じっくり身体を労りながら・その3
入ってきたのは最初に会った軍人紳士。
たしか、マルライツァー少将閣下だったかな?
護衛か従兵か、3人ほど連れてご入室でござい。
世話役の女性、反射的に見事な敬礼。
いかにも軍人だな!
んで。
買い取りしてくれるってことは、荷物の検査は終わったのね。
「そうだ。キサマが心配していたような、エスタリアの国法に触れるような物件はなかった。なかったが……ひとつ、どうしても確認せねばならんモノがある。ガラスの小ビンに入っていた、砕けた魔導水晶についてだ」
ガラスの小ビン……?
………。
………あッ。幻想水晶の欠片か!
んー、どう説明しようかな。
モノがモノだから、説明が難しい。
ラービーナが消滅した今、アレが幻想種の魔導水晶だと証明する手段がない。
が。
そうだな、言うだけ言っちゃうか。
それを信じるかどうかはご自由にどうぞってね!
つまり、タコイカコムギコで。
「カリカリふわふわと……」
少将閣下は難しい顔。
しかし後ろの軍人さん。
「ハッ! 幻想種だと? バカバカしい。三流のペテン師だってもう少し真実味のあるウソを吐くというのに」
まぁ、普通はそうなるな。
鼻で笑われちゃったよ。
しかし幻想種は伝説上の存在だったワケだし。
そういう反応で当たり前な―――ん?
「貴様、なにを隠している? 下らん嘘で我々を―――」
「中佐」
「ハッ!」
「いますぐこの部屋を出ていくか、私の部隊から出ていくか、好きなほうを選ばせてやる」
「ハッ―――は?」
「どうした? 早く決めろ」
「か、閣下!? 自分がなにを―――」
くるりと俺に向き直る閣下。
後ろの軍人さん、唖然としたままですけど。
「これは単なる偶然だが、中央の魔導院に所属する術師が休暇でこの街にいた。なにをどうやったのか知らんが、キサマの荷物にあった魔導水晶の気配を察知して発生してな」
発生て。
言いかたぁ。
「発生であっている。アレは能力には問題ないが人間性と行動に問題があってな。自己完結型の変態なので周囲への実害は出ていないが」
表現、手厳しい!
けど、信用はしてるのかな?
んで。
その、普段ならヨダレ垂らして魔導水晶に頬擦りするような変態さん。
幻想水晶の欠片を見て豹変。
真面目な顔で
「コレ、かなり危険なヤツだよ」
と、警告したそうです。
「コレを入手したのはルジャナ帝国だと言ったな。我がエスタリアもルジャナほどではないが遺跡型迷宮の数はそれなりに存在する。深部では特型帝王種も確認・討伐している。その魔導水晶を見たときでさえ、あんな顔はしなかった」
特型帝王種。
なんか幻想種より強そうな名前だな。
でだ。
この国でもトップクラスに魔導水晶に詳しい術師が、砕けた状態ですらその特型帝王種とやらよりも危険だと判断した。
なので、俺の幻想種発言も安易に否定できないとのこと。
「軍人のサガだな。どれほど可能性を考慮しても、必ず不測の事態は起きるものだ。ルジャナに現れてエスタリアに現れないなどと保証してくれるものなどないのだからな。まぁ、神とやらが存在するなら別かもしれんが」
『いやぁ、ワシでもどこに幻想種とやらが潜んでおるかなぞワカランがなぁ。あっはっはッ!』
神さま、知らねぇってよ。
とりあえず買い取りについて。
詳しくは俺が出歩けるようになったら。
行き違いがあると困るので、本人に確認しながらの査定でヨロシクとのこと。
必要なやり取りは終わったのか、さっさと部屋を出ていく少将たち。
ふむ。
これは不注意だったなぁ。
ラービーナの気配にだけ気をとられ過ぎたか。
あの欠片だけでもそんなに危険だったんだねぇ。
そのわりに根掘り葉掘り聞かれるほどでもなかったが……。
とりあえずの情報で満足した?
ハッ、そりゃありえないな。
なにせ戦闘国家。
そして軍人。
なかなか発言には……気をつけないとヤバいかな?