特盛バトル! 氷星幻想・その2
これがたとえば、MMORPG系の転生ならば。
上位プレイヤーが前世の知識やアバターの能力で無双する場面なんだろうけど。
おあいにくさま、俺ってばそういうのあんまりやらないんだよね。
どっちかっていうとシングルプレイのゲームがほとんど。
あとは良い街で行こうシリーズとか、シムトレインとかそーゆー系。
うーむ。
せめて格闘ゲームくらいやり込んでおけばよかったかな?
駆け引きスキル、ゼロだもんなぁ。
ラービーナの“戦い”宣言。
甘く見ていたつもりはないが、油断しなかったからといって対応できるかは別。
氷の嵐と触手と。
さらには氷の槍を飛ばしてくる宝玉も増えた。
猛攻ですねぇ!
怖ッ。
おかげさまでボクの自前の宝玉もすっかり冷えてカチカチです。
身に付けているモノにガンガン祝福を上書きして防いではいるものの。
反撃のチャンス、なかなか難しい。
とはいえ。
反撃のチャンスがないからといって、じゃあなにもできないというワケではない。
祝福の上書きは防御のためだけじゃなく。
一撃を。
いつ訪れるかわからないが、チャンスを逃がさないためにも。
一撃をただただ研ぎ澄ませる。
もっと速く。
もっと強く。
もっと鋭く。
俺とラービーナの間にはとんでもなく広くて深い溝がある。
それは俺の能力が低いとか、そういう話ではなく。
人間と、魔獣の違い。
人間と、幻想種の差。
それを丁寧に埋めていく。
一瞬、恐怖を祝福アクセサリーとかで誤魔化そうかなとも思ったけれど。
俺にとって、恐怖は大切なお友だち。
生きるために必要なのは臆病であることだって、誰かも言ってたからね。
物語の主人公たち、いわゆる英雄と呼ばれる存在。
彼らはよく、恐怖を退ける。
恐怖に打ち勝て。
恐怖を乗り越えろ。
定番だね。
しかし残念!
俺は女神チート持ちだけど、本体は普通の人だもの。
一蓮托生、二人三脚!
恐怖を胸に抱いたままッ!
―――前に、踏み込むッ!!
「―――くッ!?」
避けるとかは、やらない。
そんな余裕はない。
妖気と、恐怖と、直感と、女神の祝福と。
頼れるモノを総動員。
ラービーナの攻撃全てをひたすら蹴り壊す。
「―――ふふッ! あはははッ!! 素敵ですよとても! 怖いんですね、わたしが! それでも、それでも向かってくるッ! 自暴自棄になったのではなく、わたしを! わたしを倒すためにッ! 勝つために挑んでくるんですねッ!! 素敵です、素敵ですよ! とてもとても素敵ですよぉッ!!!」
またか。
また妖気が濃くなった。
元気だねー、お嬢ちゃんってば。
いや。
年齢的には俺のほうが坊やなのかな?
しかし、そもそも時間の概念が違うだろうからな。
人間換算なら見た目通りの少女なのかもしれん。
しかし。当たり前の話なんだけど。
まーた火力が足りなく。
装備品の祝福や、足に具現化させた霊気の武装。
これらを上書きしてるだけじゃ足りない。
俺のイメージする力が追い付かないんだよね。
大問題。
もっと、こう……大きなスケールで祝福を使わないと。
ラービーナが都市をまるごと封鎖したように。
空を覆う青い結界みたいな……。
空を覆う……。
空間まるごと……空間……。
……。
今の俺、耐えられるかな?
『そこはワシがサポートしてやろうかの。女神の名にかけて、おヌシの命は護ってみせよう。だがワシが護れるのはそれだけじゃ。結局のところ、全てはおヌシの気合と根性次第。まぁ、仮にそれで世界に歪み生まれてもワシは責めたりはせんがな』
セリフはまじめ。
でもどこか嬉しそう。
そして結局、精神論。
一番不安な要素なんですがそれは。
まぁ、いいさ。
ヤると決めたら俺は引かないぜ?
