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マリオネットは自由を得る



───そして、全てはゲームの通りに進んでいった。




2週間後に学園の中庭に呼び出された『シェリナ』。そこにはヒロインの他、傍らには王太子を始め、ヒロインを護るように攻略対象の全員が。王太子ルートをプレイした時は王太子とヒロインだけだったのに。

中の私が「え、もしかしてハーレムエンド?清純そうなのに意外と…」とか考えてようが、『シェリナ』はちゃんとお仕事をする。


でもおっかしいんだよねぇ。

何故か暴漢未遂事件の証拠品が出されないどころか、他の容疑についてもヒロインや攻略対象の証言のみで一向に証拠品が出ないの。確かにゲームでは『シェリナ』の部屋にある筈の動かぬ証拠の数々を、王太子が提示してたんだけどなぁ。

「おいおい、それで侯爵令嬢を問い詰められるの?」とは思ったけど、一応ちゃんと話は進んだよ、やや強引だったけど。

断罪されて王太子には婚約破棄された。内心「王様に許可とってんのか王太子ー?」とか思ってようが、体は勝手にヒロインに襲い掛かろうとして取り押さえられるわけで。

で、色々喚く『シェリナ』を王太子が拘束させて、牢屋へ一直線~。


翌日には「あえて殺しはしない。お前は平民となって絶望を噛み締めろ」とか王太子が罵ってきて、身一つで馬車に乗せられ王都を出て暫く、何もない所でポイっと捨てられてしまいました。


道しかない広すぎる平原に。

汚れてるけど華美なドレスをきた令嬢を。

無防備に。



……うん、あのね。


すごいなぁ~って思わず笑っちゃうよ?


普通の罪人には事情聴取やら裁判やらあるよ?

これ、いくら罪人だからって侯爵令嬢をこの扱いはないわー。

魔物とか野盗とか出るこの世界、令嬢を街の外に捨てるって「平民になれ」というより普通に死ねといってるようなもんだからね?わかってんのかな王太子。


そういやゲームでは王様もお父様も動いた描写はなかったっけ?侯爵令嬢をこんな風に扱うなんて、いくら罪を犯したからって侯爵家を軽く扱ってると取られかねない。

…うーん、王家に借りを作らせるために『シェリナ』は売られたのかな?あはは。




とか色々考えているんだけど、状況はさっきから全く変わらないままだ。

『シェリナ』は絶望してるのか、呆然と地面に座り込んだまま。動こうよ、『シェリナ』~。いい加減に動かないと、本気で襲われてヤバいと思うよー?


そう思った所で動いてくれるなら苦労しないわけで。さーて、


「どうしたものかな、これ?」


『シェリナ』がポツンと言う。


……偶然だね?私も同じ事おもったよ。

『シェリナ』は魔法も使えるし、この状況でもなんとかなる能力はあるはずなんだよ。


「でもシェリナがこの状況で生きていけるとは……って、え、あれ? ……え??」


また同じ事を、と思って、違うことに気づいた。




……まさか。


口、が、動く?




「……あ……、あー!! あーえーいーうーえーおーあーおー!!」


試しに発声練習をしてみる。声が出る!

腕を持ち上げてみる。動く!足に力を入れてみる。立てる!?


「うそっ うそ嘘ッ!?」


ステップを踏んで、クルクル回って。

…すごい、すごいすごいすごい!!身体が自由に動く!!

全部、全部、思った通りに!!


「嘘みたい、動ける!自由に!!思った通りに!!私の意思でっ!!!」


嬉しいっ

うれしい嬉しい嬉しいっっ!!


昔だったら当たり前だったことが、今はもう奇跡だ!!

視界が自分の動いた通りに動く!もう勝手に身体が動いて、勝手に視界が動くこともない!!口が毒を吐くこともない!!


「自由だ!!私、自由なんだーっ!!あはははははっ!」


クルクルクルクル。

周りすぎてドサッと地面に倒れるけど気にしない!!「あはははっ」と子供みたいに笑いが止まらない。

頭上に輝く太陽に両腕を伸ばして叫んだ。


「強制力だったんだ!!ゲームが終わったんだ!!もう操り人形(マリオネット)から解放されたんだぁーっ!!!」


「良かったですね、お嬢様。」









「………へ?」


聞こえる筈のない、聞きなれた声。

え、なんで?


「………せお?」



慌てて飛び起きたら仰向けに寝転んでた私の頭の方向から、セオが私に向かって歩いてくる最中だった。その姿が信じられなくて、目をまん丸に見開いてしまう。

え、どうしてここに?ここ、王都の外だよ?平原ど真ん中だよ?


