荒井新と魔法の急須~全然違うけど、アラジンと魔法のランプ実写版を記念して~
ちょっと笑える日本番アラジンと魔法のランプ的な?
荒井新と魔法の急須
僕は荒井 新。 小学三年生。
今日は日曜日で、友達3人と隣町の探検に来ている。
小さな田舎町。 野山が遊び場だ。
友達の[ケン]が小高い山に鳥居があるのを見つけた。
[ノブ]が行こうと言うので山に入った。
獣道のような細い道を登って行くと小さな鳥居を見つけた。
奥にはこれまた小さな祠がポツンとあった。 覗いてみると、中は埃や枯れ葉でまみれている。
お母さんにいつも神様を大切にしなさいと言い聞かされているので放っておけない。
「失礼しま~~す」
僕は体がやっと入る位の小さな祠を開けて中に入り込んでいる枯れ葉や埃を手で掻き出す。
ケンもノブも、祠には興味はなく、その辺で遊んでいる。
祠の奥には15センチくらいの小さな仏像が置かれている。 優しそうな顔をして座っている綺麗な顔の仏像だった。
その仏像の後ろに入り込んでいる枯れ葉を掻き出そうと手を伸ばすと、何かが当たった。
それはオママゴトとかで使う5センチ位の小さな急須だった。
「誰かが放り込んだのかな?」
とりあえずそれをポケットに押し込み、奥を綺麗にする。
「そうだ。 ハンカチ·····」
急須を入れたのと反対側のポケットに入っていたハンカチを取り出し、仏像を拭いてあげると、綺麗になった。
「よし!」
僕はそのまま急須の事などすっかり忘れてケン達と遊び、日が傾いて来たので家へと急いだ。
◇◇◇◇
「ただいまぁ~~」
「お帰り。 まぁ! また泥だらけになって! 先にシャワー浴びてらっしゃい」
「は~~~い」
僕は部屋に入り着替えをひっつかんでから部屋を出ようとした時、ポケットにある何かに手が当たった。
「何?····あぁ、急須」
ポケットの中の、オモチャの急須を机の上に置いて風呂場に向かった。
「フンフフ~~ン、フフンフ~~ン 今日は良い事をしたな。後でお母さんに誉めても~~らおっと」
鼻唄を歌いながら、シャワーを浴びた。
機嫌よく風呂から上がり、リビングを通ると肉が焼ける良い匂いがする。
「直ぐに御飯が出来るからね」
「は~~い」
タオルで頭を拭きながら部屋に入った。
机の上には三部作で上映された映画「ユニオンビースト」を見に行った時に買ってもらった「アルナス」と「カイザー」と「ザギ」のフィギュアが並んでいる。
キメラのような色んな動物が融合した姿のフィギアで、アルナスは狼の頭で黒っぽく、カイザーはライオンの頭で白っぽい。 そしてザギはドラゴンだ。
「やっぱりザギが一番だね!」
買ってもらって以来、いつも眺めて楽しんでいる。
「あっ、急須」
机の上に転がっている急須が目に入った。
全体が茶色くなっていて、かなり汚れている。
僕はシュシュ!とティッシュを抜き取り、急須を拭いた。
汚れが落ちてくると、子供の目にも逸品なのがわかる。 5センチ程の小さな急須にもかかわらず形は細かい所まで本物そっくりに作ってある。 そして白っぽい青の地色に鮮やかな色使いで鳥や草花の細かい絵が描かれている。
蓋を開けようとしたが、やっぱり開かない。
「開くわけないか。ん?」
少し汚れが残っている。 指で擦ってみた。
すると、注ぎ口から白い煙がムクムク出てきた。
「えっ? えっ? えっ? えぇっ?」
その煙が少しずつ形を成してきて、20センチ程の小さな人が胡座をかいているような白い塊になり、少しずつ色が出てきた。
急須と同じ白っぽい青の着物に紺色の袴をはき、よくテレビで見る浪人風のチョンマゲを結っていて、脇差しまで付けている侍だの姿だった。
「えっ?」
目が合った。
『呼んだで御座るか??』
「まさか······ジニー?!」
『じに? それは何で御座る?』
「君は誰?」
『拙者で御座るか? 拙者は······拙者で御座る』
なぜか少し目が泳いでいる。
「拙者さん?」
『そ······そうで御座る下部よ』
「下部? 僕は新。 荒井新だよ」
拙者は僕をじっと見つめる。
「もしかして、願いを3つ叶えたりしてくれるの?」
『良く知っているな? 願いを3つ·····』
来た来た! やっぱり願いを叶えてくれるんだ!!と、喜んだ。
『願いを3つ叶えてくれたら、消えてやるで御座る』
「????僕が叶えるの?」
『そうで御座るが、何か?』
開いた口が塞がらない。
「新! 御飯出来たわよ!」
リビングからお母さんの声が聞こえた。
「御飯食べて来るから、ここで大人しくしていてね!」
リビングに行くと、美味しそうなハンバーグが並んでいた。
「やった!」
「あら? 新?」
お母さんが不思議そうに僕を見る。
横を見ると拙者が肩の上に浮かんでいた。
「あっ!! こ·····これは何でもないんだ。えっと·····」
何とか誤魔化そうとしたが、何をどう言えばいいのか分からない。
「新、その服の肩は破けているから、出しておいてって言ったのに」
「へっ?」
拙者が見えてないの?
