ぼちぼちナイフ作り
素材をもったまま娼館ってどうなんだろう?
ハウリアに相談したところ、別にかまわないそうだ。
持ち込むモノに関する取り決めは店ごとに違うけれど、蝶のそよ風では特に制限はないらしい。
あからさまな危険物や異臭のするものでなければ。
危険物。
武器は危険物だろうと思ったけれど、そもそも街中を武器持ったハンターたちが普通に歩いてるもんな。
古い常識に囚われてはいけない。
とはいえ、さすがに加工する場所まで融通してもらうのは気が引ける。
連泊しているとはいえ、お得意様というほど時間を過ごしていないだろうし。
なので素直に外に出ることにした。
「おう! お前さんか! ふむふむ、術式の実験ねぇ。街の中の空地とかじゃ……なに? 騒音や異臭の可能性もある? 術式の実験なのにか? ふむ、ほー。なるほど、素材加工か。確かに鍛冶屋の裏手は臭いも音も凄いからな! がははははッ!」
初日に道案内してくれた門番の人から、ちょうどいい場所を教えてもらった。
川の側の空き地。しかも森の中。
この辺りは魔獣も弱く、珍しい素材も採れないので、ハンターもあまり用事がないらしい。
ナイスおっちゃん。
まずは一つ。
祝福でナイフに変化させてみる。
刃渡り40センチくらいのダガーナイフ。
素材の状態と重さが変わらないので、圧縮されたのだろうか?
次。
祝福でナイフの形に切り出す。
余計な素材はそのままキープ、先ほどと同じナイフができた。
当然、軽い。
二つのナイフに同じ量の霊気を流し、打ち合わせてみる。
結果は……案の定、密度の高いナイフの勝ち。
軽いほうは折れてしまった。
切り出すなら量産も簡単だけど、脆いのはよろしくないな。
『切り出したモンに祝福かけりゃー解決じゃねぇ。けど、それをやると面倒を呼びそうじゃのぅ。不自然に強いんではなぁ』
それがまた悩ましいな。
どうしょうかな?
………。
術式でも刻むか。
術師を自称してるんだから大丈夫だろう。
ここで欲張って強力な術式を刻んではいけない。
魔法系チートや生産系チートたちが同じことをしてどうなった?
彼らは名声その他の代わりに自由を失っている。
そういうの、俺はできれば遠慮したい。
まずは術式を作る。
適当にそれっぽく作って、タブレットでパシャリ。
既存の術式でないことを確認して祝福。
それをナイフに刻み……刻み……うーん? どう刻むかな?
やっぱ見えないところが安定かな。
刃のところに術式ってのも、見た目がいいけれど。
それはまた今度で。
無難に完成。
それなりに珍しい、だろう“霊気を通している間だけ性能が上がる”ゴーレム素材のナイフ。
蛍石が混ざってるんだっけ。
命名・フローライト。
やったぜ。