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一方そのころ、周囲では

 帝国のために。


 皇帝のために、民衆のために死ぬ覚悟はできいた。


 できてはいたが、まさかなぁ……幻想種などという規格外の存在と戦うことになるとは。


 人生、わからんもんだな。




 幻想種が呼び出した氷ゴーレム。


 ゴーレムと呼ぶにはあまりにも騎士らしい出立ちだが。


 なかなかの強敵だ。


 せめてもの救いはゴーレムどもの連携がお粗末なことだろう。


 オレを含めた何人かはひとりで対処できるが、大半の部下たちでは能力にだいぶ差がある。


 しかしアイツらめ、日頃の訓練の賜物か、いい連携をするじゃないか。




 もっとも。


 それでこちらが有利かと問われれば別だがな。


 見せ掛けの数は帝国軍が多い。


 だが向こうは倒しても倒しても即座に補充されている。


 終わりの見えない持久戦。


 頼みの綱は……あの仮面の男か。




「やりますねッ! 幻想狩りッ!!」


「そいつはどうも」




 いい動き、と幻想種は言った。


 オレたちにとっては桁違いの攻防が繰り広げられているのだが。


 ヤツらは基準がもうズレているのだろう。


 考えるだけ時間の無駄だな。


 オレたちは氷の騎士たちを相手にすることに集中するべきか。




 騎士として、軍人としては仮面の男を信用するワケにはいかない。


 怪しさ満点だからな。


 だが、オレ個人としては別だ。


 敵の敵は味方。


 こんな状況だ、利用できるものはなんでも利用しなければな。


 それに、ヤツは何よりも先に民の安全について語った。


 だからこそハンターたちも判断が早かった。


 まぁ、こうしてオレたちがこの場に残ったのは結果的には正解だったと言えるだろう。




 氷の騎士が1匹でも市街地に溢れたら。




 あの幻想種は幻想狩りとの戦いを楽しんでいる。


 氷の騎士たちはそれを邪魔させないための護衛たち。


 それは雰囲気でわかる。


 だが、それと同時にヤツが、ヤツらが人間の命に無関心なのも雰囲気でわかってしまう。


 ここでオレたちが食い止めなければ。


 氷の騎士は人々を、それこそ抵抗する力を持たない赤子に至るまで……だ。


 そんなことを許せるワケがない。


 許せるワケがないのだ、が……これは……。




「団長。先ほどの吹雪の霊術、それの余波がなかなか深刻なようですよ。後退のタイミングがズレた連中が負傷しました」


 幻想どもの戦い。


 巻き込まれるだけでも一大事だな。


 氷の騎士どもも区別なく破壊されてはいるが、まぁ、連中はなぁ。


 続々と新しいのが具現化しているからなぁ。


 さて、どうしたものか?




「おぉーーーいッ! 前衛どもッ! うまく避けろよぉッ!!」




 この声は……。


 ッ!! まさかッ!?


 全員、伏せろッ!!




「グレートアーチ、斉射ぁッ!!!!」




 部下たちが一斉に地面に伏したのと同時。


 頭の上を巨大な矢が……矢というより槍だな。


 氷の騎士団目掛けて大量に降り注ぐ。


 轟音と大地が揺れる感触。




「ダーッハッハッハッ!! いい狙いだッ! 改良は大成功じゃいッ!! そぉれッ! 第2陣ッ! 斉射ぁッ!!」




 山人族特有の豪快な笑い声が響く。


 あのオッサン、これまたゴツい得物を引っ張り出してきたもんだ。


 魔獣のバケモノに弩のバケモノをぶつけるとはな。


 だがおかげでオレたちが立て直すための時間が生れた。




剣騎士団(ソードナイツ)のみなさ~ん。おまたせしました~。さぁ~、鎧騎士団(アーマーナイツ)のみなさ~ん、前にでますよぉ~♪」




「どうやら弩騎士団(アーチナイツ)だけでなく鎧騎士団もこちらに派遣されたようですね。陛下の命による派遣なのか、各自団長の判断なのか微妙なところですが」


 後者、だろうなぁ。


 ハンターたちが陛下のところへ向かって、それから準備して来たにしては早すぎる。


 陛下のことだ、規律のために表向き、形だけでも叱責をするかもしれな……いや、そもそも大喜びで褒めそうな気もするな……。


 先帝陛下もそういう気質だったし、政治方針はともかく性格は瓜二つだからなぁ……。




「おぅッ! 生きとるようだなッ! いやぁ、グレートアーチ四式のお披露目の相手が幻想種とはな! なかなか悪くないぞ、ダッハッハッ!! ……なるほど、正真正銘バケモノだな」


