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闘技場の解説者  作者: 破壊と絶望の申し子
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レベルアップの条件

俺は傷ついたブライルに、再び作った回復薬をふりかけて傷を癒す。ミレンは魔力切れで意識を失ってるようだが、赤目にやられた傷があったのでついでに癒しておく。


(こんなボロボロになるまで戦っていたのか。俺がもう少し早く帰っていれば…)


自責の念にかられる。ここに着いた時、〔ジャイアントエイプ〕がいた。この洞窟を巣にしていたのだろう。安全確認するべきだったと今更ながら思う。想定外の出来事があったため、無事連れ帰ることで頭がいっぱいだった。


(しかし、後悔や反省は3人を連れ帰ってからにしよう。目を覚ますまでの間、出来ることをやろう)


まず弓の作成に取り掛かる。【しなり蔓】に弾力をもたせるため、水につける。その間に【剣磨石】を2つ、石同士でカンカンと形を整え、小ぶりのナイフを作る。そのナイフで【強靭竹】を縦に割り、弓の形に削っていく。いい感じに仕上がったので、火で軽く炙って乾燥させ、水を含んだ【しなり蔓】を絞り、組み合わせることで、簡易的な弓の完成だ。その後も色々と制作していると、


「う……」


ミレンが目を覚ます。頭がまだクラクラしているようで、ぼーっとしているが、突然ハッとしてあたりを見回す。


「あれ、ロイ君?……そっか、助けてくれたんだ」


ミレンが微笑みながら俺を見つめる。横になっているブライルをチラッと確認し、ホッとした様子でお礼を言う。


「ありがとう。ブライルの傷も治してくれて。ロイ君が間に合わなかったらあたしたちは今頃…」

「いや、俺は大した事はしてないよ。ブライルが踏ん張ったからだよ」


洞窟に着いた時の状況を話す。ブライルが庇わなかったら間に合わなかったかもしれない。それぐらいギリギリの状況だった。


「そっか、ブライルが…。それでも、ありがとうロイ君。あなたに助けられたのは事実よ」


笑顔で礼を言われるが、胸がチクリと痛む。この洞窟が魔物の巣であったことに気付かず、この事態を招いたことはロイの落ち度だ。お礼を言われる資格なんてない。謝罪しようとした矢先、ブライルが目を覚ます。


「……!ブライルっ!」

「ミレン?そうか…僕は」


ブライルはあたりを見回し、状況を察する。


「そうか、助かったんだな…」


生きている実感がわいてくる。自分の怪我が治っていることに気がつき、立ち上がって礼をしようとするがふらつき、ペタっとそのまま座ってしまう。


「まだ体力が回復してないんだろう。これを食べるといい。ミレンにはこれを」


ブライルに黄色い【モンレの実】を、ミレンに橙色の【カンミの実】を手渡す。2人は戸惑いながらも皮を剥いて食べ始める。


「……っ!?すっぱ!」

「……っ!?あまーい!」


【モンレの実】はとても酸っぱいが体力を、【カンミの実】は爽やかな甘みをもち、魔力を回復させる効果がある。ブライルはなんてものを食べさせるんだと言わんばかりに俺を睨む。しかし体に元気が戻って来てる実感はあるので、文句は言わない。ミレンは夢中になって美味しそうに食べている。


「少し休んだら出発しよう。日が暮れるまでにはここを抜けたい」


今は15時頃。ライアンを担いでの移動になると、時間はギリギリだ。数十分休み、洞窟を出た。


「俺が前に出るから、2人はライアンを頼む」


2人は頷き、森の入り口を目指して歩いていると、魔物が姿を現わす。〔ワイルドファング〕2匹だ。ブライルの剣は欠けており、ミレンも完全には魔力が回復していない。2人はどう切り抜けるか考えるが、


「どけ!」


俺は一瞬で距離を詰め、2匹を遠く彼方へ蹴り飛ばした。


「え?はや…え?いや、その前にあの大きさを蹴り飛ば…えええー!?」

「……」


ミレンは何が起こったのか理解しようと必死になる。ブライルは口を開けて固まっている。


「先を急ごう」


2人はハッとして、歩き出す。その後は順調に進むが、もう少しで森を出るというところで、やつらが現れた。


「赤目の〔ウィンドバード〕…」


赤目1羽と通常種2羽。計3羽が行く手を阻む。さっきはいいようにやられてしまったが、今は弓を装備している。


「ブライルはライアンを守ってくれ。ミレンは援護を頼む」


そう言い、俺は弓を構える。通常種が1羽、こちらに突っ込んでくる。矢に魔力を込め、狙いを定める。


「《スナイプショット》!」


矢を飛ばすと、そいつは避けようと右に移動するが矢もクイっと右に曲がった。吸い込まれるように眉間に突き刺さり、そのまま墜落していった。もう1羽はミレンに襲いかかる。


「くっ!」


ミレンは焦っていた。《ファイアショット》を放っても避けられる可能性が高い。では《ウィンドクロー》ではどうかと考えるが、発動は間に合いそうもない。すると突然、何かが割れる音がした。〔ウィンドバード〕を見ると、なにか白い粉で覆われている。


