のんびり訓練生活開始・その3
教官直々のご指導。
自分、今日からの新入りなんですけどいいんですかね?
関係ない?
あ、ハイ。
「安心しろ。訓練は訓練だからな。ちゃんと手加減してやるし、ギブアップも認めている。さすがに戦闘開始と同時には許さんがな!」
そりゃそうだ。
さて。
訓練とはいえ異世界初、祝福無しでの戦闘。
ちょっぴり怖い。
嘘です。
かなり怖い。
けどまぁ、どこぞの氷の幻想よりは全然マシ。
なのでメンタルは特に問題なし。
問題があるのはフィジカルのほうだな。
病み上がりから時間は経っているけれど、体力の消耗は回復していないワケで。
そもそもリハビリのために軍隊入ったワケで。
いや、普通に考えたらそれもおかしいんだけどさ。
とにかく、体力の限界はけっこう近いだろう。
あと足も。
前世と違って魔力や霊気の存在はあるけれど。
それは相手も同じ。
つまり、まったくアドバンテージにはならないね!
当たり前だけど。
以上のことを踏まえて。
俺が取るべきスタイルは……ボクシングもどき!
蹴り技は使わない。
右手も使わない。
左の小刻みなジャブのみで戦う。
あえて自分の行動を制限して、迷いを減らす作戦。
えーと、たしか……いないいないばぁスタイル、っていうんだっけかな。
両手を顔の前に。
体を屈めて。
たしか俺が読んだマンガだと、グローブを噛むくらいの位置でやってたな。
……こんな感じかな。
「ハッ! 見ろよ、あんなに体を縮めてよ」
「いくら新入りったてよぉ、さすがに情けないだろぉ」
まぁね、周りから見たらそうなるよね。
「ふぅん……まったくの素人ってワケじゃなさそうだねぇ?」
なんか嬉しそうな教官。
ニヤニヤしながら小さく呟く。
残念ながら、まったくの素人なんだよなぁ。
素晴らしきは構えを産み出した拳闘の歴史よね。
さて。
横で見ていた、たぶんコチラも教導官さん。
開始の合図と同時に―――ステップインッ!
様子見?
そんなもんありませ~ん。
戦闘のプロなら読み合いとかあるんだろうけど。
それは経験則が支える高等技術。
ボクにはムリちゃん。
狙うは上半身。
頭は的が小さいので、初手で狙うのは難しいって書いてあった。
ヤンキー系マンガにだけど。
ダメージ、なんて考えない。
当てるだけを目的にした左のジャブ。
さて?
「よッ……」
上体反らしで避けられた!
すかさずバックステップッ!
反撃は……こないか。
よし。
もう一度、前に!
とにかく。
とにかく状況を動かしていくしかない。
動きを読んでの先手は100パー不可能。
ならばどうする?
答えはシンプル、相手に動いて貰うしかない。
手札はたくさんあるほうがいい、というのは上級者の理屈。
俺さま初心者、選択肢が少ないほど楽。
テクニックとかは考えないで、まずは前に出るべし。
さぁ。
しっかり勉強させていただくであります! 教官どの!