勉強バトル! 鬼(人族)の戦闘教導官・その2
なんということでしょう。
直接的なダメージはほとんどないけれど。
霊気のガードがどんどん削られております。
追い詰められている、だとッ!?
くッ! この、俺がッ!!
転生者であるこの俺が、未熟な現地人ごときにィッ!!
なんつって。
まぁ、こんなもんだよね。
むしろ頑張ってるほうだとおもうよ? 俺。
やはり経験値は大事だな。
多少は魔導水晶を取り込んで魔力と霊気の底上げはしているけれども。
使い方が未熟千万!
これが物語の主人公なら、実は運動部で~とか。
剣道やってたとか、実家のジイちゃんになぜか古武道習ってたとか。
そういうスキル持ちがチラホラいるけれど。
こちとら美術部、しかも遊び半分だったのだぜ。
荷物の移動とかは積極的に手伝ったけど。
さてさて。
そろそろヤバくなってきたね。
疲れと、相手の攻撃をガード、あるいは迎撃。
それらの衝撃がジリジリと積もって、左腕の位置が下がってきた。
これでは、“いないいないばぁ”ではありません。
“いないばぁ”です。
自然と右の拳にも力が入っちゃうぜ。
とはいえ。
右は使わないって決めてるからね。
このまま顎に引き寄せて盾の代わりに。
『それで、どうする? 多少は意地を見せたのじゃ、ギブアップしたところで説教されることもなかろうが……』
ギブアップ。
ギブアップか。
うーん。
ナシで。
『そう言うと思うたわ。敗けを認めるのも、真っ当な人間相手ならばそれもよかろうがな。悪意を好む輩には、あるいは……かの古き幻想が相手では、な』
しょーゆーこと。
しかし、だからといって。
いや、だからこそ、このままやられっぱなしというワケには。
んー。
祝福は当然アウトとして。
術式は……うーん、それもちょっと違うかな。
気分の問題もあるけれど。
迂闊に手札を見せるべきではないでしょう。
どこで誰が見てるかわかんないし。
先人たちの失敗……といってもゲームやマンガの話だけれど。
そういうの、あるじゃない?
となると……拳にエンチャントとか?
これなら格闘の延長戦だし。
グローブみたいな感覚だし。
俺の手札の中ではまだ、お披露目してもマシなほうでしょ。
―――よしッ!!
イメージするのは、氷。
ありがたいことについ最近、規格外の氷の使い手に出会ってるからね。
前世も含め、初めての死の恐怖。
しかしそれは、ある意味では信頼。
左の拳に、氷の星の輝きを。
……よし。
いざ、前に進め! 俺ッ!
……。
…。
はい。
頑張った。
頑張ったよ、俺……。
時間切れの判定敗北。
まぁ、結果には文句ないね。
祝福なしのエンチャント、思いの外難しかったです。
拳に巧く定着しなかったねぇ~。
ジャブに合わせて揺らめくったら……もうね。
あと、足。
普通に痛い。
特に右足が割りとシャレにならない痛み。
心当たりは……アレだよなぁ。
身の程知らずの一撃の後遺症。
もともと全ての面で向こうが圧倒していた。
そこに足を引きずりながら。
うん。
時間切れまで粘った俺、偉いッ!
ルームメイトの労いの言葉が、疲れた体にしみるぜ。