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不思議な訪問者

「緊張する必要はない。たしかに私はそれなりの立場にある人間だが、キサマたちは私の部下というワケではないのだ。あまりにも馴れ馴れし過ぎるはさすがに困るが、普通にしていればそれでよい」


「「は、はいッ!」」


 あーあ。ガチガチになっちゃってまぁ。


 だがそれも仕方ないだろう。


 クラスCの昇級試験に、そら少将の襟章付けた軍人が来りゃそうなるわな。


「……フッ。なんとも初々しいものだな? 何処ぞの誰彼も昔はこんな時があったのだろうなぁ?」


 うるへーよ。


 それに、俺と比べるならコイツらはなかなかいいセンスしてるぜ?


 なにより真面目だしな。


「そうか。キサマがそう言うのなら安心できるというものだ。それでは、よろしく頼むぞ」


「「は、はいッ!!」」




 クラスCの昇級試験。


 ある廃村の調査に向かう国の人間の護衛。


 処理が後回しになっているところに、盗賊や魔獣が住み着いてないかの確認が目的だ。


 と、まぁ内容が内容だから、まさかこんな偉いヤツが来るとは思わなかったワケだ。


 とはいえ、依頼人がどんなんだろうとハンターがやることは変わらない。


 最初こそ緊張のせいでぎこちなかったが……概ね順調、といったところか。


 ちょっとスローペースだが、慎重で損する場面じゃねぇしな。




 トラブルなく、廃村が近付いてきた……のだが。


「……皆、止まれ。様子がおかしい」


「えッ? あ、あの、オレたち何か失敗しちゃいましたか?」


「いや、そうじゃない。この先から異様な気配がする。試験は1度中断、ここはひとまず俺たちで様子を見に行くべきだ」


 よし。


 お前たちはいったん後ろに下がれ。


 護衛対象の安全を最優先にな。


 ソイツだって別に戦えないワケじゃないが、まぁ、一応試験だからな。




「魔獣……? いや、だが、あれは……」


 困惑するのもムリねぇな。


 俺だってあんなん初めて見たわ。


 フォレストハウンド……にしては白い。


 まっさらなキレイな色してやがる。


 と、見た目も珍しいのはそうなんだが……あれは、霊気?


「不思議な感じですね。警戒はされていますけど、敵対しているような雰囲気は感じませんよ?」


「あの様子……あの小屋を、守っている……のカナ?」




「……誰か、来たのか?」




 声だ。


 若い男の声。


「誰かいるのか? すまない、てっきり廃棄された村だと思って使わせてもらってたよ」


「いや、廃棄されたのはその通りだ。それで、お前は何者だ? 賊の類いでないのなら素直に出てこい。ハンターの誇りにかけて、問答無用で取り押さえるようなマネはしないから安心しろ」


「……そうしたいのはやまやまなんだが、ケガで動けないものでな。正直、こうして声を張るのも傷に響くんだ」




 どうよ?


「血と薬草の匂い。ケガをしているのはウソじゃないな」


「治癒の式陣の波長も感じます。その、あの犬……狼? の気配が強くて少しわかりにくいですけど」


 怪我人なのは事実か。


 よし。


 ……。


 …。




 その男。


 旅の術師、デュラン・ダールについてひと言で表すなら。


 よくまぁ、生きてたもんだな?


 雑な手当てもそうだが、そもそものケガがかなり酷い。


 特に脚回りはズタボロになった肉をムリヤリ包帯で縛り上げたみたいになってやがる。




「待ってて下さい! いますぐ治療しますのでッ!」


「あー、いや、大丈夫だ。別に致命傷ってワケじゃないからな。気持ちだけありがたく―――」


「こんなケガ、大丈夫なワケないじゃないですかッ! 失礼、“静かなる命脈の息吹”! これで―――え?」


 術師の体を治癒の光が包み込んだ……まではよかった。


 だが、これは。


「そ、そんな!? どうして……」


「この傷は普通の傷じゃないもんでな。どうやら治癒の術式では簡単には治せないらしい。まったく効果がないワケじゃないんだがな。ほら」


 そういって上げられた右腕、たしかに傷が少し塞がっている。




「ふむ……よろしい。そういうことならば。追加の依頼だ。お前たち、私はすぐに街に戻る。そこまで引き続き護衛を頼もう。それとキサマらにはその怪我人の護衛もな」


 それは構わないが……いいのか?


「軍人として。旅人だろうとも、国民でなかろうとも負傷した一般人を放置などできん。というのが半分。正体の判らん者を野放しにしておけんというのが半分。治療も施してやるが監視もさせてもらう」


「フッ……道理だな。問答無用で鉄格子に放り込まれないだけ温情的だろう。感謝する」


 怪我人に対してずいぶんな言い方をしやがる。


 だが、言われた術師には気にした様子もない。


 器が大きいのか、それとも疑われることに慣れているのか。


 ただ……悪いヤツではなさそうだ。


 ただの直感だけどな!




 さて。


 追加の依頼を引き受けたのはいいが。


 この重傷人、どうやって運んだもんかね?


「術師がいるなら、これを頼む」


「これは……氷のマテリアルの式陣ですか。では、失礼して……えぇいッ!」


「「おぉ~!」」


 氷の!


 氷の……なに? 馬車じゃないし、荷車でもねーし。


「ソリを知らない? この辺りでは雪とかは少ないのか?」


「雪、ですか……話には聞いたことがありますが、実際に見たことは……」


 空から氷の粒が降ってくる……んだよな?


 どんなもんか、イマイチ想像できないんだよなぁ~。


「温暖な地域なんだな。そうか。これは野菜や果実に期待できるかな?」


「あぁ。期待してくれて構わんぞ。外交の主力となる程度には豊富で高品質だからな」




 怪我人と、ついでに俺たちの荷物も乗せて。


 どれ、帰るとするか!


「そういえば……ここは、どこなんだ? どうにも前後の記憶が怪しくてな。あの廃村にどうやってたどり着いたのかも定かじゃなくてな」


 そうきたか。


 まぁ、あのケガじゃあな。


 んじゃ、改めて……。




「「戦闘国家エスタリアへようこそ。我々は何者をも歓迎しよう」」

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