物理的には引くけど。
と、いうワケでいったん離脱。
追撃、無し。
警戒しているのかな? 好都合だけど。
それでは早速。
空間を、祝福。
ただ、こんな死物狂いの状況だからね。
簡単にはイメージできない。
ので。
「あれは……鳥、なのか?」
「黒い鳥、あれがカラスと呼ばれる鳥でしょうか?」
「いったいなにを―――うぉッ!?」
抽象的なイメージで難しいなら。
見た目にわかりやすい方法で。
薄暗い青空を、霊気のカラスで覆い尽くす。
黒く、染め上げろ。
クロウだけに。
クロウだけに黒うく染めろ。なんつって。
『………。』
『………。』
人外なる女性陣の冷たい沈黙……ッ!!
うむ。正直、スマンかった。
そんで。
もちろん、これはラービーナを封じるためのモノではない。
俺を、人間を強化するためのモノ。
身に付けている装備だけで足りないなら。
空間そのものを強力な装備にしてしまえばいい。
「……わたしが封印されていた間に、それほどまで人間が進化していたのか。それとも、目の前にいる存在が例外なのか。どちらにせよ、わたしも覚悟が必要なようですね? 覚悟。後にも先にも無縁だと侮っていましたけれど。ふふッ、長生きも悪くないですね。―――集え、魔星」
ラービーナの周りに青い妖気の球体が。
俺を追いかけ回していたのとは違う。
もちろん恐怖もマシマシ。
『それでもわたしに向かってくるんですね。お兄さん、物好きですね?』
んー、まぁ、あんまり情けない姿を見せるワケにはいかないしー?
『そうなんですか? 変装しているんですから、そんなことを気にする必要は―――』
ん?
あぁ、そうじゃなくて。
俺が見栄を張らなきゃいけない相手。
それはお前だよ、幻想種。
俺のこと、気に入ってくれたんだろう?
それなら。
『……本当に、素敵ですよお兄さん』
チャンスは一回。
2回目は考えるな。
そんな余裕は、ない。
女神チートなのに後がないってのも風情があるな!
……風情、かなぁ?
まぁいいや。
準備完了。よっしゃ。
「―――喰らい尽くせ、“幻魔氷星”ッ!」
―――蹴り穿つッ!
………。
……。
…。
我ながら。
やっぱ一般人なんやなって。
ついね、つい。
とっさにラービーナを受け止めちゃったよ。
だってさぁ?
前回と違うんだもん。
崩れる最中に笑ってたのは同じ。
でも、前回は余裕だった。
だけど今回は……諦めの。
あんな弱った笑顔を見せられたら、そりゃねぇ?
想像してみ?
3階建てくらいの高さから、ボロボロの女の子(上半身)が落下してんだよ。
しかも、笑顔。
それも嬉しそうで、しかも寂しそうに。
そんなん……ムリだって。
永遠の時を。
なんかそれっぽいこと言ってたけれど。
比喩とかじゃなかったんだな。
周囲の景色が停止してる。
駆け寄ってこようとした、と思う騎士やらハンターやら。
氷のゴーレムたちの砕け散る破片。
全てが止まっている。
「楽しかった、ですよ。初めての体験でした。かつては慢心と、それから興味につられて封印されることを選びましたけど……今回は、本気でした。本気で……お兄さんをわたしのモノに、支配するつもりで。ふふッ……なかなか、悪く、ない……ですね……」
ゆっくりと、手を。
触れると予想通り冷たい。
けど、感じる。
命と……それが消えていく感覚。
「……油断大敵、ですよ?」
首の後ろにひんやりとした手のひらの感触。
まだなにか企んでんのか?
