ばっちり結成! 第241訓練兵団・その1
「諸君、これから貴様たちにはエスタリア国防軍の正規兵になるための訓練を受けてもらうワケだが……まずひとつ、貴様らに伝えておかねばならんことがある。それは、貴様らを能力不足で追い出すようなことはない、というコトだ」
訓練とは、必要な能力を身に付けるためのもの。
最初から充分なスキルを持っているなら世話ないと。
なるほど。そりゃそーだ。
鍛えるのは教官の責任。
あとは訓練生のヤル気があるならそれでよし。
「逆に、訓練の時点で除隊を希望する方は遠慮なくどうぞ。特別、犯罪行為などがなければ簡単な手続きだけで自由の身になれますので。拍子抜けかとも思いますが、これにもちゃんと理由があるんです」
エスタリアの誰でも軍に参加できる制度。
これを勘違いする輩が多少なりとも存在する。
具体的には、奴隷商人やら人攫いやら。
あとは親が子どもを売りに来たり。
もちろん本人が望めば軍で引き取るが、そうでなければ市民として生活できるよう世話をしてくれるそうな。
あくまで本人が望むなら。
故に、去るものは追わず。
え? そうでもない?
惜しい人材は引き留めるため説得することもある?
最終的には本人次第だけど。
うーむ、それでもなかなか人道的じゃないですかね。
あるいは。
そんな国防軍だからこそ訓練兵も集まりやすいのかも?
ちなみに。
連れてこられたほうは手厚く迎えるけど。
連れてきたほうは、軍が適切な処理を実行したそうです。
あ、ふーん。
察し。
「さて、この件に関してなにか質問のある者は挙手せよ。ふむ、よし、そこの貴様。フェイスコード、お前だ」
はーい。
えー、訓練中に重傷を負った場合はどうなるんでしょうかね?
例えば失明や聴覚障害。
あるいは手足の欠損。
仮に本人が残ることを希望しても、ちょっと軍務はこなせないだろうし。
「ほう。貴様、訓練生にしてはなかなか良い視点を持っているな。その通りだ。訓練とはいえケガの発生をゼロにすることは不可能だ。当たり前だな、軍隊の戦い方を叩き込むのだから。ときには、いま貴様が口にしたような事態も起こるだろう」
ざわざわ。
え?
そんな……お前ら、いまのは驚くところじゃないだろ。
半分くらいの訓練生が動揺してるんだけど。
そりゃたしかに兵站とかの後方支援も選べるって言われたけどさ。
戦闘訓練するんだよ?
「安心しろ。魔導院では再生の式陣の研究も盛んだからな。命さえ護れれば治療の見込みはある。本人が希望するなら治療をかねての被験体として雇用もするが……ワシ個人としては推奨はせんな。どれほどの注意を払っても、不測の事態というヤツは容赦がないからな」
魔導院の研究者たちも、その辺りは戦々恐々。
幸いにしていまのところ、そういう報告はないらしい。
そしてそれが逆にプレッシャーになってると。
うん。
たぶん、良い人っつーか、マトモな感性の人たちなんだろうね。
これがマッドなサイエンティストなら……おー、こわッ。
「あとは……そうだな、貴様らはチームだということを忘れるな。軍隊はハンターのように個人によって、あるいは少数によって機能する組織ではない。あぁ、別にハンターギルドに文句を付けるワケじゃないから勘違いするなよ? ようは芸風の違いというヤツだ」
個人ではなく集団。
それを意識して動けということか。
ふむ。
ひとりふたりのスゴいヤツが混ざったところで、数の暴力の前には無力よな。
仮に目の前の戦場で無双したところで。
国の反対側から攻められて首都が墜ちれば終わりだもんな。
大局的な視点を持てということだろうか?
いや。
さすがにそこまで大袈裟なことを訓練生には言わないか。
とにかく、協調性とか、そういうの。
俺もちゃんと意識して動きましょうか!
………。
うん。
俺、たぶんコード番号で呼ばれることないな、コレ。