシらも一緒に行動させてくれよ。やっぱりさ、周囲に流されない冷静さを持ってるヤツがいないとダメなんだ」
どうやらこの部隊、ちょっと血の気の多いのが偏ったらしい?
うーん。
それはそれで怖いんだけど。
集団というのは、どうしても声の大きいヤツに動かされがち。
と。
なにかの本で読んだことがある。
検定が、探索が順調に波に乗ったとき。
万が一のときに、ブレーキをかける声は皆に届くのか?
絶対出てくると思うぞ~、根拠もなく大丈夫だって言うヤツ。
もちろん、必ず足並みが乱れるとまでは言わないけどさ。
俺の意見としては……消極的賛成、かな?
意見交換、開始。
と、いっても論争になるほどのことではなく。
一緒に行動する上での注意事項。
そして目標の再確認。
うん。それ、大事ですよ!
「……みたいなこと考えると、やっぱフェイスコードたちのほうを中心にして、オレらは戦闘メインな感じでよ……」
「……とか、あるいは……で、そういうパターンのときは逃げると決めておいて……」
「……ぐらいを基準にしてさぁ、やっぱ魔力を高めておかないとだし、しばらくは……」
うむ。
この場に俺が残っても、なんにもならんな。
ちょっち外の空気でも吸ってくるべ。
屋上。心地よい。
そういや、異世界に来てからじっくり夜空を見たりとかしてない気がする。
女神チートでさ。
生きるのには余裕はあったはずなのに。
異世界、楽しんでいたのは間違いないけれど。
「……デュラン、ここにいたのか。……ふむ?」
ユリギナ?
どうした。俺の顔の認識番号が変化でもしたか?
「そんなワケないだろう。ただ、少し雰囲気が変わったな……と、思ってな。まるで……まるで、新しい遊びを思い付いたイタズラ小僧みたいにな」
予想外の評価。
何故だろう?
俺としては、どちらかというと気持ちが沈んでると思っていたのに。
「そうだな。たしかにそういう気配も感じた。だが……あぁ。アレだ。思ったように罠や仕掛けが動かなくて、それでも次はもっと面白いヤツを作ってやろうという―――うん。お前はいま“次”を見ているようだな」
次。
次か。
ユリギナが言う次とはもちろん修了検定の合格に向けて……ではないんだろう?
あ。コイツ。
鼻で笑いやがって。
女神の加護に頼りきりであると自覚しているつもりで。
実は自分でもけっこうやれていると思っていて。
でもそれは結局は勘違いで。
その事を恥ずかしいと落ち込んでいたワケなんだが……次、か。
イタズラ小僧の顔。
少なくとも、俺はまだ楽しめている……のだろう。
うん。
それもそうか。
タウロス変異種たちとの戦い、たしかに“楽しい”と思ったもんな。
……そもそも。
自分からさんざん使っておいてさ。
いまさら加護に頼りきりだったことについて悩むのって、バカみたいじゃね?
………それ以前に。
俺が自分を鍛えようって思った理由。
それは、祝福の加護をより使いこなすためじゃん!
いまの俺では祝福の力を使っても、幻想種相手ではかなり危険。
いや。
幻想種でなくても、仮に女神の秘宝を持っている人間と戦うことになったなら。
そのための、特訓ですわよ?
あぶねぇ。
手段のために目的を見失う。
そんなことある~? とかバカにしてたけど。
まさに俺でした。
ありがとう、ユリギナ。
お前は俺の恩人だよ。わりとマジで。
「フッ……礼を言われるほどのことではない。これでも蛇人族だからな。男を見る目については多種族などに負けんよ」
クールに語る、しかし照れてる。
そこを指摘するほど野暮じゃないよ?
作者はよくレベル上げ(手段)に夢中になってボスの存在やシナリオ進行(目的)を忘れます。
なのでボス戦は楽勝ですが、妙な快感を覚える反面ひどく虚しくなったりはしません。