探険者になりました
「お前が魔術士ならこっちも魔術士だ!ここに3人いるぞ!泣いて謝るならいまのうちだぞ!」
確かによく見ると杖持ちが3人いる。魔術の素質を持って生まれてくるのは100人に1人と言われている。素質があるというだけで、別に魔術士一択という訳ではない。選択肢の幅が広がったというだけだ。とはいえ、勝ち組の選ばれたジョブであるため、素質持ちはほぼ全員魔術士を選ぶことになるが。
「おい、聞いているのか貴様!」
顔を真っ赤にして怒鳴ってくる。どうしたもんか。
「10対1って卑怯じゃない?騎士の風上におけないな」
「う、うるさい!卑怯もなにもない!貴族を馬鹿にするお前が悪いんだ!そう、これは罪を犯した者に対する罰だ!」
とんでもないことをいうやつだ。プライドが高いとかそんな話ではなく、頭の中に貴族至上主義が出来ているようだ。お互い睨み合っていると、近くから声をかけられる。
「お前ら、街中でなにをやっているんだ?」
「せ、先輩!」
どうやら馬鹿騎士の先輩のようだ。俺と馬鹿騎士たちの様子をみて状況を判断したのか、口を開く。
「ここは街中だぞ、高貴なる騎士がなにをやってる」
「で、ですが先輩!あいつが僕のことを馬鹿にして!」
どうやら騎士の中にもまともな人はいるらしい。この場を治めてくれるようだ。
「いちいちゴミのいうことなんて気にするな。お前は貴族だろ?あんなクズみたいなやつと同じ土俵に立つな」
……………ん?今あいつなんていった?
「そうですね!あんなゴミのことを気にするなんて僕が馬鹿でした!」
「わかればいい。じゃあ高貴で美しい我々はさっさと貴族層に戻るぞ」
「「「「「はい!」」」」」
にやにやしながら馬鹿騎士たちは去っていく。次会った時ボコボコにしてやろうと、深く決意した。
家に帰って本を読んでいると夕方になり、アルフレッドが帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえり」
「ロイ、お前に渡すもんがある。そら」
アルフレッドが何か投げ渡してくる。それを両手でキャッチすると、探険者カードだった。
「おー。もう出来たのか」
アルフレッドから説明を受ける。探険者とは、依頼を受けて遺跡を探索したり、厄介な魔物を討伐したり、貴重な薬草を採取して納品したり、長距離移動する商人を護衛したりと、多岐に渡って活動している。元々は未知の遺跡や洞窟を探索するのが主だったが、気づいたら何でも屋みたいな立ち位置になってしまったそうだ。
そしてカードは探険者の実力や実績を示すものであり、SからEの6段階である。カードを身につけている状態で薬草を採取したり、魔物を倒すと記録が残り、それに応じてポイントが貯まり、階級が上がっていく。例えばEからDに上がるには100ポイント必要で、傷を癒す効果のある【治癒草】を採取すると1ポイント、小型の魔物である〔ミニファング〕を倒したら5ポイント増える。
「と、まあこんな感じだな」
「なるほどー」
「まあとりあえず探険者になったから解説の仕事は出来るな。時間がある時に探険者の仕事をすればいい」
「闘技場の開催日は?」
「月毎に開催されるんだが、今月は3日後だな」
なるほど、3日後か。じゃあ明日と明後日は暇だな。何して過ごそう。そんな俺を察してアルフレッドは提案してくる。
「闘技場が開催されるまで暇なんだったら、頼みがあるんだが…」
「ん?なに?」
「いやな、養成学校の生徒で探険者にしろってうるさいやつがいるらしくて、オレリアが大変なんだ。それでフィラリオの北を少し行ったところに魔物の森ってところがあるんだが、そこに行って現実を見せてやろうって話になってな」
「ほうほう」
「そこは本来正式な探険者じゃなきゃ入れなくてな、しかも半人前抱えての探索になるから、それなりの強さを持つベテランじゃなきゃ危ないってわけだ」
「それで俺ってことか。ベテランどころか探険者になってまだ1時間も経ってないけど」
そこでふと例の文字化けのことを思い出す。
「そういえば測定結果の数値が文字化けしてて読めない箇所があったんだけど」
「ああ、アレな。大丈夫だ。数値が高すぎて測定不能ってことだから」
「……へっ?」
「お前めっちゃ強いから大丈夫。そもそも俺たちが出会ったところより明らかにこの辺りの魔物は弱いって気づいているだろ?」
「気のせいじゃなかったのか…。平和なんだねこの辺りは」
「いや、お前の住んでいたところがおかしかったんだがな…まあとにかくそういうわけだ。全く問題ないはずだ」
「じゃあそういうことなら受けようかな。オレリアさんにも世話になったし」
「助かるぜ。じゃあ明日朝7時組合で待ち合わせだ」
魔物の森の探索か…行ったことないところに探険とは、実に探険者らしいな。明日のことを考えるとワクワクしてきた。楽しみだな。