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「……そう、わかった」


「そうだね、君が手に入るならまだ三雲はいいかなあ?」


「本当?もし、わたしが貴方の要求をのむと言ったら、彼は解放してくれる?」


「おい!」



「…うーーん、………うん、いいよ」



「桜ヶ丘!変なこと考えんなよ」



至はわたしが欲しいと言った。


至が欲しいのか、それとも桧木沢がわたしを欲しているのかは分からないし、理由も分からない。


「わたしを、殺すの?」


「まさか!考え方が物騒だよ君たち二人とも」


くすくす楽しそうに笑う至に少しだけ安堵する。

それなら、とりあえずはいい。

何をさせられるのか何が起こるのか、分からないけれど、ここで2人で蹲っているより白樺三雲だけでも外に出てお兄様やお父様と接触できる方が絶対にいい。

……ただ、彼は殺さないとは明言しなかった。

多分わたしにはなにか役割があり、白樺三雲にもなにか役割があって、まだ、今は、必要なのだ。

それがいつまでなのかは分からないけれど。




「桜ヶ丘!」


わたしの考えを察したのかものすごい形相でこちらを睨みつけながら金髪頭が吠えた。

クソっ、クソっ、と悪態をつきながらついになりふり構わずじたばたしだしたせいで手首が赤く濡れて痛々しい。


わたしは彼に、多分わたし史上はじめて優しく微笑みかけた。

優しく微笑むことが出来たのは奇跡に近い。

だっていまだ、嫌悪感はなぜか止むことがない。

それでも、なんとかそうできたのは彼に安心して欲しかったからだ。


グレイの綺麗な瞳が零れんばかりに見開かれた。

ぷっ、なに、その間抜けな顔……。

いつも澄ましているか見下しているような表情ばかりのお綺麗な顔は子供のようにあどけなくて思わずわたしは小さく吹き出してしまったのだ。


大丈夫、きっと、彼とお兄様ならわたしを連れ戻してくれる。この状況がどう変わるのかは分からないけれどわたしだって桜ヶ丘の魔法使いである。

隙を見つけて……いや、こじ開けてでも、逃げてやる。

うん、できる、きっと。わたしはお兄様の妹なのだから。


笑顔で頷くと白樺三雲は目元をぐしゃりとゆがめた。


「………やめろ…」


きっと、プライドが人一倍高い彼はこの選択を受け入れられないだろう。屈辱、だろうな。

お兄様にわたしを託されてしまった彼はお兄様にこてんぱんにやられてしまうのかも。



「至」


「んーー?」



終始、愉快そうにわたしたちを見ていた鳶色が細められる。嬉しそうに上気した頬に感情が冷めていく。

この人は楽しんでいるんだ。ただ、わたしたちのやり取りを映画か何かをみるみたいに、おもちゃでままごとをするみたいに。


「白樺三雲を解放してあげて」


「ふざけるな、誰が、そんなこと頼んだ!やめろ!」


「いいの?じゃあ理子ちゃんは僕のものになるんだね」


「………うん、いい」


「桜ヶ丘っ!!」


叫ぶ金髪に至が右手を上げた。


それからやはり、あの時とおなじ赤い光。

一瞬空を割いたそれは霧散し、白樺三雲はぐったりと頭を床にうちつけた。




「じゃあ、行こうか理子ちゃん。

もうここには用はないからね」


わたしの座るベッドに至が近づいてくる。倒れた白樺三雲から目が離せないまま横目でそのアッシュブラウンの柔らかそうな髪を捉えて、気が付かないうちにわたしは震えていた。