拙者を見ると澄ました顔で浮かんでいる。
「もしかして見えてないの?」
拙者に小さな声で聞いてみた。
「下部にしか見えないで御座る」
ちょっとホッとした。
「後で出しとく。 いただきま~す」
大好きなハンバーグを味わう事もできず、急いで食べて部屋に戻った。
「あ~~ビックリした。 何でついて来たんだよ」
『拙者は下部から離れる事は出来ないので御座る』
「じゃあ、ずっと一緒?」
拙者は頷く。
「もしかして、学校にも付いて来る気?」
『がっことは、何で御座るか?』
「えっと~~、あぁ、寺子屋? [がっこ]じゃなくて学校」
テレビの時代劇で子供が勉強する場所の事を寺子屋と言っていたのを思い出した。
『ほぅ。寺子屋の事を学校と言うので御座るか。もちろん一緒に行くで御座る』
その時、拙者はハッとして、机に向かって飛んでいった。 机の上に降りるとタタタッと大事なフィギアの前に走って行き、脇差しから刀を抜いたかと思うと、ザッザッザッ!と、三体のフィギアを真っ二つに斬った。
「わぁぁ~~~っ!! 何するんだ!!」
慌て拙者を机から払い除けると大事なフィギアの前で膝から崩れ落ち、ガックリと肩を落とした。
「大事な物なのに!」
『えっ? 妖怪では御座らんのか? 拙者は下部を守ろうと·····』
「これはオモチャ! ただの人形! 見て分かんないの?!」
拙者は机に戻り、フィギアに近づいた。
『本当で御座るな。 これは早とちり早とちり、ハハハハ』
「笑い事じゃないよ。 3ヶ月分のおこずかいを我慢してやっと買ってもらったのに······ザギィ~~」
『大丈夫で御座る。 こうやって······』
拙者は切られた上半身を1つずつ元の様に上に乗せていった。
見た目は戻った。
「上に乗せても元には戻らないよ!」
『これではダメで御座るか?』
「ダメに決まって········あれ?」
くっついてる。 と言うより元に戻っている。 斬った跡もない。
「どうなってるの? さっき斬ったよね」
『下部が大切だと言うので元に戻したで御座る。 何か問題でもあるで御座るか?』
「な······無いけど·······もう、勝手に何かを斬ったりしたらダメだからね!」
『下部がそう言うなら、聞いてから斬るで御座る』
何だか先が思いやられる。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「絶対悪さをしちゃダメだからね! 勝手に何かを触ったり、斬ったりしたらダメだからね! 学校では相手をしないからね! 話しかけても返事をしないからね!」
翌朝、拙者に何度も念押しする。
『何度も言わなくても大丈夫で御座る』
「本当かなぁ······」
とにかく、拙者は居ないと思って学校に行くしかなかった。
その時後ろから、ポンと肩を叩かれた。
「わっ!」
飛び上がる程驚いた。
「ハハハハ、何をそんなにビックリしてるんだよ? おはよう!」
ケンだ。
「お···おはよう」
「今日は算数の小テストだぜ。勉強してきたか?」
「あっ!! すっかり忘れてた!!」
昨日はそれどころじゃなかった。
「急ごう!」
急いで教室に入り、算数の教科書を開く。
『これは何と書いてあるので御座るか?』
この際無視。
『数字がなぜ上と下に別れているので御座るか?』
とにかく無視。
『···········』
拙者は諦めてその辺を飛んでは、色んな所を覗き込んでいる。
悪さをしないか気が気ではない。
チラチラ見ながらテスト範囲を復習する。
先生が入ってきた。
お母さんと同じ位の歳の、痩せていて神経質そうな先生だ。
拙者が先生の前に飛んでいき、顔の真ん前で静止する。
先生の顔にへばりつく仕草をする。 今度は頭の上で逆立ちして見せる。 そして、先生の顔の前でお尻を突きだしペンペンと叩いてみせた。
「プッ!!」
笑ってしまった。 ヤバい!
