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「し、ししし白樺……!!?」
ありえない、ありえない、ありえない。
魔女は大切な人と言っていたはずである。いや、あれはない、ありえない、あれは、あれだけはない!絶対に。
だって、わたしは白樺三雲アレルギーなのだもの。名前を口にするだけで虫唾が走る。
視線を合わせるだなんて言語道断。大切な人?何かの間違いだ。至も人が悪い、彼はわたしが心の底から白樺三雲を嫌っていることを知っているはずなのにそれなのに、白樺三雲が魔女の器に戻るための鍵?いやいやありえない。
だから、至は口を割るのを拒んだのだろうか。
なるほど確かに口にするのがおぞましいほどの馬鹿げた話である。
作り話にしたって出来が悪い。
混乱して混乱して、理解が追い付かない。
お兄様と比べたら、桧木沢の彼と比べたら、頭の出来がお粗末なのも承知だ。
比べずとも、そもそもポンコツの魔法使いで、桜ヶ丘の恥で。
だから理解できないの?
ちがう、至がわけわからないことを言っているからでしょ。
「そ、そそそ、んなわけ……至、ば、馬鹿なの?」
「あ、はは、こうなるのか…」
「絶対にありえない……わかるでしょ!?至も!!」
見て!この鳥肌!!
そう言って浴衣から腕を突き出したわたしに至が目に見えて引いている。混乱にぐるぐるせわしなく泳ぐ鳶色に申し訳ない気持ちにならないこともないが、気にしている余裕もない。
「逆になんでそこまで意識しているのか、とかは、思わないんだね」
苦笑しつつそう言った至はどこか吹っ切れたようだった。
そこまで意識しているのかって、それはわたしが白樺三雲アレルギーで、あの日のあの蔑んだ瞳を忘れたことはないし、あの日の嘲笑はわたしの中にいつまでも残っている。
たったあれだけのこと、たった一日の出来事。
けれど鮮烈な出来事、わたしの転機ともいえる日。
それまでの世間知らずなデブスは死んだし、今のわたしがあるのはあの日があってこそ。
わたしに事実をいってくれたのは後にも先にも彼だけ。それについては感謝もしている。
桧木沢の夜会で守ってくれたことも、かばって傷を負ったことも。
彼はただただ不運だった。素晴らしい才能を持ち、美しい容姿を持ち、家の誇りも自信も持っていた白樺三雲は。
わたしのような人間にわたしのような欠陥品をあてがわれて。彼の反応は正しいものだった。
悪いのはわたしで。
彼はそれほど悪い人ではないのかもしれない、でもダメなのだ、わたしは彼を受け入れられない。なぜここまでわたしが彼を拒絶するのか分からないし、分かりたくもない。
何故、白樺三雲をあれほどまでに嫌うのか、何故?よくわからないけれど紛れもなく確実に存在する圧倒的嫌悪感、憎悪。
分からないけど確実にあるそれは、だからきっとアレルギーなのだ。
自分ではどうしようもない、あらがえない拒絶反応。
それなのに、お兄様はまだしも、白樺三雲が鍵?
「何かの間違いだよ」
「間違いない、三雲が君を魔女から守るもう一つの鍵、なんだ」
「そんなわけない」
「僕には魔女の意識がある、魔女の分散した力は僕にはわかるよ」
「どうして……」
「君が抱くその異常なまでの嫌悪感、それは魔女の力を制御するためのものだよ。
感情によって発動する君のそれは間違いなく心象。その魔法が発動しないように無意識にわざわざ強い感情を生み出しているんだよ。そのほかにぶれないように。
そして、三雲はそれに気づいてはいないけれど、その圧倒的な力と悪感情を彼のたぐいまれな魔力躁術によってさばいている。君に害が及ばないように」
至は笑った。
そんなわけがない、そんなのありえない。
だとするなら、なんだろう……。
九年間わたしの魔法がなくなった間の九年間、わたしは嫌っていた白樺三雲に助けられていた?
ずっと、自分を守るために自分の為に理不尽に人を嫌って、それなのに救われていたの?
ピカッ________
白い閃光が走る。
書庫が照らされる。
至の困ったような顔、まるで童話の中の王子様だ。
白く照らされた端正な顔。
「……そんな、そうだとしたら、そうだとすれば、わたしは今まで……」
「三雲はわかってない、なにも。なにひとつ。でも君を守っていた。無意識に」
「……さい、あくだ。わたし、そんな……酷い、なんで」
「ひどくない、君のせいじゃない」
「酷い!!わたしはそんな人に…」
「君は、悪くない!」
「で、でも、」
「でもじゃない。
いいんだよ、理子ちゃん、三雲はそういうやつだから。
その能力があって好きでそうしたやつのことなんか気にしなくていい」
至が口をつぐむ。
音の無くなった世界、音の消えた世界。
鳶色がきらりと光る。
「だからってどうなるわけでもないんだけどね。これを知って何か変わるのかもしれないし、変わらないのかもしれない。
前例がないんだ、言ったよね。僕は君の為になんでもしよう。魔女のためでも、家の為でもない。
……でも、ここから先は君の心の問題だから、君自身の、」
君と、三雲の。
至は笑った。とても美しく。
けれど、どこか寂しそうに、痛みをこらえるように。
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次回お兄様陣営に戻ります!
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