ちゃっかりリハビリ(?)のお誘いまで
「さて、次はキサマの体力低下についてだ。ひとつ、私から提案がある。念押しさせてもらうが、あくまでこちらは提案する側だ。決定権はキサマにあるし、断ったからといってなにかしらのペナルティは発生しない」
………。
……。
…。
馬車に揺られて数日。
やってきました、エスタリア中央都市。
“王都”でも“帝都”でもなく中央都市。
なんつーか。
人の生活感というか、そういう俗っぽさを残しつつ。
それでも整然と並ぶ建物は機能的な美しさ。
俺、ちょっと好きかも。
「スゴいですよね! 僕の地元じゃ4階建ての集合住宅なんてなかったですよ」
「アタシはあんまり高いのはな~。窓からうっかり落ちたら大変そうだ」
馬車には同じ目的で乗り合った人々。
年齢も性別も、もちろん種族もバラバラ。
同じ目的のために集まった、あるいは集められた……か。
んで。
「……はい。貴方に振り分けられる識別番号は[E-7381]になります。刻印の場所は背中以外で希望の場所をどうぞ」
背中は重罪人の証しなのでダメだってさ。
ふむ。
このコードは身分証明の代わりでもあるんだよね?
なら……顔でいいかな。
ほっぺたのところにズバッとよろしく。
「顔にですか? 別にかまいませんが……はい、どうぞ。鏡で確認してください」
うむ。
なかなか中二病っぽくていいじゃん。
ちなみにこのコード、術式によるもの。
なので、後から簡単に消すことができるそうな。
「今後は研修期間の終了まで、これが貴方の名前の代わりになります。原則的に本名を使うことは禁止されています。原則的には」
原則的には。
強調したねぇ!
「さて? なんのことでしょうか? ウフフ……。まぁ、我々正規兵も貴方がたの生活全てを監視しているほど暇ではない……かも? しれませんね」
つまりは各自、臨機応変に。
見逃すところは意外と緩めな感じ?
でもまぁ、訓練生同士でいちいち番号呼ぶのは面倒だもんな。
「あとは……そうそう、くれぐれもご自分の名前を忘れないように気をつけてください。そんなバカな、と思うかもしれませんが、むか~しの記録にあったんですよ」
番号呼びに慣れすぎて、名前を思い出せなくなった若い訓練生がいたらしい。
幸いにして出身地や家族の名前は覚えていた。
そこから紆余曲折。
無事、名前を思い出すことはできたとか。
「当時の記録を見ると、どうやら上層部の方々もさすがに焦ったようですね。それ以降、名前の自己管理について必ず徹底させるようになったそうです」
訓練の効率化のための番号管理。
さすがに自分の名前を本人が忘れるとは想定していなかった、と。
だったら国でも管理すりゃいいのに、と思うんだけど。
あ、お姉さんもそう思ってんのね。
ふむ? なにか国家政策上の理由があるとは聞いている。
なるほど。
つまり知る必要はないな。
少将閣下から渡された封筒。書類?
その中身についても探らないほうがよさそうだ。
流れ者の俺がコードを受け取れるように取り計らったとは言われたけれど。
ま、なんでもいいや。
提案に乗ると決めたのは俺なんだし。
さて。
「これにて準備は完了です。私物は研修終了時に、コードと引き換えの形で返却しますのでご安心を。それでは……ようこそ、エスタリア国防軍へ。貴様と戦友として肩を並べる日を楽しみにしているぞ」
ハッ! 了解でありますッ!
ちょっとハードなリハビリ生活。
はじまりはじまり~ってね!