「荒井君? どうしました?」
「何でもありません」
あの野郎!! 殺す!
「はーい、小テストをします!」
「「「えぇ~~~っ!」」」
みんなは分かっているが、お約束の反応。
「教科書をなおして下さい!」
分数のテストだ。 苦手というわけでもないのだが、4番だけがどうしても分からない。
拙者は楽しそうに1人1人のテストを覗き込んでいる。
『4番は下が7上が2とみんなは書いているで御座るが、下部はなぜ書かないので御座るか?』
拙者! 良くやった!! ちょっとズルいがまぁいいか!
お陰で満点だった。 ちょっと見直した。 さっきのはこれでチャラ。
◇◇◇◇
お昼休み。
ケンとノブと一緒にお弁当を広げて食べた。
ノブはお母さんの具合が悪くて今日はパンを食べている。
1つはあんパンだ。
『この美味しそうな食べ物は何で御座るか?』
拙者が聞いてくるが、答える訳にはいかない。 そこで思い付いた。
「ノブ、そのあんパン美味しそうだね。 こしあん? 粒あん?」
「こしあんだよ。 僕、こしあんの方が好きだから、いつもお母さんはこしあんパンを買ってきてくれるんだ」
「僕もこしあんが好き!」
「だよね~~」
『こしあんパンと申すのか。 こしあんパンが食べたいで御座る!!』
僕は、はぁ~と、ため息をつく。
何度もしつこく言うので、仕方なく帰りにお小遣いを使ってこしあんパンを買った。
誰もいない場所で拙者にこしあんパンを袋から出して渡してあげた。
あんの所まで食べきれるかなと、思っていたら、なんと一口で食べてしまった。
「体より何倍もあるパンをどうやって食べたの?!!」
『口でモグモグして食べるので御座る。 他にどうやって食べるので御座るか?』
考えるのをやめた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
拙者がいるのにも慣れてきた。
拙者を無視して、リビングでテレビを見ていた。
するとマク○ナル○のコマーシャルがあった。
『あの薄茶色の細長いのは、何で御座るか?』
部屋に入ると聞いてきた。 テレビの前でへばり付いて見ていたあれだ。
「あれはフライドポテト。 じゃがいもを油で揚げた物」
『あれが食べたいで御座る!!』
電車で行かないとマク○ナル○はない。
「えぇ~~、この辺には売ってないんだ」
『大丈夫で御座る。 売っている所まで付いて行くで御座る』
はぁ~と、ため息。
「そうだ! 願いを3つ叶えたら消えるんだよね! もしかして、あんパンで1つは叶えたってこと?」
『そうで御座る』
俄然やる気が出た。
「でも、お店のある町までは遠いから、日曜日まで待ってね」
『日曜日で御座るな?』
拙者はなぜかこの部屋に戻ってから、ずっとザギの上に跨がっている。
その場所が気に入ったみたいだ。
変な奴。
拙者が居ることに違和感が無くなった。
拙者も馴れたのか、家でも学校でも大人しくしている。
たまに前みたいな悪ふざけをするが、なるべく声を出さないように笑えるようになってきた。
◇◇◇◇
日曜日、お母さんの許可をもらい、電車に乗って大きな町までやって来た。
マク○ナル○に1人で入るのは初めてだったのでドキドキしたが、無事Lサイズのポテトを買い、人気のない場所で、今度は二人で半分こして食べた。
何だか少し大人の味がした気がした。
2つ目の願い、クリア!
