表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

112/306

一方そのころ、お城では

「なかなか珍しい天気だな。先ほどまでは普通の夜空が見えていたはずなのだが。シュラルバイン、貴様がかつてオヤジやジイさんに支えていたころにもこんなことはあったのか?」


「いいえ、陛下。わたくしも幼少のころよりバルジャナリア家の執事長を務めておりましたが、このような現象はまったく記憶にございません」


「そうか。貴様がそう言うならそうなのだろう。しかし……魔導院の術師どもめ、身の丈に合わぬ玩具を弄り回したようだな?」




 若き皇帝の視線の先。


 多額の投資で整えた魔導院の設備、それが炎上し崩壊する光景。


 そして感じる圧倒的な妖気。


 皇帝アンタレウス・バルジャナリアは普段と変わらぬ不敵な笑みを浮かべている。


 しかし、長く彼の側に控えていたシュラルバインは内心の動揺を見逃しはしなかった。




「ふむ。陛下、まずは紅茶を一口いかがでしょうか?」


「貴様、オレをからかって……いや、そうだな」


 いつものように、自然な動作でカップを口元まで運ぶ。


 紅茶の苦味。


 砂糖漬けのレモンの甘味と酸味。


 少なくとも、味を識別できる程度には落ち着いている。


「よし……まずは民衆の安全確保だな。魔導院の連中に解決を期待するのは時間のムダだろう。問題は遠くに見えるあの壁か。アレからも強力な妖気を感じるからな、ただでは通してくれんだろう。さて―――」


「失礼します。陛下、現場から数名のクラスSハンターが」


……。


…。



「……って、いうワケでさ。とりあえず魔導院の周囲から逃がすのはいいとして、外側の結界には触れないほうがいいかもね」


「ふ……む。その仮面の男は信用できるのか?」


「かの魔獣とは敵対関係にあるだろうことは間違いないかと。アレが自身を幻想種と名乗り、その仮面の男を幻想狩りと呼んでおりましたから」


「だが謎の仮面についてはブルム帝国やフィンブルム王国で狼藉を働いたという報告があったはずだが?」


「たぶん、ソイツらが仲間なのは当たりだぜ? 仮面に動物の……動物っつーか鳥かなにかだったがよ、描かれてたからな」


「ですが現状、彼の助けを借りなければ幻想種には太刀打ちできないかもしれません。大型軍勢種と帝王種を足して十倍にしたようなバケモノでしたから」


「ふーむ……それほどか。だが納得もできるか……」




 皇帝という地位にあるが、アンタレウスは戦いを知る人間でもある。


 故に、この居城まで届いた妖気からハンターたちの言葉が大袈裟なものではないと理解できる。


 しかし仮面を信用できるかは別であった。


 せめて直接言葉を交わすことができれば話も変わったのかもしれないが。


 数秒の沈黙。そして。




「いいだろう。選択肢など有って無いようなものだからな。ついでだ、帝都にいる上級ハンターを全て向かわせろ。城の防衛は騎士だけで充分だろう。ガルバリー、貴様たち近衛兵にオレの命を預ける。もちろん異議はないな?」


「ガッハッハッ! なにを仰有るかと思えば! この国の一大事にそのような命令をされて、いったい誰が不満など抱くものですかッ! 喜んでこの命、陛下のためにッ!! ……まぁ、若い連中にはなるべく生き残ってもらわんと困りますがな」


「うむ。結界との接触は兵士たちに監視させるとして、この混乱に乗じる不届者については」


「そちらはギルドで対応しましょう。ハンターたちも何かしら役目がなければ不安でしょうから。非常時ですので、だいぶ手荒い取り締まりになるかもしれませんが……まぁ、火事場泥棒に慈悲など無用でしょう」




 それぞれが、それぞれの役目を果たすべく行動を始める。


 アンタレウスはそれを見届けると、シュラルバインとガルバリーのふたりを連れてバルコニーへ向かった。




「さて……失敗すれば帝国が瓦解するが、巧く鎮めることができれば外交の手札が増えるか……ハッ、幻想種ときたか」


「帝都に潜り込んどる“草”どもも頭を抱えておるでしょうな。まさか虚偽の報告を送るわけにもいかないでしょうが、幻想種が実在したなどと報告したところで正気を疑われるでしょうからな!」


「その辺りの情報統制も、使いようでは他国を牽制できるかもしれん。あえて些事であると公表するのも悪くない。民衆や商人から真実が外へ外へと漏れるだろうが……フフッ、情報がどう化けていくか楽しみだな?」


「この状況を楽しめるのは結構なことでございますが、加減を間違えて民の不興を買うようなことにならぬよう」


「当然だな。まぁ、心配するな。そのあたりもオヤジたちにしっかりと叩き込まれたからな」




 独りの皇帝など滑稽でしかない。


 国を導くのが王の役目だが、それも民衆が国を支えてくれるからこそ意味がある。


 代々の統治者がそれを忘れずに受け継いできたからそこ、厳しい環境でありながら帝国を名乗るほど発展したのだ。


 当然、アンタレウスも民衆を蔑ろにするつもりなど皆無である。


 だからこそ、いかにしてこの状況を国の利益に繋げるか、それを真剣に考えていた。




「しかし……幻想種か。どんなものか直接この眼で確かめてみたい気もするが……うむ、もちろんそんな無謀はせん。だから貴様ら、素振りを止めろ。いったいその角材はどこから出してきたんだ」


「執事の嗜みです」


「近衛の務めですな」


「……有能な家臣に恵まれたものだな。まったく」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