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旅の術師と黒天鴉・その2

会話多め

 ルジャナ帝国は帝都、皇帝の居城にて。




「―――以上です、閣下。デュラン・ダールなる術師を反逆罪で指名手配するのが妥当であると」


 皇帝アンタレウスの前に跪くのはふたりの貴族。


 なにやら大袈裟な処置を施された若い貴族とその父親である。


 皇帝の命令により迎えに行ったものの、不当な暴力を振るわれた。


 それが彼らの主張である。




「……ふむ。そうか。一応、聞くがな? その報告には嘘偽りないと誓えるな?」


「もちろんでございます、閣下」


「そうか。よくわかった。ガルバリー」


「ハッ!」


「そこの莫迦ふたりを拘束しろ」


「「へ?」」


「了解であります!」


「陛下ッ!? なにを為さるので―――」




「黙れ」




 それは強制力を持つひと言であった。


 威圧を向けられたふたりだけではなく、周囲に控えていた者たちですらも。




「あのな、オレも伊達や酔狂で皇帝の椅子に座ってんじゃねぇんだよ。帝都から離れた田舎ならなにをやってもバレねぇとでも思ってたか? アホが。東方領は同盟国との外交、そして4国同盟とのドンパチと忙しいんだよ。わかるか? オレの言っている意味が……いや、わかってたらあんな迂闊なマネはしねぇよな」


「陛下ッ!! お待ちくだ―――ゲボッ!?」


 なれた手つきで近衛兵たちが貴族を黙らせる。


 兵士たちはアンタレウスから彼らの()()()()()について事前に知らされているため、拘束する手段について一切のためらいがない。




「さて、待たせたな教授。それじゃ、今回の事件についての話を聞かせてもらおうか?」


「ハッ……しかしながら陛下、すでに報告は済ませておりますので、改めて申し上げますようなことはございませんが」


「デュラン・ダールなる術師が魔導水晶に施した封印が不完全だったから……か」


「はい。最初から我々が処理を行えていたのであれば、あのような不手際は決して……」


 深々と頭を下げる魔導院の責任者。


 その表情には焦りもなければ不安もない。


「そうか。さすがは魔導院、なかなかの自信だ。これなら遠慮なく命令できるというものだ」


「ハッ。命令……で、ございますか?」


「なに、お前たちにしてみれば大したことじゃない。ただ新しく幻想種の魔導水晶を手に入れてこいというだけだ」


「ハッ……ハァッ!?」




 教授と呼ばれた術師が驚きの声を上げる。


 その様子を確認したアンタレウスは表情こそ笑っているが、その眼にはまったく親しみが存在しない。




「未熟な野良の術師ですら手に入れることができる、その程度の代物らしいからな。我が国が誇る魔導院の精鋭諸君であれば容易いことだろう? 国家予算をずいぶんと注ぎ込んで育った術師たちならな」


「お、お待ちください陛下! それは我々に迷宮に潜れということですか!?」


「当たり前だろう? 最初からお前たちが処理していれば、と、自分で口にしたのだろうが。なら、お前たちが自分の足で探したほうが面倒が少ないだろう」


「いや、その、それは……なんと申しますか……」




「なぁ、教授。皇帝のオレの前での発言ってのはよ? どういうものか……理解してるよな? 当然よ」




「あ……う……」


「さぁ、準備を始めるといい。その辺にいた術師なぞよりも諸君が当然の如く優秀であるということを存分に示してくれ。無能者として今の地位を剥奪されたくなければな」


 ……。


 …。




 貴族と教授と。


 それぞれの処理を済ませた謁見の間にて。




「あぁ~ッ! クソがッ! 割りに合わんぞこれはッ!!」


「陛下、まだ皆が見ておりますぞ」


「いいだろこれぐらいは……クソ、クソが。予定が狂い過ぎた。せめてもの救いは莫迦どもをまとめて処分する理由付けができたくらいか。だがそれでも割りに合わんッ!!」


「デュラン・ダールなる術師をみすみす手放すようなことに至りましたのは痛手でしたな」


 少なくとも公式において、世界で初めて幻想種と交戦したひとり。


 しかも、1度は討伐に成功し封印まで行っている。


 それだけでデュランの価値はかなりのモノだ。


 だが、彼はすでに国を出てしまった。敵対という形で。




「プロミネーズ領は諸国の“草”も多く潜んでおりますからな。事の顛末を知った者たちが接触を試みるのは確実でしょう」


「外交的にもよろしくありませんね。満足な証拠もなく、他国の人間という理由で追い出した形ですし」


「せめて、帝都まで連れてきてくれたならなぁ。まだいくらか対処のしようもあったのだが」


 仮に本当に工作員だったとしても、今回の貴族の対応は論外である。


 わざわざ騒ぎ立てるようなことをせず、客人として帝都まで同行を頼むことも可能であったのだから。


 この不手際は、今後の外交にあって不利になるだろう。


「あの莫迦どもについての、能力不十分の報告があった時点で処分するべきだったな。下手に慈悲を、チャンスをくれてやったオレの判断ミスだ。魔導院もだ。金をかけたぶん、贔屓目が過ぎたな。オヤジやジイさんはこういうのも経験だと笑っていたが」


「お二人もずいぶんと苦労を重ねておりますからな。さて、愚痴を溢して誤魔化しても現実は変わりませんぞ?」


「わかっている。我が国の遺跡ダンジョンで幻想種が発生し、それに対応した()()()がどちらも手元に残っていない。大問題にも程がある」

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