◇◇◇◇◇◇◇◇
夏休みに入った。 拙者とエアコンの効いた部屋でダラダラしていた。
拙者は、今日もザギの上に跨がっている。
「ねえ。 拙者は普通の人間だった事はないの?」
『········あった····気はするで御座る』
「その格好からして、江戸時代の人?」
『さあ?』
「覚えてないの?」
『残念ながら、ちゃんと思い出せないので御座る。 しかし、名前は思い出したので御座る!」
[拙者]が名前じゃなかったのかよ。
『牟田神東 太郎喜左衛門乃助佐武郎衛門が、本当の名前で御座った』
「···········」
もういい。 拙者でいいじゃん。
「じゃあ、何で急須に入ったかも、分からないの?」
『········残念ながら。 でも、拙者は幸せで御座る。 こうやって新とも会えたし』
初めて名前を言ってくれたよ。
「僕の名前を覚えていたんだ」
『下部の名前を覚えるのは、当然で御座る』
なんだかなぁ~。
「新! 御飯出来たわよ!」
お母さんからお呼びがかかった。
「は~~い!」
今日はお父さんの帰りが早かったので、久しぶりに3人での夕食だ。
いや、四人?
拙者はいつも、こっそり僕の御飯を横取りする。
でも、サイズに合った量(お米一粒とか)しか取らないので、大丈夫。
食後、みんなでテレビを見ていると、タレントが遊園地で乗り物に乗っている映像が出た。 ジェットコースターに乗って、変顔をしている。
『遊園地に行きたいで御座る!!』
「遊園地?」
思わず声に出してしまった。
「どうした?遊園地に行きたいのか」
「えっ? あっ。うん!」
「そういえば長い間行ってないな。 どうだ? お母さん、行くか」
「そうですね。 もうすぐお父さんも盆休みですから、行きましょうか」
「やったぁ!!」
拙者様々!
◇◇◇◇
車で一時間程の所の遊園地に来た。
ディズ○ーランド程広くはないけど、十分楽しい!!
お弁当を持ってきたお母さんは、いつも乗り物には乗らずに荷物番をしている。
お父さんと(拙者と)一緒にいっぱい乗った。
メリーゴーランドやコーヒーカップ、バイキングにジェットコースター!
ジェットコースターに乗った時は拙者は僕にしがみついてきた。
可笑しくてたまらない。
お化け屋敷に入った時にはお化け役の人に刀を抜こうとするので、お父さんがいるのも忘れて「ダメーーッ!!」と、叫んでしまい、お父さんから不思議がられてしまった。
こういう時のお弁当は格別だ。
唐揚げ、タコさんウインナー、卵焼き、小さいハンバーグに、沢山の果物。
拙者も大喜び!
販売機でオレンジジュースを買って飲んだ。 アメリカンドックも食べた。 ソフトクリームも買ってもらった。
拙者もソフトクリームにかぶりつくように食べていた。 もちろん一口では食べないけどね。
いっぱい乗り物に乗って、いっぱい美味しい物を食べた。
帰りは車の中で爆睡したみたいで、気づけば家に着いていた。
「楽しかったね!」
『最高で御座った』
拙者も大満足のようだ。
「あっ!!」
大変な事に気がついた。3つ目の願いを叶えてしまった。
これで拙者は消えるの? 恐る恐る聞いてみた。
『もちろんで御座る』
もう拙者が居ることが当たり前のようになってしまったのに、居なくなるのは寂しい。
「行っちゃうの?」
『行くで御座る』
「えぇ~~っ! 寂しい!」
『そう言ってもらえると嬉しいで御座る。 楽しかったお礼に、何か1つ願いを叶えてやるで御座る』
「えっ?!本当?!!」
『1つだけで御座るよ』
「分かった! 何にしよう」
色々考えた。
お金?····それもいいな。
ザギの等身大のフィギア?····それも欲しい。
賢くなる?····ちょっとちがうか。
可愛い彼女?···················
決まらない。
『何がいいで御座るか?』
「う~~~ん。 少し待ってよ」
『どれくらい待てばいいので御座るか?』
「5分····いや、3分でいいから待って!」
『3分で御座るな』
「あれか?····いや、これか?·····う~~~ん。1つだけは、難しいなぁ·····」
拙者は時計の前に浮かんだまま胡座をかいて秒針とにらめっこしている。
初めて時計を見た時も、ずっと秒針とにらめっこしていた。
何が楽しいのやら。
『3分たったで御座る。 願いは叶えたで御座る。 今までありがとうで御座った。 では、達者で』
拙者と急須はポン!と、消えてしまった。
「えっ?········································」
僕の願い·······················
END
単発で書いてみました。
読んでいただいてありがとうございました。
長編ハイファンタジーも書いています。
他の小説も、よろしくお願いします。
m(_ _)m
杏子