表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/61

54

少々過激な表現(カニバリズム的な)がございます。

ご注意ください。

苦手な方は前半だけなので中盤くらいまでスクロールしていただけたらと思います。





あの女は誰。



コーシロは忙しい合間を縫ってあの女に会いにいく。

黒の髪、黒の瞳、この世界の人間。


あの女は誰。


何の役にも立たなそうな華奢な体。


レンに聞くと彼女は都の城下で悪漢に絡まれていたところをコーシロが助けたらしく、その時に見初めたらしい。


見初めた?なにそれ、そんな、弱い女を。


「コーシロ……」


「なんだい」


コーシロを呼ぶといつもの猫のような優しい笑みがかえってくる。

けれどこれじゃない。あの女に見せるのはこの顔じゃない。

なんで、なんで、わたしにはあの顔を見せてくれないの?なんであの女を呼ぶみたいに私の名を呼んでくれないの。


「……?じゃあ、そろそろいくよ?仕事が山積みでね、そろそろ廉と加恩が迎えに来そうだ」


待って、とは言えなかった。

コーシロは本当に忙しい。

知ってる。けれどどうにか時間を作って必ずあの女には逢いに行く。


コーシロ、この世界で唯一私を受け入れてくれたコーシロ。

居場所をくれた。生きる意味をくれた。


なんで?