ひどい喪失感。途端に湧き上がる恐怖。びくともしない四肢に込み上げる罪悪感と強烈な不安。



「し、白樺三雲は……」


「ん?大丈夫、気を失ってるだけだよ。魔力が逆流する衝撃に身体が耐えられないだけ」


「ほん、と、?」


「ホントだよ。大丈夫、直にお迎えも来るだろうし、目も覚める。

だから、ちょっと君も眠ろうか」



気がつくとすぐ側に至が迫っていた。

ベッドに乗り上げるように半身を乗せた彼の楽しそうな鳶色が、すぐ、そばに………。


そしてわたしの意識は再び闇に沈んだ。






────────




「三雲!おい、三雲!しっかりしろ!」



ぐったりと床に蹲る金髪の頬を軽く叩いて耳元で叫ぶ。

手足には鉄の枷がつき、暴れたのだろうそのどちらも血が滲んでいる。

顔は異常に青白く、ぐっしょりと汗に濡れ淡い金髪がへばりついていた。

辛うじてしている息は浅く、時折ひゅっと息の詰まる音がする。

普通じゃない………。



窓のない部屋、なにもかも全てが白い、悪趣味な部屋。

火々里の幻覚と野分の風で容易く忍び込めた屋敷の地下、罠のようなその部屋は清潔で美しかったが牢のようだと、何故かそう思った。



「おま、白樺家のお坊ちゃんじゃねえか…」


「……あ?」


野分の押し殺した声にぴくりと重そうな瞼を押し上げて焦点のあわないグレイが現れる。

咄嗟に虚勢を張る警戒心丸出しの野良犬のようなこいつに呆れながら安堵する。


彼の心の中はひどい後悔と怒りと混乱と自卑で混沌としていて、情報を読み取るのが難しい。


それでも桧木沢至が理子を連れていったという事くらいは容易に読み取ることが出来た。



「………りひとさ……すみ、ませ………」



グレイの瞳がグラグラ揺れて、どうにか俺を捉えると潰れてしまいそうなほどそれを歪めて掠れた声でなんとかそう言葉を作った。


「……いや…俺こそ巻き込んで悪かった」


「あい、つ……おれを、逃し……っ」


荒い息が酷くなる。激しく咳き込んで少量の血を吐き出した三雲に、もういい、と伝えて背をさすった。



「理子は自分で決めて、行ったんだね…」


まったくあのアホな妹は……。


流れる冷や汗に、俺はしばらく忘れていた笑みを貼り付けた。

勝手に釣り上がる口角に三雲の顔色がさらに悪くなった。

おいおい、大丈夫か、……どういうことだ。なぜびびる?



理子はやすやすと諦めはしない。

理子には勝算のないゲームをする無謀さはない。


つまり、俺を、俺たちを信じているということだ。



この金髪を、あのゴミのように嫌っているはずのこの男を俺に引き渡すということはそういう事だ。


そして、しばらくの間であれば最悪のことにはならないと、大丈夫だと。

だからその間に助けに来いよ、とつまり。


桧木沢が俺らをここまでたどり着かせたということは理子を手に入れる自信があったからだろう、それからこいつを回収していってね、とそういうこと。


なるほど……舐めてくれる。舐め切ってくれている。




「……まったく、しょうがない妹だ…」



さすがは俺の妹。



「理人様、突入しますか?」


ニヤついているだろう俺をどう思ったのか、やはり妙に好戦的なうちの鉾は、怒りに瞳と内心を滾らせて怒気の篭る声でそう言った。


「だから、待ちなさいって、」



「………この、白樺のお坊ちゃんの容態……これは」



野分の動揺する声に意識を集中して情報を読み取る。


「ふむ……なるほど」


アプローチの方向が間違っていたのかもしれない。


桧木沢を探っていてもいつまで経っても核には辿り着けそうにない。

となれば、そもそも魔法使いについて、魔法について、七枝に、そして御三家について洗う必要があるらしい。


たらりと顎に流れる汗を拭った。


理子がいないのに、理子が連れていかれたのに、俺はやけに冷静だった。

そのことが自分で不思議だった。

何故か。何故だろうか。

理子のメッセージを受け取れたからか?

………いや、どこかで、理子を感じる。理子の無事が分かる。

何故、何故だろう……。



「………理人様?」




火々里が恐る恐るそう聞いてきた。

不気味、怖い、俺が桧木沢家を壊滅させるんじゃないかって、そんなわけないだろ、馬鹿だな。


どうやら俺が怒りでおかしくなったと思っているらしい。………まあ、気分的には間違いではないな。



「理子は無事だし、俺も大丈夫だよ。

さあ、桧木沢をぶっ潰す準備を始めよう」



三雲は目を見開き、野分の顔はあからさまに引きつった。

はい!と大声で素晴らしく見本的な返事をした戦闘狂の草間とは反対に、火々里はよろよろと倒れた。



やれやれ………。



さて、桧木沢のおぼっちゃま君。


君はこの俺たちのことも、このメンツのこともご存知なのかな?これもまた想定内なのかな?


だとしたら、相当に肝が座っている。


…………そういうやつは嫌いじゃないよ。








いつも、ありがとうございます!!

感想お返事しておらず申し訳ございません……。


加藤 火々(かとう かがり)

草間(くさま) 佳衣(かえ)


です!


七枝というのは魔法使いの中の、魔法使いとしての強者であり名家7つ。御三家はその7つのうちのとくにやばいとこです。


これからもよろしくお願いします!

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