特盛バトル! 氷星幻想・その1
異世界転移……ある意味転生?
身体は作り変わってるし。
まぁ、それはそれとして。
俺には英雄願望の類いはない。
だって面倒だもの。
強敵との戦いで自己を高めたい……といった目標もない。
そーゆーストイックな生き方はノーセンキュー。
だからといって、圧倒的な力を、女神の加護使う快感に酔いたいとも思っていない。
勿体ぶるくらいのほうが長く楽しめるし。
適当に、その場の思い付きでのんびり生きる。
ある意味では最高の贅沢、それを堪能しようと決めた。
故に。
それを邪魔する幻想種を放置するワケにはいかないのだ。
「行きなさい。“追い縋る氷槍の宝玉”ッ!」
多数の蒼い水晶の球体。
逃げても逃げても追いかけてくる。
ある程度の距離に近付いた球体からは連続して氷の槍が。
マシンガンかショットガンか。
そんな感じ。
まるで氷の嵐。
それも、一撃が致命傷になるような。
「ふふッ! 掠りもしませんか! さすがに素晴らしい動きをしますね、幻想狩りッ!!」
そりゃどうも。結構必死に避けてるんだけどな。
前世での経験。
と、いってもゲームの……シューティングゲーム、あるいはアクションゲームの知識なのだが。
敵の攻撃を、前に踏み込んで避ける。
下手に離れるよりも攻撃に自ら近寄るほうが、むしろ安全。
もちろんこの場でいきなり試すほどの度胸はない。
何度か試してますとも。
まぁ、コイツほど強力な相手はいなかったけどさ。
……うん。
くぅ~ッ! やっぱり怖いなコレはッ!
氷の槍が近くを飛んでく度に背筋がゾワゾワするなぁ……ふぉッ!
ふぅ。まったく。
対応できるかどうかと恐怖は別だね。
でもビビるのも仕方ないよね?
だって俺の本体の能力はクラスCハンターの上位程度。
本来なら勝負にならない実力差である。
しかも切り札である女神の加護は正常に機能する保証はない。
つまり、異世界生活で初めての死の危険である。
うん? 2回目かな?
初戦も、遺跡でも充分ヤバかったもんな。
もっとも。
ラービーナの本体とかはともかく、発動した術式に関しては女神チートもイケるみたいだな。
普段と変わらなく、違和感なく回避能力が機能してるし。
と、なると直接的な攻撃に気を付ければ……。
気を付けぇ……。
きたぁぁチクショウッ!
「あら残念。もう少しで捕まえることができたのに」
ヤローの触手プレイとか需要ないよッ!?
しかしまぁ、見た目通りパワフルな攻撃してきたなぁ。
ムチのようにしなる触手。
地面、えぐれちゃったよ。
ホントに捕まえる気あったんかね?
まぁいい。
いやよくないけど。
とにかく、余裕をもって避けないと。
ギリギリ狙いだと反発が怖いし。
んで、だ。
追い打ちと言わんばかりにラービーナのキメラ体から次々と触手が。
……うーむ、見た目がなぁ。
肉と内臓と骨なんだよなぁ。
一応、氷の鎧っぽいもので覆われてんだけども。
透明度が高くてなぁ。
視覚的攻撃力高め。
俺には効果抜群ですハイ。
おっと、ビビってる場合じゃない。
根性回避の開始だ。
これがゲームならパターンを覚えるまで粘るのもアリだったんだけど。
さて。目安は祝福の反応。
反応イコール攻撃が来る方向。
それを頼りにひたすら避ける。
うーん、けっこうキツいぞコレ。
何がって、反撃のタイミング……以前に反撃の準備がキツい。
どうも意識が避けるほうに片寄ってるもんだ。
「この程度では続けるだけ無意味のようですね。それなら、もう少し手数を増やしてしまいましょうか」
ラービーナの左右に青と緑の式陣が展開。
氷と風?
あ。
「油断していると細切れになってしまいますよ? ふふ……“蹂躙する氷嵐の暴君”ッ!」
ですよねーッ!?
でっけぇツララ、氷の塊が風にのって飛んでくるッ!
避けきれるか?
いや、ちょっとムリだな。触手もあるし。
うむ。
これは避けられない。
ならば。
避けられないなら……避けないッ!!
全部―――蹴り壊すッ!!
「―――ッ!? あは……はははッ! 素敵ですよ幻想狩りッ!! そうでなければ! そうでなければ戦いになりませんからねッ! ただの作業では面白くありませんからッ!!」
ほんの少しのイメージの差。
殴るよりも蹴るほうが強い。
たったそれだけの違いでしかないが、今の俺には必要な違い。
格上相手の戦いだからな。
溺れるものは藁をも、ってヤツね!
祝福により武具として具現化させた霊気。
祝福により攻撃力をガッツリ高めた技。
とにかくひたすら蹴りまくる!
うむ。効果アリ。
しかしコレだけでは無意味。
だってダメージ与えてないし。
つまりは、ね?
不安だけれどやるしかない。
せめて、思いっきり!
―――ここッ! 触手、もらったッ!!
「―――つッ!? く……ッ!!」
よし。
かなりの反動というか、イヤな手応えはあったけど。
触手、切断完了!
女神の秘宝とやらの影響を力業で押しきってみた。
やっぱ本物の加護は格が違ったな!
『当然じゃな。所詮は万人向けの粗悪品……は言い過ぎか。まぁ、誰でも使えるということは、誰でも制御できる程度の力しか備わっておらんかったということじゃ! しかし……』
うん。
単純に俺の体に優しくないです。
これ、戦闘系の祝福を解除したら相当反動がくるんじゃないかな?
筋肉痛ってレベルじゃないだろうね!
ヤダなー。
だってよ、女神の加護の反動だぜ?
ぜったい痛いに決まってるじゃん。
もっとも。
ここでラービーナに敗北すれば、痛いどころじゃ済まない未来が待ってるからな。
後のことは考えない。
“今”を生き延びなければ“次”は永遠に来ないから。
「……ふふッ。いいですよ……その気迫。何故かわたしの前に立つ人間たちって、誰も彼もが生きることを放棄してしまうんですよね。いわゆる、命と引き換えにしても……と。本当に、本当に―――つまらない。そう思いませんか?」
……うひゃ。
目の色、変わったなぁ。
「生きるために戦うからこそ楽しいのに。初めから死んでしまう前提で戦っても、そんなの面白くないじゃないですか。そういう人たちって、必ずどこかで妥協しちゃうんですよね。これだけのことをできたんだから、もういいだろう……って」
言ってることはちょっとわかる。
つまりは、失敗する前提で行動してるようなもの。
自分を奮い立たせるとか、まぁ、最後の意地とか。
そういう美徳は否定しないけどさ。
たぶん、ラービーナに女神の秘宝を使った人間も。
そのときの状況は知らないが、こんなこと語り始めたってことはそうなんだろう。
「だから、ですね? わたしを倒すために挑んでくれるのが嬉しくて嬉しくてたまらないんです。だから……だから。どうか最後までわたしのこと、受け止めてくださいね?」
あ、ふーん。
もしかしなくてもこっからが本番?
お前……ホント、もう少し人間を侮ってくれてもいいのよ?
『そうですね。お兄さんのこと、大声で喋ってしまってもいいなら手加減してもいいですよ?』
こやつめ。ハハハッ。