直に6人の仲間たちも彼女と共にいる所をよく見るようになった。


妹を見るような優しい顔つき。


なんで?私の家族なのに。

あれだけ辛い戦いを一緒に乗り越えた。

いっぱい怪我をして人を殺してみんなで罪を背負って、やっと手に入れた居場所。


なんで、あんたみたいな、女が。


どうしよう。


取られる。取られてしまう。コーシロが。

私のコーシロが、私の居場所が。


魔法はもう使わないと決めた。

二度と人を傷つけたくないと思ったから。


魔法使いなんかやめて、それで、ただの人間として、生きようと、コーシロと生きようと、思った。


だって、私はコーシロを愛していて彼も私、を……。


ダメよ、取られてしまう。



………この、世界で見つけたたったひとつの、、。





どうすれば、


どう、すれば


どうすれば……



私にしかできないこと。私だけがコーシロの役に立つ。私だけがみんなを助けられる。






………そうだわ。


いつか、見た魔法使いを作る禁忌の魔法。


みんなに私の力をあげよう。

そうすればみんな私に感謝する。私だけしかできないことだもの。

私はみんなの力になれる。

この世界の人間はとても脆弱だもの。何があっても、これから先ずっと、力の強い7人だけが、魔法を使える7人だけが、この世界の覇者になれる。




………コーシロも、私を見てくれる。


あの女には、決して、決して、できないこと。






満月の夜。



みんなの心を操った。

幻影を見せて、魔法式を描きこんだ生きた私の体を肉を彼らに食べさせたらいい。


禁忌の魔法。


かつて大量虐殺が行われ禁忌とされた、倫理を犯した魔法。


でもいいの、それでみんながわたしを見てくれるのなら。


みんなは永遠に私のことを忘れない。

私はみんなと共にずっと生きる。

コーシロは、私に感謝して、私だけを見てくれる……。



痛みと熱さの中、みんなをコーシロを見た、私の意識が遠のく、心を操っていた魔法が解ける、幻影が、解ける。


私を見て、私に感謝して、唯一だと言って。


霞んだ瞳にコーシロの片目だけの瞳が映る。

驚愕の顔、それから、……それから、なんで。


…………なんで、そんな目をするの?なんでそんな目で私を見るの?なんで。

違う、そうじゃないの。

彼女に向けるみたいに溶けるような瞳で、有難うって、言ってよ。

愛しているって、言ってよ。


私はここまで身を捧げたのに、あなたの為にここまで、ここまで、自分を犠牲にしたのに。


どうして、…………どうして、そんな目で。


この世界に来たばかりの時、貴方以外の人間が私に向けていた瞳。

恐怖、蔑み、嫌悪……なんで、貴方が、そんな。



…………許さない。


許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない。


そうだ、残った力で魔法を作ろう。

残った力はもう少ないけれど。


魔法を。



霞んだ瞳を動かして、ぐるりと見渡す。

嫌悪と恐怖の視線の中、1人だけ違う目をした人がいた。

涙を零しながらこちらを見ている。

痛々しそうに、どこか怪我でもしているかのように、辛そうに。


ああ、フジ。

いつも、優しいフジ。お人好しのフジ。


貴方にしよう。


貴方の血に私の魂を乗せよう。




体は食べられてしまったし、もう使い物にならないわね。

どんな魔法でも魂と肉体は作れないから。

だから、この七人の血の中から私の魔法のすべてをを載せた人間が産まれるようにしよう。


そして、いつか魂と器が出会ってお互いを愛したらそれを私が手に入れるの。

魅入られたら、心を預けたら、私の物。


魂と器だけ再び手に入れられたら私は戻れる。


その時の魂と器の持ち主は申し訳ないけれど要らないから消えてもらいましょう。


私が戻ったらみんなの愛は私が手に入れるの。

全部、全部、誰にも少しも分けてあげない。

私の居場所は譲らないわ。


………………………誰にも。





ーーーーーーーーーーーーーーーー



「っ!!」



はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。

喉がひきつる。上手く息を吸うことが出来なくて肩が上がる。

全身がガタガタ震えて、絶えず目から涙が溢れ続ける。


なんだ、なんなんだ、あの、記憶は。


酷く惨い、歪んだ、歪んだ、恐ろしい記憶。

魔女の高笑いが消えない。

怖い、怖い、いったい、なんだ、あの記憶、は。



ちょっと、待って、消えてもらうって言ってた。


魂と器を手に入れたら持ち主には消えてもらうって、そう言ってた。



私はまだ、大丈夫。

意識がある。ちゃんと、ちゃんとこれは桜ヶ丘理子としての私で。


………じゃあ、至は?

至、は?


魔女の意識にもともと支配はされていたけれど。

彼は大丈夫なの?分からない。

もし、もし万が一、魔女に魂を奪われたら、至は、至は消えてしまうの?


