魔物の脅威
森の入り口に戻る道中、空に大きい鳥が飛んでいる。その鳥の名は〔ウィンドバード〕。羽ばたく際に大きな風を生み出す。鋭利な羽を飛ばしての遠距離攻撃、鋭いクチバシでの近距離攻撃と、厄介な敵である。
「〔ウィンドバード〕か。今の3人の実力だと避けたほうがいいだろうな…。見つかっていない今のうちに通り抜けよう」
しかし3人はさっきの戦闘の興奮がまだ冷めていないのか、
「なあ、ロイ。俺たちにやらせてくれないか?確かにあいつは厄介だが、3人で力を合わせればどうにか倒せるはずだ」
ライアンが俺に頼んでくる。他の2人を見るとやる気に満ちた表情をしている。少し悩むが、確かに倒せないことはないだろう。無理だと判断したらすぐ退くという条件で戦闘を許可した。3人は頷き合うと、ミレンが攻撃を仕掛ける。
「よし、いくわよ!《ファイアショット》!」
ミレンの杖から炎が放たれる。その炎は真っ直ぐ進み、〔ウィンドバード〕に直撃…………しなかった。素早く身を翻してかわした。
「な、なんで!?完全に不意打ちだったはずなのに!」
ミレンは驚愕している。攻撃されたことで、〔ウィンドバード〕はこちらを確認し、敵意を向ける。お互いに向き合うことで、目が赤く光っていることに気づく。
「ま、まずい!ありゃ赤目だ!」
ライアンは焦りながら叫ぶ。赤目とは、その名の通り目が赤く光っている魔物のことだ。稀に出現し、同種の魔物のリーダーの役割を担う。他の個体と比べて一回り強く、特殊なスキルを持っている強敵である。
赤目が鳴き声を上げると、さらに2羽〔ウィンドバード〕がやってくる。さすがに危険と判断し、3人に撤退するよう指示する。3人と共に逃げようとするが、赤目はそれを見逃さず、ブライルに襲いかかる。
「キョエェェェ!!」
「…っ!?」
勢いよく突っ込んでくるが、想定外の事態に慌てて回避に遅れてしまう。それを見たライアンが間に割り込んで、身を盾にしてブライルを守る。
「ぐああぁぁぁ!!……っうぐぅ…」
ライアンの腹部をクチバシが貫き、その勢いのまま吹き飛ばす。ブライルとミレンが悲痛な表情でライアンの名前を叫ぶ。俺はとっさに持ってきた【煙玉】を使い、その隙にライアンの元に駆け寄る。傷は大きく、血が勢いよく流れている。すぐに処置しないと命が危ない。
「すぐにここから離れるぞ!さっきの川の方だ!あそこの側に洞窟があった。急げ!」
「「わ、わかった(わ)!」」
返事をするやいなや、赤目が羽ばたき煙を散らしてしまう。と、同時に風の刃が4人を襲う。俺はライアンを担ぎ、その場をすぐに離脱し攻撃を避ける。ブライルとミレンもギョッとしたものの、かすり傷程度に抑え、走り出す。
「はあはあ、……っくそっ…すまないみんな、俺が戦いたいと言ったせいだ…」
「喋るなライアン。黙って担がれてろ!」
俺がそう言うが、ライアンはそのまま弱った声で話を続ける。
「いや……、もうこの傷ではもうフィラリオまで…保たないだろう…。俺を置いて、その隙に、2人を守って、なんとか逃げてくれ…」
「いやよ!そんなこと言わないで!」
ミレンが苦しそうに言う。ブラインも俯いて、自責の念にかられている。2人ともこのままではライアンは助からないと理解しているのだろう。ライアンを囮にして逃げた方が生存確率は上がる。しかし仲間であり、友である彼にそんなことを出来るはずがない。
「大丈夫、俺は[調合士]だ。必ずライアンを助けてみせる。とにかく逃げ切るぞ!」
再び【煙玉】を使う。羽ばたきによって煙は霧散するが、なんとか川の近くまでたどり着く。俺はブライルに川の水を汲む用に指示して、他3人で洞窟に入る。ライアンを横にし、準備にとりかかる。
「ライアン…」
ミレンは憔悴した表情でライアンをみつめる。ブライルも水が入った容器を持ってやって来る。
「水を持ってきたが……どうするんだ?」
ブライルは何をするつもりなのか、俺に聞く。
俺の今のジョブは[調合士]である。しかし、その前は[野生児]、さらに前は[狩人]である。[調合士]のレベルが5になった時、《調合術》というスキルを手に入れた。このスキルは調合可能なものを組み合わすことが出来るというものであるが、アイテムだけではなくスキルも組み合わすことが出来たのだ。そこで[狩人]のレベル15のスキル《観察眼》と[野生児]のレベル15のスキル《嗅覚鑑定》を組み合わせることで、複合スキル《感覚解析》を手に入れた。
《観察眼》: 良く見つめることで、少しだけ敵の情報を知ることが出来る。
《嗅覚鑑定》: 匂いを嗅ぐことで、少しだけアイテムの情報を知ることが出来る。
《感覚解析》: 敵やアイテムの詳細な情報を知ることが出来る。
《感覚解析》を発動して、【癒し草】と【水澄苔】を調べる。すると隠された効果が浮かび上がる。
【癒し草】: 傷を癒す作用がある。熱湯で茹でること により、吸収率が良くなり効果上昇。
【水澄苔】: きれいな川の側に生える苔。栄養豊富。癒し草と組み合わせることで傷を癒す作用が上昇。
ブライルの水を受け取り、火で沸かすようミレンに言う。熱湯に【癒し草】を入れて、茹でた【癒し草】と【水澄苔】を少量の水と合わせて魔力を込めて調合する。数秒で【良質な回復薬】3回分の量を生成し、瓶に詰める。それをライアンの傷口にふりかけると、傷口が徐々にふさがっていく。
「…うっ………」
ライアンが呻き声をあげる。しかし傷は深く1本では足りないため、残りも傷口にかけて余ったら少しずつ飲ませるように指示する。傷を癒している間、やることがあると2人に伝え、俺は外に出ようとする。が、ミレンに声をかけられる。
「ねえロイ君。ライアンはもう大丈夫なの…?」
「ああ、血を流しすぎたから1人で動くのは難しいだろうけど、命に別状はないよ」
ミレンはわっと泣きながら抱きついてくる。安心感からの行動だろう。しかし抱きつかれた側としてはドキっとしてしまう。何とか平静を装ってなだめ、洞窟を出る。出るときにチラッとブライルの方を見たが、ミレンとの会話を聞いていたのだろう。ホッとした表情でライアンに薬を飲ませていた。
(さて、ここから3人とも無事にフィラリオまで送り届けないとな。)