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元マリオネットは回答する


───……プロポーズ、された。



……プロポーズ、されたよね? 今、セオに。



ようやく脳が回転を始めたけど、状況に頭がついていけない。


……だって、告白したのは私なのに。なんでセオにプロポーズされてるの?

今日ってあれだよ、意識してもらうのが目的だった筈だ。告白すら予定外だったのに、どうしてこうなった!


こういう場合ってどうすれば!?

結婚となると色々厄介なこともあるし、この世界は身分とかも……、



───考えもしなかった展開に、完全にパニックになったのは仕方ないと思う。

パニックになった頭でグルグルと考える私の手をセオが取る。そっと持ち上げられて


「色々お考えのようですが、障害は全て私が取り除きますし、そもそも了承以外の返事は受け付ける気はございませんので。リンはただ御心のまま答えてくだされば良いのですよ。」


手の甲に、セオの柔らかい唇が触れた。チュ、と軽いリップ音。

上目遣いで色気たっぷりに微笑まれ───、



……男性に免疫がないうえに、そもそも既に限界状態だった私は、あっさりと意識を手放したのだった。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



気が付くとガタゴトという音と、小さく規則正しく響く振動がする。しかもなんだか暖かいものに包まれてて、気持ちが良い。


この振動は馬車かな。移動中の乗り物って眠気誘うよねぇ。

今日はどこかに行ってたんだっけ……?


ぼんやりする頭で薄っすらと開けた視界にまず飛び込んできたのは、見覚えのある馬車の窓。やっぱり馬車だった。でも何か違和感がするような?


「………っ ぅわあぁぁぁぁぁあ!!??」


自分の現状を把握した途端つい悲鳴をあげてしまったのは仕方ないと思う!


だってだって、セオの膝に横向きに座らされてたんだもん!

あぁぁ、背中にセオの腕の感触が、っていうか身体の右側全体が、お尻が、太ももの裏が!あらゆるところがセオと密着して!

かつて経験したことのない近さに、一気に体が緊張して熱くなってくる。


「ああ、お目覚めですか?」


セオの凄く甘い、蕩けるような微笑みがすぐ間近にある。こんな微笑み見た事な……、




ポンっと頭の中に、意識を失う前にあったアレコレが浮かび上がった。


……あった。気を失う前に見てた。





あぁぁ!

レストランでのやり取りを思い出して、心臓があり得ない程バクバクしてきた。


「突然意識を失われましたので、馬車で屋敷に帰る途中です。お顔が真っ赤ですが、熱はありませんか?」


そう言って綺麗な顔を更に近づけてきたかと思うと、おでこをコツンと……。


やめて!?トキメキで殺す気!?

声の出ない悲鳴をあげてワタワタ逃げようとする私を、増々力をこめて抱き締めてくるセオ。その身体は小刻みに揺れて───

って、おい。


「セオ!!からかってるでしょ!」


笑ってるのわかってるんだからねっ


「申し訳ありません、お嬢様。あまりに反応がお可愛らしかったので、つい。」


「~~~~っ!?」


何なの、セオは私を心臓破裂で殺す気なの!?嬉しいやら恥ずかしいやら、もう感情がぐちゃぐちゃだよ。


「もう、いい加減降ろして!」


自分の命が惜しい私は怒ったフリで膝から逃げようとするのだけど、セオの腕は全然緩む様子がない。

このままじゃトキメキ過ぎて死ぬ。切実に放して欲しい。

大体、馬車は対面で座れるようになってるんだからそうしようよ。わざわざお膝に乗せなくていいでしょう。

でも抵抗は難なく封じられ、更に片腕で肩を抱き込み固定されて真正面から近くで顔を覗かれる。


「その前に、お返事を聞かせていただけますか?」


「え?」


「私の傍にずっといたい、というリンの言質は得ているので強引に進めても良いのですが。やはりプロポーズをした以上、お返事を頂きたいのです。」


「………っ」


体が一瞬で固まった。

その話をこの状態でするの?恥ずかしさとトキメキで頭が煮えてしまいそうな、今?


いや無理でしょう!大体いきなりのことでどう答えたらいいかもわからないっ。

そりゃプロポーズは嬉しいけど。物凄く嬉しいけどさっ

この世界での結婚って家が凄く関係してくるし、そもそも私は───



そこでようやく。セオに言うべき事があるのに気づいた。



そ、そうだ。あの事はまだ伝えてないよ。

さすがにこんな大事な事、ちゃんと話した上で考えてもらわないと駄目だ。

むしろ勢いとはいえ告白した時に一緒に話すべきだったよ。


……よし、頭も冷えた。



「あのね、セオ。セオも私の事を好きだって言ってくれるのは、凄く嬉しい。その先の事まで決めてくれて、すっごく嬉しいよ。」


「ひとつ訂正を。『好き』ではなく『愛している』ですよ。」


「……っ そ、そう言ってくれるのは凄く嬉しいよっ!?」


やっぱり殺す気っ!?