「ミレン、《ファイアショット》を使うんだ!」

「で、でもあの速さだと避けられるわ!」

「大丈夫だ、必ず当たる!」


ロイが根拠のないことを言う。当たらないとは思いつつも、《ファイアショット》を放つ。するとやはり左に避けられた。


「ほら、当たらないじゃ……っ!え?」


〔ウィンドバード〕は避けたはずだが、炎に包まれている。しかも本来の《ファイアショット》より格段に大きい炎だ。ロイは【粉吹きの実】の中身を瓶にギッシリ詰めていた。それを割って拡散させ、粉塵爆発を引き起こしたのだ。


「あと1羽だな」


赤目が俺を睨み、素早く接近する。矢を放つが羽ばたかれることにより弾かれ、風の刃が逆に襲いかかってくる。俺はそれを跳躍して避ける。このまま戦うのは面倒だと思い、弱点を知るため《感覚解析》を発動する。


〔ウィンドバード〕: 空を飛ぶ大きな鳥の魔物。とても素早く、鋭く尖ったクチバシや鋭利な羽を使って攻撃してくる。

また、羽ばたく際に大きな風を発生させ、赤目の場合は風の刃をも生み出す。しかし、翼に傷がつくと飛行を維持出来なくなり、地面に墜落する。


なるほど、翼を狙えばいいということか。それならと、俺は弓を構える。《スナイプショット》の追尾性

はそれほど高くないので赤目には通用しないだろう。当たらないのなら、当たるだけ撃てばいいだけだ。


「《マルチプルショット》!」


矢を放つと、1本、10本、100本と分裂して増えていき、矢の雨が赤目に襲いかかる。ギョッとして避けようとするが、2、3本翼に当たりそのまま墜落したため、トドメを刺す。赤目は多くの魔力から生まれる存在である。そのために通常より強くなるのだが、絶命時に体内の魔力を凝縮させ、魔道具を残すことがある。


「今回は何もなし、か」


振り向くとみんな無事のようでホッとする。ブライルとミレンは何か言いたげな顔をしているが、諦めて歩き出す。そのまま進むと、なんとか森から抜けることができた。ライアンを代わりに担いでフィラリオに向かう。


「入ったのが数時間前とは思えないな…」

「そうね。1週間ぐらいいた気分だわ」


2人は苦笑いしながらそんな話をする。無理もない、それなりのベテランでも死ぬかもしれない経験をしたのだ。数時間歩き、すっかり日が暮れたがフィラリオ

に帰還する。まずは結果を報告するため、組合に向かう。


「遅かったわね。何かあった…って金髪の子どうしたの!?それにあなたたちボロボロじゃないの!」


オレリアに何があったか話す。その間にライアンは治療院に運ばれる。


「そう、赤目の魔物が…。ここ数年目撃情報はなかったのに。それに〔ジャイアントエイプ〕の巣。川の側の洞窟は3日前に何もいないと聞いたのだけど…なんていうか、運が悪かったわね」


オレリアの話によると、結構な異常事態のようだ。洞窟に関しても〔ワイルドエイプ〕が数匹いることはあるらしいが、〔ジャイアントエイプ〕は過去1度も魔物の森での目撃情報はないらしい。本来、そこまで危険なところではないのだ。


「とにかく、報告ありがとう。近いうちCランク以上の探険者に調査を依頼するわね。みんな、お疲れ様」


そう言いながら、オレリアは俺に近づき耳打ちする。


「ありがとうね、ロイ君。あの2人……いや、3人ね。結構辛い目にあったようだから、これがいい薬になるといいんだけど」

「そうですねえ。でも今回の経験で、あの3人は強くなると思いますよ。特にブライルは」

「そうなの?それは楽しみね」

「ええ、俺も楽しみです。では俺はこれで、失礼します」


軽く頭を下げて、3人で外に出る。


「4人無事に帰ってこれてよかったわ!ありがとうね、ロイ君!」

「ああ、これはロイがいなかったら無理だっただろう。礼を言う」


2人は頭を下げる。しかし、こちらとしては失敗が多かったと思ってる。頭を下げられても困ってしまう。


「い、いやそんな。俺は失敗ばかりだったよ。赤目の対応も遅れてライアンには怪我を負わせるし、洞窟でも安全確認を忘れて、2人には大変な思いを…」

「でも、あたしたちは今、生きてる。それはあなたのおかげなのよ」

「それにもともとは僕たちが魔物の森に行くと言わなければ、ロイの忠告に従って〔ウィンドバード〕と戦闘しなければよかったんだ」


2人は俺をフォローする。その優しさに触れてちょっと泣きそうになった。今回、俺は失敗した。しかし、ブライルとミレンも自分の考えの甘さを痛感したようだ。


「ありがとう、2人とも。今回一緒に行動したことで、色々と考えるきっかけができた」


俺は1人で戦ってきた。しかしこれから誰かと共に戦うのことも、守りながら戦うこともあるのだろう。そういったことが頭から完全に抜けていたようだ。2人に感謝して別れを告げる。


「それじゃあ」

「ああ」

「うん、またね!」


去って行くロイの背中を見ながら、


「すごいやつだったな…」

「なんというか、次元が違ったわね。探険者はみんなあんな感じなのかしら?」

「そんな訳ないだろう。Bランク相当の実力はあるんじゃないか?」

「なんでEランクなのかしら…」

「さあ…」


ブライルは強く決意する。今日一緒に行動したロイという少年と、肩を並べられるような探険者になると。今まで以上に修練に励むと誓った。


(しかし、なんとなく体が軽くなったのは気のせいか…?)



ミレン・フロワード Lv.5→Lv.6


ブライル・マクラレン Lv.5→Lv.7








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