「えぇ、もちろん。……はい、覚えましたよ。お兄さんの魂の輝きを、しっかりと。ふふッ♪ もう、逃がしませんよ? ぜったいに、ぜったいに、必ず、また、アナタを……出逢いを」
ふーむ。
なるほど。
さすがは幻想ってところか。
なんとなくだけど、わかるよ。
今、ここで。ラービーナ・ニウィスは消滅する。
けど終わりじゃないんだろう。
生命であり、現象であり、概念とか。
まぁ、なんだ。
人間の俺が理解しようとしてもムダってことだ。
いいじゃない。
今こうして生きている俺が再会できるかは知らないけれど。
「えぇ。それではまた会う日まで。ごきげんよう……お兄さん……」
残された魔導水晶。
それなりに色んなのを見たけれど。
見た目、氷のオーブって感じ。
綺麗ですなぁ~。
しかも感じる魔力が桁違い。
精霊水晶も桁違いだったけど、それと比べてもさらに桁違い。
ただ。
これに、ラービーナの存在は全く感じない。
「さて、何よりもまず礼を言おう。お前さんが何者かは知らないが、オレたちが、そして民衆が助けられたのは事実だからな」
おや、民間人は大丈夫だったのか。
そりゃよかった。
「まぁね。そりゃあんなバケモンが見えたらさ、野次馬だってさすがにいないもんね~。んで、それが幻想種の魔導水晶?」
「なんというか……こうして離れて見てるだけでも凄まじいプレッシャーを感じるな……」
ふむ。
せっかくだし、近くで見てみるか?
ほれッ。
「「うわぁッ!?」」
おー、ナイスキャッチ。
ぱちぱち。
「ちょッ!? おまッ!? 落として壊れたらどうする気で―――いや、そりゃ魔導水晶には違いないけどよッ!! どう見ても雑に扱っちゃダメなヤツだろうがッ!!」
高級品なのはたしかに。
ただ、その価値を決めるのは誰かって話。
少なくとも俺にはそれほど、だ。
強大な魔力を宿していても、結局は魔導水晶だし。
ま、有効に使っておくれ。
もしもラービーナがまだ宿っていたら別だけど……とは黙っておきましょ。
感傷ってヤツ?
我ながら似合わね~なぁ~。
「……いいのかい? 軍人サンはともかく、アタシらハンターは別に文句はつけないよ?」
「当然だな。それはキミが獲たモノなのだから」
ハンターの矜恃ってヤツ?
キライじゃないけども。
ただほら、こんだけ被害出て得るものゼロだと大変でしょ?
氷のゴーレムはあくまで術式で喚ばれたもの。
魔獣じゃない。なので水晶を落とさない。
アイツらが魔導水晶落としてたらまた別だったろうけどさ。
「……配慮には感謝する。ありがたく使わせてもらおう。さて、それはそれとして―――全隊、抜剣ッ! あの不審な仮面の男を捕縛せよッ!!」
「おい、オッサンッ!?」
「ちょっと、マジで言ってんの!?」
「恩義は恩義。だが役目は役目。ヤツが正体不明の存在には変わりなく、帝国に仇なす可能性はゼロではないからな」
ニヤリと笑う騎士さま。
いいね、そういうのキライじゃないよ。
ま。
普通に逃げるけどねッ!
バイバ~イ。
追い掛けてくる騎士と兵士とハンター。
声、楽しそう。
あれは本気で捕まえる気じゃないな?
つまりは……なんだべ、ポーズ?
彼らも立場とかあるだろうからな。
ま。
やっぱり普通に逃げるけどねッ!!
もちろん超余裕で逃走完了。
いうてみんなもボロボロだったし。
幻想種、ラービーナ・ニウィス。
女神の加護をもって、それでも強敵だった。
うん。
俺の力もちゃんと鍛えよう。
再会できたときに、ガッカリさせたら悪いしな!
ラービーナ・ニウィス、ラテン語で“雪崩”