わざわざ恥ずかしい訂正されて、せっかく冷めた頭が再度沸騰した。

頑張れ私、負けるな私。本題は今からだ。


「ゴホンッ……でもね。今まで異性として意識されてないと思ってたし、まさかこんな話になるなんて思ってもいなくて。私、セオにまだ話してない事があるんだ。」


「私に話していない事、ですか?」


「そう。」


セオはお父様に雇われた身だから、今までは話せなかった。今はまだ報告されて止められたら困るし。

でもセオはプロポーズまでしてくれたし、黙ってる訳にはいかない。


「私ね、結婚しても身分も何もあげられないの。いつか家を出て、平民になるつもりでいるから。」



目を見開いたセオが、ゆっくりと近づけてた顔を離した。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



お父様からは「好きな相手と結婚しなさい」と自由を許されている。相手が誰であっても、例え平民だろうと、私ごと守るからって。

でもそういう訳にはいかない。お父様が許してくださっても、貴賤結婚は社会的に認められない。マグレナシカ家に迷惑をかけるだろう事は、シェリナの中にいた私にはわかってしまう。

かといって貴族としての政略結婚も無理。


だから、いつか貴族の身分を捨てて平民になるつもりだった。


医療技術の発達に貢献しているのも、持っている知識を提供しているのも、これまで育ててもらった恩を返す為。そして平民になった時に生活していく為の準備だ。

今から顔を繋いでおけば、平民になった際に医者の助手として雇ってもらいやすいだろうから。


貴族か、そうじゃないか。結婚を決める上でこのうえなく重要だ。

貴族の身分を捨てるなんて普通なら考えられないし、前提条件が違いすぎて、これはプロポーズ取り消しになっても仕方ないよ。


結婚なんてまだ遠い話だと思ってたからなぁ。



「───リンは貴族が嫌だから家を出られたいのですか?」


少し考え込んでいたセオが、私の目を見て聞いてきた。思わぬ勘違いに慌てて否定する。


「貴族が嫌、ってわけじゃないよ。お父様も結婚の自由を許してくださってるし。…でも世間からは許されないでしょう?これ以上の迷惑はかけたくないし、だから平民になろうと思うの。」


「成程。貴賤結婚の問題ですね?それが無ければ、身分はどうあれ結婚していただけますか?」


「え。えぇと、セオがそれでいいなら喜んで?」


あれ?なんか思ってた反応と違う。何故そんなにこやかに笑ってるの。


「では何も問題はありませんね。私は伯爵家の養子となっており、将来は伯爵位を継ぐことになっていますので。」


ん?


……。


…………。


「はくしゃくぅぅぅぅぅ!!?」




セオからの説明によると、将来王家に嫁いで城にあがる筈だった私についていくには孤児で平民のままでは無理だからと、お父様の計らいで跡継ぎのいない伯爵家の養子になったそうだ。

何か取引があったんだろうけど、その辺は誤魔化された。


「『本当のお嬢様』を知る者が傍にいなければ、貴女がまた出会った頃のようになってしまいかねないと旦那様にお頼みしたのです。場合によっては貴女を連れて逃げる準備もしておりましたので、お望みならば平民として暮らすことも出来ますよ。」


更に凄い告白がきた。

そんな駆け落ちのような準備まで……いや、悪役令嬢の『シェリナ』が執事と駆け落ちなんて同意するわけないから、実質は拉致?


「セオ、あなた、そんな事までしてたの……?」


「お嬢様の為なら何でもする所存でしたので。我ながら当時の貴女に対する執着心と独占欲は呆れる物があると思っております。リンを知った今となってはそれ以上ですが。」


「………。」



呆然とする。



なんか、セオの想いが予想以上に、重い……?


『貴女が私を望んでくださるのなら、私も遠慮は致しません。』

『そもそも了承以外の返事は受け付ける気はございませんので。』

『リンの言質は得ているので強引に進めても良いのですが。』


これまでのセオの言葉が脳裏に浮かぶ。


───ようやく悟った。貴族も平民もセオには関係ないんだ。

セオの言った通り、答えは最初から一つしかなかった。




「……リンは、こんな私では嫌ですか?」


「嫌なわけ、ないじゃない。」



エピローグまで収まらなかったです・・・っ

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