わくわく査定のお時間でも
なんとか自由に動けるようになりました。
と。いうことで。
「まずは普通の魔導水晶ですね。カテゴリーはともかく、この辺りでは珍しいものですので……パチパチパチ、と、まぁこんなところでしょうか」
治療院の一室にて。
持ち物の買い取りの確認なう。
ほー。
なかなか色をつけてもらったようで。
「土地柄といいますか、どうしても“氷”属性を持つマテリアルは不足していますから。風、熱、水、霧あたりなら式陣の研究も含めて盛んなんですけどね」
そうか。
魔獣の属性。
ゲーム感覚が残ってる俺はそういうもの程度にしか認識していなかった。
けど、そうだよな。
珍しいの意味合い、ちょっと軽く考えてたかな。
他よりも高値で売れて儲けもの……は、あくまで俺が気楽な立場だから。
面倒だけど仕方ない。
学習したことは次に活かさないともったいない。
んで。
ある意味本命。
「余計な駆け引きは無しでよいだろう。この幻想水晶とやらの欠片、まずはキサマが値段を付けてもらおうか」
少将、実に潔い態度。
ならばこちらもそれに応えましょ。
金銭換算は……ズバリ、ゼロで!
みなさん、ざわざわ。
まぁまぁ落ち着きたまへ。
理由ならちゃんとある。
なんのことはない、それは俺にはもう無価値に等しいから。
俺にとってそれは、もはやただの強力な魔導水晶でしかない。
特別な価値は消えてしまったからね。
だから、俺が値段を付けるとそうなるよって話。
「そうか。なら遠慮なく魔導院に送らせてもらう。これであのアホウも大人しくなるだろう……うむ、キサマのいう通りだ。ヤツめ、幻想水晶が手に入らなければ、とっておきの嫌がらせのネタを片っぱしから試すとぬかしたからな」
やっぱそういう系かぁ。
天才な変態はそうだろうよ。
さて。
それで……その、保存食も買い取りたいっていうのは?
ルジャナを出るときに買った各種ピクルスのビン詰め。
そんなに珍しいのかな?
「酢漬けの文化はエスタリアにもございます。しかし、我が国では基本的に米酢……あぁ、ライスビネガーと申したほうがわかりやすいでしょうか? エスタリアではお米からお酒やお酢を造り……おや、ご存知でしたか」
申し訳程度の前世知識ですけどね!
ちなみにルジャナの酢漬けはフルーツ系のお酢。
そちらもまた、エスタリアではなかなか研究が進んでない。
完成したサンプルは大いに助けになるとのこと。
たしかに、目指すべきゴールが見えてるのは大事かも。
そういうことなら。
「ありがとうございます。青物が豊富とはいえ、長期保存の品となりますと味も単調になりがちです。兵站部としては兵士たちに少しでも良質で美味しい食事を提供したいのでございます」
ペコリと頭を下げるメイドさん。
軍人さんだったのか……そんな格好なのに。
ちなみに。
保存食、漬け物の話。
なんだか日本的な香りの強いエスタリアなれど、沢庵漬けはないようだ。
普通に大根のぬか漬けや塩漬けと呼ぶみたい。
よく考えたらそれもそうだ。
沢庵。和尚さまの名前だったね。