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「ねえコーシロ、見て新しい着物、どうかしら」


金の髪が映えるようあつらえた瞳とおなじ空色の着物を着てくるりと回る。


彼は1度だけこちらに目線を向けて「とてもよく似合ってる」といった。

天にも登る気持ち。心が躍る。

よし、じゃあ今度の市井のお祭りにこれを着ていこう。

あれやこれやと細かく注文をしてこだわった甲斐があった!

この世を制したコーシロはとても忙しいからレンとトーコとカオンに付き添われてもうどこかへ行ってしまったけれど。


別にいいの。少し顔が見れれば。今みたいに微笑んでくれたらもうなんだって出来そう!


コーシロがすき。

この平和な世がすき、みんながすき。

命を賭して戦った仲間、私の家族。



私は役に立った。誰よりも。

だから私が1番愛されるはずでしょう。



ーーーーーーーーー





「理子」



目覚めてすぐ、そばに居たのはお母様とお父様だった。


抱きしめられて心配されて、すぐに助けられなくてごめんね、って何度も言われた。


わたしがわがままで、桧木沢に残ろうとした。わたしが悪いのに、大好きな2人と目を合わせられなかった。


それからすぐ、お母様とお父様は出ていって代わりに入ってきたのはお兄様。


「おかえり、俺の理子」


「……ただいまお兄様」


お兄様のものになった覚えはないけれど。

わたしの心のつぶやきに気がついたのかお兄様が柔らかく微笑む。


全てを見透かしているのだろう。

優しげな微笑みの中で漆黒の瞳は鋭くわたしを監視している。



「…………へえ」


「お兄様、すべてを知ったというのなら分かるでしょ」


「分からないな」


「お兄様!」


わたしはそれでも至の元に行かなければ。

わたしを逃がしたことで、桧木沢のなかで彼がどんな立場になっているか。

離れてしまったことで彼がどんなに苦しんでいることか。


「お前の事情も、魔女の事情も、桧木沢の事情も分かった。

けれど、お前をわざわざあのガキの元に戻してやる気にはならない。

俺の気持ちは三雲とおなじ、お前が犠牲になる必要は無い」


犠牲って………。

でも、至は自分を犠牲にしてわたしを逃がした、どうなるかなんて予想かついていただろうに、それでも。


「随分、懐いちゃったものだね。俺の、俺だけの理子なのに、寂しいな」


「……お兄様のなんかじゃない」


「だって、考えてみて理子。

桧木沢至は死ぬのか?桧木沢家は?別にどうにもなりはしないだろう。

ただ魔女の意識に支配されてこれからも生きるだけ。理子に出会う前に戻るだけ。

魔女なんかもってのほか、もう居ない人間だ。


理子がいままで通り何もしなければ魔女の魔法とやらも完成はしないんだし」



わたしは目を見開いた。

視線の先でやはり、優しい笑顔を携えたままのお兄様がいつも通りこちらを見ている。

優しげに細められた漆黒の瞳と口角の上がった赤い唇。

やけに作り物みたく見えて、それが怖かった。



じゃあ、それじゃ…至はどうなっても、いいって言うの?

今回のせいで自我を見つけてしまったせいで余計に苦しむだろう至は。

魔女の力が強くなってしまったかもしれないのに?


……忘れて気にせず生きろって、そういうこと?




お兄様の笑顔が深くなる。


「そうだよ、自分にしかできないとか変な正義感を持っているなら、それは間違いだ。

今は無理でも、いずれ、いつか、誰かがやるかもしれない。

なんで俺の可愛い妹が危険な目に合う必要があるのかな?」


酷い、酷い。

お兄様がこんなに酷いだなんて思わなかった!


涙が溢れて止まらない

分かってる、家族を守るため、もしわたしがお兄様だったらわたしもそう思うのかもしれない。

でも、至は友達で、優しくて、助ける力があるのならどうにか、したいのに……。


「じゃあ、失敗したらどうする?魔女が魔法を完成させて、魔女が復活したらどうする?

そもそも、魔女はどうやって復活する?

器と魂が必要なのだとしたら、お前と桧木沢至の体と魂は要らないんじゃないか?お前達2人は下手したら死ぬんじゃないのか」


「そ、そうじゃないかもしれない!」


「でもそうかもしれない」



ぴしゃりとお兄様が言ってため息をつく。

ぽんぽん、と頭を撫でられてわたしはそれを振り払った。

目を見開いたお兄様が眉を下げて困ったように笑う。


「とにかく、しばらくは屋敷から出さないよ。せっかく帰ってきたんだ。

ゆっくり休んで。みんな心配してるんだよ、分かって、理子」


「至は…こうやって心配してくれる人もいない、気遣ってくれる家族もいない、一生」


「………ほらこんな痩せて、顔色も悪いよ。

お腹がすいてるからそんなこと思うんだ。ちゃんと食べて。

お兄様があとのことは全部やるから」



あとのことって、なに。

何ができるの?

わたしのせいで苦しんでる至の記憶を消せる?

そんなこと出来るわけない。

彼の魔法がそれをさせない。




お兄様がベッドを離れる。

涙がぼたぼたとシーツに落ちて、しわくちゃになったそれをぎゅっと握りしめた。


お兄様、大好きなお兄様。

お兄様のいうことはただしい。


わたしがやろうとしていることはとても不確定で上手くいくかどうかも分からなくて、危険なのかもしれない。

もしかしたら、なにもかえられないのかも。


でも、それでも全てを知っていて、力が有るのに何もしないのはずるい。



「お兄様なんか、大っ嫌いだ……」


背を向けたお兄様に小さく呟いた。


たぶん、生まれて初めての事だ。



そう思うのも、口に出すのも。







いつもありがとうございます!


ストックがようやく溜まってきました。

応援してくださり本当にありがとうございます。

やっと、やっと終わりが………( ;⌄; )


ご感想、評価、ブクマ等お情けでいただけたら、すごく励みになります。

良ければ、ぜひよろしくお願い致します。

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