「本当ですね~。私も任務で大型軍勢種と戦ったことはありますけど~、なんだかとっても強そうですね~?」


 負傷者は下がり、駆けつけてくれたふたつの騎士団も配置についた。


 こちらの状況は悪くない。


 しばらくすれば市民の避難誘導の引き継ぎを終えたハンターたちも合流してくれるだろう。


 エーテルウェポンを持つクラスSクランが来てくれれば巻き返しも不可能では―――




「さぁ、幻想狩り! 準備運動は充分ですよね! それでは“戦い”をはじめましょう! 生存本能の滾るままに、原始的で美しい殺し合いを楽しみましょうッ!!」




 咄嗟の判断だが、その場の全員に後退するよう叫んだ自分を褒めてやりたいところだ。


「ほぉ~。昔の連中め、なるほど幻想とはよく言ったものだ。さすがのグレートアーチでもアレの妖気のガードを貫くのはまずムリだろうな」


「スゴいですね~。青い妖気がキラキラしてキレイですよ~」


 強い。


 ただ、強い。それだけの存在。


 恐怖とか威圧感とかそういう感情的な部分ではなく。


 あの幻想種が口にしたように。


 原始的で美しい純粋な力。


 幻想、か。


 この光景を呼ぶのなら、幻想という表現は実に的確だろう。




 だがいつまでも見とれているワケにはいかない。


 アレは人間に仇なす魔獣であり、オレたちは人々を護る役目を持つ騎士なのだから。


「しかし団長、どうしましょうか? とても人間が勝てる相手には見えませんけども」


 いや、そんなことはない。


 なぜなら、幻想種が人類の天敵として本当に手の打ちようがない存在感ならば、もっと世界は悲惨なことになっていたハズだ。


 だが実際には幻想種は伝説の存在として語り継がれていただけ。


 それはつまり、それだけ長い……永い時間をヤツらは封印された状態で生きてきたということになる。


 オレたちのご先祖さまは、アイツに、幻想種にしっかりと対応していたんだ。


 ならば、今。


 オレたちだって、再びヤツを黙らせることだってできる! ……かもしれない。


「かもしれない、ですか。まぁ、可能性ですからね。無いよりはあったほうが希望になりますからね」


 それに、実際に目の前で戦っている人間もいるからな。


 幻想種はあの男を見るなり幻想狩りと呼んだ。


 幻想の狩人。


 少なくとも互角以上に認めた相手でなければ、狩人とは呼ばないだろう。


 正直なところ、まだ疑っている部分もあるんだが……こんな状況だからな。




 ……。

 

 …。




 お? どうやらハンターたちも合流したようだな。


 そろそろ頃合いか。


「了解であります! 伝令ッ! 各騎士団及びハンターたちに伝えろ! 我らに勝機アリと!」


 半分以上がオレの憶測でしかない。が、効果はあるだろう。


 仮面の男が扱っているのは正真正銘、人間の霊位。


 人の力がまったく効かない敵ではないという証明だ。


 まぁ、それはもしあの男が敗北したら一斉に気勢を削がれるということでもあるが……ヤツが勝てないならどのみちこの国は滅ぶだろう。




 場の霊気が高まり始めた。


 集まった者たちが、一斉にエーテルウェポンを開放したのだろう。


 なんとも豪勢なことだ。ブルム帝国との戦争でだって、ここまで大盤振る舞いをしたことはないというのに。


 フルパワーで扱えば、その後の反動もシャレにならないからな。


 それでも本音を言えば、オレも少し楽しみではある。


 団長という立場もあって、気兼ねなく本気で力を使える機会っていうのもなかなか巡ってこなかったからな。


 騎士としては、ある種の幸運。


 護るべき者たちを護るため、命懸けで戦える喜びとともに。


 オレもまた、相棒(エーテルウェポン)の名を口にした。

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