だめだ、至に会わなきゃ。

至に会いに行かなきゃ。


魔女の高笑いが消えない。




怖い、怖い、怖い、怖い。



「……桜ヶ丘?」



突然聞こえた声にビクッと肩を揺らす。

途端に走る鳥肌。どうしようもないそれを無視して瞳だけをぐるりと動かした。



まだ暗い室内。何時だろう。夜なのは間違いない。



「……起きてんのか?」


小さな声、物音を立てないように近づく気配がする。

なにか、ガサガサとビニールが擦れ合うような小さな音。


虚ろな視線を上げるとわたしを見下ろす金の髪とグレイの瞳がかち合う。

刹那、グレイが大きく見開かれた。


「っ、悪い、すぐ出ていく」


「待って」


「……っ」


ぴたりと足音が止まる。

わたしは震える両腕に力を入れてなんとか半身を起こした。

涙はいつの間にか止まっていた。



「……なに、しにきたの」


背を向けていた白樺三雲がゆっくりとこちらを向く。

暗闇の中で鈍く光るグレイの瞳。綺麗な顔。


昔、そう言えばわたしはこれに見蕩れたんだっけ。


「……理人さんに、お前が起きてる間は会うの禁止されてるから、お前が寝てる時だけは、理人さんに許可貰えたら少しの時間、顔、見れるから」


バツの悪そうな顔。

眉間によった皺と逸らされた瞳。


自然と笑みが零れた。

どうしてかな。


「白樺、三雲」


名前を呼ぶと白樺三雲はわかりやすく動揺した。

肩を跳ねさせてばっとこちらを見る。


困惑と驚愕のグレイの瞳がまっすぐこちらに向かう。


「……わたしは、お前が、嫌いだっ」


「………ああ」


「ずっと、嫌いだった。ずっと、ずっと、初めてあったあの日から」


「……ああ」


「お前が、あの日、あんなことっ、言うから……!」


あの日、お前が、他でもない誰でもない白樺三雲がそう言ったから。



ボロボロと再び涙が溢れだす。

みっともない。八つ当たりだ。最低だ。なんでこんなこと言ってるんだろう。しかも、白樺三雲に。


「……分かってる」


音を立てずにゆっくりと白樺三雲が近づいてくる。

腰を折った白樺三雲のグレイの瞳が同じ高さに来て、彼は微笑んだ。


初めて見る困ったような優しい笑みだった。


ぎこちない動作で彼の両腕が近付く。

わたしはまるで魔法にでもかかったみたいに彼を見つめたまま、動けなかった。


触れるのを躊躇って、そしてゆっくりと頭に腕が回る。


「ごめん、ごめんな、桜ヶ丘。酷いこと言って」


嫌悪感はもう湧かなかった。

鳥肌もたたなかった。

触れられているのに、白樺三雲に頭を抱き込められているのに。


「ち、ちがっ、貴方は何も悪くなっ」


しゃくりあげて上手く話せない。

ぼたぼたと涙が流れて、ああ、白樺三雲の服が濡れてしまうとぼんやり思った。


白樺三雲はただしかった。何も悪くなかった。


今までずっと。


「俺が悪いよ、お前を傷つけた」


「ちが、う」


事実を言っただけだ。しかも子供の頃のこと。

今まで変に意識して引っ張って、しかも利用していたのはわたしの方。わたしが悪いんだ、どう考えても。


「ごめ、っ、今まで、ずっと、避けてて、き、嫌ってて、ごめんっ」


「ああ、気にすんな、俺は気にしてない」


ポンポンと子供にするみたいに頭を撫でられる。

…………お兄様みたいだ。

お兄様といすぎて、なんか似てきたのではないのだろうか。

………………なにそれいやすぎる。


「嫌な、態度っ、取ってて……ごめん」


「……だから、いーよ、別に」


仕方ねえなとでも言いそうな、鼻で笑ったのは照れ隠しだろうか。

顔が見えないから分からないけれど。

白樺三雲は今どんな顔をしてるんだろう。


「………いままで、ありがとう」


「………うん」


「……わたしをっ守ってくれてたんでしょ、」


「自覚はねえから分かんね」


「……………ありがとう」


「……いいや」


「……ずっと、見ててくれたんでしょ」



やんわりと腕が外れる。

その拍子にぽとりとなにかが落ちた。


わたしの好きな、チョコレートのお菓子。

最近ずっと枕元に置いてあったもの。


………ああ、白樺三雲だったのか。お兄様でも、麗華でもなく。


「………うるせぇ」


見上げた先の白樺三雲は真っ赤だった。

片腕で顔を隠しそっぽを向いているが、グレイの瞳は潤んでいて隙間から見える端正な顔は、明け始めた空の薄暮に淡く照らされて真っ赤だ。


くすくすと笑いが零れる。


「………あんま、こっち、みんな」


込み上げてくるこの感情は何だろう。

偉そうなのに弱々しい口調が、なぜだかいとしい。


いとしい……?



お兄様が白樺三雲との接触を禁止したのはわたしが器に戻るのを阻止するためだろう。

それでも、心配してこんな早朝に毎日様子を見に来てくれていたのだろうか。


わたしに知られないように、そっと。



込み上げてくるもどかしい何かにのたうち回りたくなる。

なんだろう、なに、この感情は、これはいったい。



「……じゃ、俺もう行くな、理人さんが心配して乗り込んでくる」


白樺三雲はもうこちらを見なかった。

すたすたと扉に向かっていく。


「ありがとう、白樺三雲」



その後ろ姿にもう一度呟いた。

今まで本当にありがとう。

守ってくれていて、こんなに酷いわたしを守ってくれていて。

だから、もう、いいよ。

もう、大丈夫だから。




「……ちゃんと飯食え、そんでもっと肉つけろ」



彼はぴたりと足を止めて振り向かずにそういってさっさと出ていってしまった。






その日の天気予報は雷雨。



けれど空は雲ひとつない晴天で、その日、わたしは魔法を取り戻した。







いつもありがとうございます!


終わりまであと少しですね(o^^o)

ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございます。


よろしければ、ご感想、評価、ブクマお待ちしております。よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