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プロポーズのその後 上

いつもありがとうございます!

本編が完結しました、世界で一番嫌いな君 の番外(というか続編?)の一話目です。

このお話自体は2、3ページで終わる予定です。

では、また是非お付き合いいただけますと幸いです。


よろしければ、ご感想、評価、ブクマお待ちしております。






 理人さんに呼び出された。理由は分かっている。俺が、桜が……り、理子にプロポーズをしたからだ。


 あの後、まずは理子のご両親に挨拶をした。おばさん(もうお義母さんとよぶべきだろうか……いや、まだ気が早いよな)は理子と俺を交互に抱きしめて、「おめでとう、理子ちゃん、三雲ちゃん」といった。さすがにこの年で“三雲ちゃん”は恥ずかしすぎたが、どこかふんわりしたおばさんに毒気を抜かれて、訂正する気は起きなかった。

 それなりに、というか、正直心臓が飛び出そうなほどに緊張していたのもあって、純粋に祝福されたのが嬉しかったってのもある。


 おじさんは、さすがに驚いて、柔和な顔をだいぶ引きつらせて固まったが、おばさんに小突かれてなんとか覚醒した。それから口を開いたり閉じたりしたが、やがて「……結婚は高等部を卒業してからだ」とぽそりといった。


 その時の理子の嬉しそうな顔といったら……。泣き笑いのような満面の笑みに俺は柄にもなく見とれてしまった。俺だけではない、ちゃんと、理子も俺との結婚を望んでいるんだ、と。

 絶対に言わないけれど、正直泣きそうだった。嬉しすぎて。……絶対にいわないけどな。



 余談だが、結婚はこの国の法律でいえば、女性は16歳、男性は18歳にならないとできないらしい。まじかよ、知らなかった。俺以外の理子や、おじさん、おばさんは普通に話していたから、知らなかったのは俺だけのようだ。プロポーズしたあと、理子に「気が早いんだから」と言われたとき変に答えなくてよかった。まあ、感極まりすぎて、言葉が出なかっただけなんだが。……すげー恥ずかしい奴になるところだった。



 そんなこんなで。というか、ついつい、現実逃避をしてしまったらしい。

 そんなことは、今はどうでもいいのだ。


 問題はこの扉の先で俺を待つ人物について。


 「……ふう」


 桜ヶ丘家の客間でもなく、理人さんの自室でもなく、はたまた、白樺家に乗り込んでくるでもなく。あの日から、丁度、一週間たった今日。なぜだか、前、魔法管理局、現在は国立情報管理局と大仰な名前に変わったそこに呼び出された。

 そこの交渉部……つまりは理人さんの職場だ。


 普通、七枝の家のものだとしても、ただの学生が足を踏み入れていい場所ではない。受付では、「ああ、あの、桜ヶ丘理人様の……」と疑るような目をむけられるし、廊下では、じろじろと観察されるように見られる。ありていに言って居心地が悪い、悪すぎる。

 ここに呼び出したのは、理人さんが、今、バカみたいに忙しいのもあるだろうが、嫌がらせの意図もあるように思えてげんなりする。

 たまに、「白樺の……」とかいう声も聞こえては来るが、恐らくその視線の大半の理由は“理人さん絡み”だからだ。……というか、魔法の無くなった世界で、いまだにそんなに影響力を持つ理人さんって、なんなんだよ……。


 案内された、重厚な扉の前で俺はひとり取り残されて、生唾をのんだ。


 ノックをしかけて、こぶしに嫌な汗を握り、やめて、一度、深呼吸をした。


 「……よし」


 再び、ノックをしようとこぶしを握る。


 「三雲、いつまでそうしてるつもり? 早く入れよ」


 「……っっ! 」


 ……やばい、息が止まりそうだった。いや、一瞬、止まったかもしれない。……待て待て、理人さんも俺や、ほかの魔法使いと同じく、魔法を失ったよな? もう魔法は使えないはずだよな?


 だらだらと、流れる汗をぬぐう。……俺らしくない、しっかりしろ。


 「失礼します」


 どうにか落ち着けた声で、そういって、扉を開けた。



 「やあ、三雲、待ってたよ」



 にやり、肉食獣のような牙にさえ見える犬歯が覗く。真っ赤な唇を横に引いた、美しい笑みに俺は戦慄した。



 ……ああ、理子。ごめん。俺とお前ははじまったばかりだけれど、俺は、今日、お前の兄に殺されるかもしれない……。




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