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閃光がはじけ、雷鳴が轟く。
相も変わらない桜ヶ丘の執務室で、学園から帰ってきたばかりの白樺三雲に目を向ける。
俺の言いたいことを正しく理解した無駄に良い頭がふるふると振られる。
……そうかそうか、今日、桧木沢のガキも理子も学園を休んだのか。
だから、お前はそんなに不機嫌そうなのか?
何はともあれ、この朝から続く訳の分からない天気と雷が、機嫌の悪そうなこのガキのせいでないとしたら……。
「すごい、天気ですね」
まるで、あの時みたいな。
三雲が口には出さなかったつぶやきが聞こえて俺は頷く。
あの時、九年前、理子がこいつのせいで三日三晩寝込んだ時だ。
三雲が得た情報によると、理子は魔女の現身で、器で、魔女の力のすべてを持つものだという。
すべての魔法が使えて、それは彼女がずっと気にしていた心象も例外ではない。
分家にひどい迫害を受けてきた理子はそれだけで救われる部分もあるだろう。
馬鹿な妹は表にこそ出しはしないが、自分のせいで家族に恥をかかせているとずっと引け目に感じてきたのだから。
そんなことありはしないのに、まったく馬鹿な妹だ。言いたい奴には言わせておけばいい。
そしてどうやら、桧木沢至曰く、理子の器としての完成を制限しているのは俺とこの目の前のあほの三雲らしい。
俺に力を流している?どうでもいい。確かに多すぎる魔力、常時垂れ流しの自分の意思と関係なく発動され続ける度を超えた俺の魔法は、聞くよりいいものではない。
人々は俺を怖がり、おそれ、忌諱して、化け物と罵倒しながら、近づいてきては隠したつもりでどうにか利用しようと媚び諂う。
人の心を覗き続けていいことなど何もない。
でも、魔女の力の片翼を担っているときいて納得して安心した。この時代にはそぐわない魔法だ。本当に化け物じみている。自分でもそう思う。
もし、理子がこの魔法を持っていたとしたら……そんなの耐えられない。
勘違いしないでほしい。俺の変態的な心情を悟られるのが、というわけではない。
……決してそうではない。………まあ、少しはなくもないが。
あのバカでかわいい妹にこんな思いをさせたくないからだ。
だから、これを知ったとき俺はうれしかったのだ。
理子の、あの子の為になっていることが。
あの子の痛みを肩代わりできているかもしれないという事実が。
そんなわけで、俺はいいんだ。むしろ大歓迎だ。
問題はその鍵のもう一つがこのあほの三雲だということだ。
「……なんすか」
くそが。なんすかじゃねえよ。
なんすか、じゃ。
ジトっと見つめた先でうろうろしていた不機嫌そうなグレイの瞳がこちらを向く。
なんで、お前なんだよ。よりによって。
「この天気ってやっぱ、桜ヶ丘の……」
「恐らくな」
いい加減その桜ヶ丘ってのやめろよな。
この屋敷にいる大半桜ヶ丘だから。……まあ、理子って呼ばれるのも嫌だから絶対言わないけど。
もし、今のこのおかしい天気が……というか十中八九理子の魔法に違いないこれが、これだけ不安定だということは、理子の精神が揺らいでいるとそういうことなのではないだろうか。
なにか、あったのか?
理子をいたく大事らしい桧木沢が迂闊に行動を起こすとも思えないけど。
それに理子が嫌なことはされていない。何となくわかる確信めいた感覚。
というか多分、この感覚は比喩でも何でもない、魔女の力というそれで繋がっているからなんだろうな。
「なんで、今日あいつら来なかったんだろう」
知るかよ。
思わず漏れそうだった舌打ちを、どうにか抑え込んだ。
理子が桧木沢の持つどの屋敷にいるのかわからない。何をしているのかももちろんわからない。
「デートでもしてるんじゃないの」
「ッデ!?」
目を見開いた三雲が顔を赤くしてわめく。
うるさい。
そんなわけないだろ。こんな状況で。どこまであほなんだよ。
というかそんなの俺が許さないし。まだ早い、うちの理子にはまだ早い。
……ああ、なんか腹立ってきた。
三雲からバチバチと細かい稲妻がほとばしっている。
「おい、三雲、物こわすんじゃねーぞ」
「あ、はい」
今気づいたのかよ。
これだけ動揺しといて無意識なんだもんな。信じられない。
なんで無意識でいられるんだか。
俺的にはそっちの方がいいけど。
「お前、仮にもうちの理子の婚約者ってことになってんだから、しっかりしろよ」
そう、仮にも。あくまで仮にもだからな。
桧木沢に好き勝手させないためだけのストッパー的な契約ってだけだからな。
頬染めてんな、恥ずかしがるな、やめろ、気持ち悪い。
ああ、理子に会いたい、理子に癒されたい。こんなあほでなく。
もうすでに理子をとり返す算段はついた。ほしい情報はもう手に入れた。
桧木沢のあの魔法の仕組みさえわかれば怖いものなどない。
つまり、ようは魔法使いが使えないという話だ。
反象という桧木沢の魔法相手に魔法が使えないどころか、魔力を持っているものは総じて使い物にならない。
俺も三雲も、野分もただの足手まといになりえるが、うちの鉾を出せばいい。草間一族にかかればあんなひょろそうな奴ら。
後は場所さえわかればいい。
人目に触れないように行動できるなら、学園でも構わないが……難しいだろうな。
良くも悪くも七枝は目立ちすぎる。
ああ、理子、今何してるのかな……。
お兄様は寂しくて泣きそうだよ。
「……り、理人さん、顔、きもいですよ」
うん、とりあえずこのバカをぶん殴って気を紛らわそう。
満面の笑みを浮かべた俺に三雲が青ざめた。
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