物語の始まり
念のためR15にしていますが、そんなにグロい描写はないと思います。書くとしたら前書きにグロ注意入れておきます。
気長に書いていきますのでよろしくお願いします。
トントンと、包丁で食材を切る音がして目を開ける。鼻にふわりと優しいスープの香りがして、ぐぅとお腹を鳴らしつつ、意識が次第にはっきりしていく。
「おはよう、おじさん」
「ああ、起きたか。おはよう。それとおじさん、じゃなくてお父さん、だろ?」
包丁の手を止めてゆっくり振り向き、おどけた調子で笑いながらシブい男性は言う。この人の名前はアルフレッド・パルス。探険者組合の総隊長にして、俺―――ロイ・フロイスの親代わりをしている人だ。短い金髪に顎髭、身長は180cmほどで、ガッシリとした筋肉質な体型である。年は正確には聞いてないが、40代後半らしく、笑うとくしゃっとシワができ、その笑顔を見ると心が温かくなっていき、こちらも自然と笑顔になってしまう。
「もう少しで朝食の用意が出来るから、顔洗ってこい」
「わかった」
洗面所に向かい、顔を洗う。
「ふぅ」
顔を上げると鏡に映った茶髪の少年が目に入る。
(しかしこうして自分の姿を見ると、随分と良くなったものだな)
3ヶ月前、アルフレッドと初めて時と比べて、劇的な変化を遂げている。伸び放題だった髪も切り整えられ、痩せていた体も肉がつき、ボロボロだった服もきちんとした清潔な服となった。
(おじさんにはちゃんと恩返ししないとな)
洗面所から戻ると、朝食の用意が出来ていた。パンと肉の燻製、そしてたっぷり野菜が入ったスープだ。
「「いただきます」」
スープを口に運ぶ。野菜の甘みが口に広がる、とても優しい家庭的な味だ。肉の燻製を少し入れる事で動物的な旨味が入り、優しいながらもワイルドな一面を口の中で表現してくれる。その味を堪能していると、アルフレッドが話しかけてくる。
「もうここには慣れたか?」
ここアークエイジ王国に来てから3ヶ月ほど経っている。基本的には家で本を読んでいるが、時々アルフレッドとともに買い物をしたり、1人でぶらぶら散歩をしている。まだ完璧ではないが、ある程度はどんな都市で、どんな店や施設があるかは把握している。
「もうここで暮らしてから結構経っているからね。それなりに慣れたよ」
「そうか。それならそろそろ何か仕事でも始めたらどうだ?」
確かに、そろそろ何か行動に移るべきかも知れない。今はおじさんの世話になりっぱなしだし。
「そうだね。そろそろ何か始めようかな」
「じゃあ、まだ決まってないなら闘技場の解説者なんてどうだ?なかなかいい奴が見つからなくてな」
「戦っている人を見ながら動きとかに対して意見すればいいの?」
「まあ大体そうだな。実況と解説がいて、実況の可愛い女の子が試合を盛り上げて、解説の腕の立つ奴が動きや技を分析するって感じだな」
なるほど。つまり腕の立つ奴が解説には必要だが、普通は探険隊の仕事で忙しかったり、お偉いさんの護衛などをするから成り手がいないのか。報酬も大分違うのだろうし。そこでふと、気になることがある。
「それ解説だけで良くて、実況いらなくない?」
「ばっかお前。可愛い女の子に注目された方が戦っている側からしたら燃えるだろ?」
「はあ…」
わからないでもないけど、おっさんが真顔で言うセリフじゃないな…。
「それに純粋に強さを求めて戦う奴もいるが、一種の興行だしな。盛り上がらないと観客も参加者も集まらん。」
確かにそれは一理ある。参加者にしろ観客にしろ、男性の方が多いから、花があった方がいいってわけか。
「解説者になってもいいけど、腕の立つ奴って話だけど俺で大丈夫なの?認めてもらえるの?」
「大丈夫だ。なんたって俺の息子だからな!権限で許可はとってやる!」
ニカッと笑いながら右手の親指をたてる。
「それにお前の強さなら大丈夫だろう…」
アルフレッドは小声で何か呟いたが、俺には聞こえなかった。
「…?じゃあ、いつから行けばいいのかな?」
「その前に身元を保証するものが必要だ。流石にどこの誰かわからん奴に任せられるものでもないしな。お前持ってないだろ?」
「ああ、そんなのがあったっけね。どこで貰えばいいの?」
「まあ保証方法は色々あるが、1番手っ取り早いのは探険者に登録して証明カードをもらう事だな。とりあえず連絡しておくから、身体能力測定をしてこい。本来他にも色々手続きや決まりがあるが、お前の実力なら能力を測定したらすぐもらえるはずだ」
「じゃあ朝食も済んだし、この後行ってくるよ。ごちそうさま」
「おう、気をつけていけよ」