「ど……っ、どうしてここにセオが!?」


「転移魔法ですぐに。私はお嬢様の従者ですから。」


「いやいやいや。私から外されたでしょ!それ以前にここ街の外だよ、何してんの!?」


驚き訴える私の姿も、セオは楽し気に見てくるだけだ。


「ふふっ、成程。本来のお嬢様はこのような性格をなされていたんですね。まるで平民の元気の良いお嬢さんのようだ。」


ゥグッと言葉が詰まる。

つい心の中の口調そのままに喋ってたけど、どう考えても侯爵令嬢の話し方じゃない。

どう説明しようかと考えあぐねる私の前で、セオが片膝をついて深々と頭を垂れてくる。まだ座り込んだままだった私の目の前で、長い黒髪がサラリと流れる。


「もう長く仕えてきましたが、初めて会うような気分です、シェリナお嬢様。本来の貴女にようやく逢えた。」


「……へ……?」


思いがけない言葉にキョトンとする私に、セオが妖艶に微笑んだ。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



驚いた事に、セオは『シェリナ』の中の私に気づいていたらしい。しかもセオが知らせたのでお父様まで知ってるとか。


「私は貧困街(スラム)出身ですからね。保身のために、相手の内心を目を見て探る癖があるんです。」


どうやら気づいていなかっただけで、私は唇以外に目にも僅かな自由があったらしい。

感情の揺れ幅が大きいと目元がひくついたり、僅かに目が潤んでいたり。

道理で目をやたらと見てたわけだ。メンタリストになれるよ、セオ…。


「お嬢様と初めて会った時は驚きましたよ?あまりに深く昏い絶望した瞳をしておられましたから。貧困街にだってあんな絶望に満ちた目をした子供はいませんよ?」


「……そこまでだった?」


「ええ。元気で高飛車な口調と表情とはあまりに裏腹な、今にも自殺しそうな昏い瞳でした。あまりの器用さに最初は感心して観察していたものです。数か月もすれば表面と内面の人格が違う事に気が付きましたが。」


「観察…。」


なんか微妙な気持ちだ。あの頃のセオといえば凄く可愛くて純粋そうな感じだったのに…そうか、観察してたのか。

呆然としてると、ふと馬車の立てる荒々しい音が耳に入ってくる。通りすがりの馬車かと思ったらなんか見覚えありまくる───()()侯爵家の馬車じゃないの!?


「さて、お嬢様。色々とご質問もございますでしょうが、まずは屋敷に帰りましょうか?」


「な、何をいってるのセオ!私は罰を受けて平民になったのよ?もう屋敷へは帰れないわ。」


「大丈夫ですよ。あれらは全て王子の独断で、正式な物ではありません。それに王太子があの平民の小娘に現を抜かしているのを私が侯爵様に逐一報告いたしておりまして、侯爵様は既に王太子殿下の不貞として婚約破棄を申し出ておりました。」


「え!?」


なにそれ、お父様いつの間に!?


「ただでさえお嬢様は不幸な呪いを背負っておいでです。その上、大切になされないならば王太子であろうが娘はやらん!と侯爵様は非常に怒っておいででしたよ?」


「お父様!?」


うそ。私、切り捨てられたわけじゃなかったの?


「しかし王太子殿下の所業を改めさせるので婚約破棄は考え直すように国王様が仰られ、私は断腸の思いでお嬢様の元を離れました。王太子殿下がいかにお嬢様を蔑ろにしているか。そして王太子殿下を誑かす小娘が他の身分ある男にも媚を売っている様々な証拠をより多く国王様に提出する為に。何よりもお嬢様がなさった罪の証拠を全て隠滅するために。」


「え。」


ど、どぉりで断罪の時にある筈の証拠品が出されなかったはず!!

セオが私の傍から離れたのってそれでなの?ゲームと理由が違いすぎるよ?


「ご安心を、全ての処理はすんでおります。……そんな時に今回の王太子殿下からの許可なき婚約破棄。お嬢様の証拠なき罪よりも、余程そちらの方が問題になるでしょうね?」


「………。」


あの。今の話じゃヒロインと王太子殿下の方が立場が悪そう…?


「さぁ、まいりましょう。」


セオの完璧なエスコートで馬車に乗り込み、呆然としたまま侯爵家に戻っていく。

え、いいのか、これ。



ゲームの強制力はどこいった??



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