ほどほどな訓練日和・その2
「フェイス、今日こそテメェに一撃ブチ込んでやるからな! 覚悟しやがれッ!」
はいはい。
いつでもどうぞー。
……。
…。
はい、お疲れちゃん。
「ぜェ、はァ、てめ、クソ……ッ! あーッ! クソ、悪くないと思ったんだがなぁ~」
「はいはい、早くどきなさいよアンタも。次がつっかえてるんだからさ。顔文字、次はアタシよ? 言っとくけど、そう簡単には負けないからね! 覚悟なさいッ!」
はいはい。
遠慮なくどうぞー。
……。
…。
はい、お疲れサマー。
「あーッ!? もうッ! ……はぁ。ちょっとパワーを意識し過ぎたかしら? 力込めても当たらないんじゃ意味ないわね……」
「やっぱパワーだけじゃダメね! デュラン、次は私だよッ! ルームメイトだからって、遠慮はいらないかんねッ!」
はいはい。
容赦なくいくぞー。
「え、ちょ」
……。
…。
「………ウボァー」
南無三。
戦闘訓練開始からしばらく。
わたくし、素晴らしくモテ期でございます。
どうもねー、ゲームキャラの動きが好評みたいでして。
教官も、
「ちゃんと体系化された動きは訓練にはうってつけだな。と、いうワケだ! フェイスコード、一通りメンドー見てやれ。特別手当てはつかんがな! あっはっは!」
だってさ!
タダ働きなんてサイテーなのよッ!
別にいいけど。
もちろん全員ではなく希望者のみ。
お約束というかなんというか。
こういう目立ちかたをするとさ、やっぱ出てくるよね。睨んでくるヤツ。
案の定、初日に食堂で“指導”をされた連中。
あとはまぁ、いわゆるワルのグループみたいな塊。
アレかな。
少なくとも俺は見た目だけは若いから。
俺みたいなガキに頭を下げて教えをこうなんて…ってか?
日本を思い出すわ~。
上司からの命令で取引先を巡らされてさ。
若いからってナメた態度とったり契約をごまかそうとする相手がいたら報告しろって。
まぁ、そんだけね。
若いってのはこういうとき、マイナス効果だよね。
いや、俺は見た目だけなんだけどさ。若いの。
まぁ、それはそれ。
前世の知識、別に隠すほどのことじゃないのでどんどん放出していく。
素晴らしきは日本のゲーム業界。
モーション、異世界の軍隊でも通用してますよ! さすがです!
ちなみに。
教官たちが興味津々なのは棒術。
なんでまた?
「発展性がありそうだからな。槍のように刃物を取り付けないぶん、自由に動いているだろう? それに、熟練すれば捕り物で相手を死傷させずに制圧できるかもしれん」
ほー。
たしかに刃物よりは致命傷にはならない……の、か?
いうて頭に一撃、重いの入ったらヤバい―――あぁ、だから熟練したらね。
んー、普通に意外だったな。
モンスターのいる異世界だし、棒術くらい珍しくなさそうだったけど。
そういえばハンターでも使ってるの見たことないな?
『極論じゃがな、刃物は誰が使ってもすぐに効果が目に見える。傷という形で、流れる血で、あるいは消えていく命で。霊術も然り。文化としての闘争ではなく生存競争じゃけんね。個性より汎用性。そう考えると、この世界での棒術はなぁ』
趣味の領域か。
地球とは環境が違う以上、そうなるのかねぇ。
とはいえ、本職が興味を持ったからね。
いずれ武術として昇華されるでしょ。
と。
思いの外、スローペースな武器訓練の日々。
さてはて、どこで反動が来るのやら。
取り越し苦労ならそれでいいんだけど……どうかなぁ~?