1 目覚める。
「...何百年...何千年...いや数万年だろうか..もう数えてすらいない..」
「私が封印されてから一体何世紀が経つのだろう?」
幾度となく試みた脱出は無駄に終わった
「あぁ..彼の者たちもきっともう生きてはいないだろうな..」
暗い部屋..微かに見える星達の明り
寝床も机も椅子もなにもない部屋で、少女は1人黄昏る
紫色の髪、紫色の瞳
一見すればただの美少女だが、人と違う点があった
尖った耳に後頭部まで伸びる角
記録からも忘れられた存在..大昔の魔王である
「叶うのならば、もう一度外を自由に歩いてみたいな..」
- フェルト王国 -
メラド大陸中央に位置する世界最大級の国家である
北には荒れ果てた荒野が広がり
東には天然要塞とも言える世界樹が乱立する大樹海
西には標高4000m級の山々が並ぶ山岳地帯
唯一、人が行き来できる南の草原
ゴトゴト..ゴトン..
商人と金髪少女の乗った馬車は王都へ向かう
商人「お嬢ちゃん、1人で王都へいくのかい?」
? 「はい!貧しい村出身で..出稼ぎに行きます!」
商人「偉いねぇ~、うちの子供にも見習ってほしいものだ!」と商人は笑う
「お嬢ちゃん、名前は?」
? 「えっと..」
「....リンと言います」
商人「リンちゃんかー!しっかし変わった目をしているねー」
リン「そうなんです、生まれつきで..」
「青と紫のオッドアイだなんて..不気味..ですよね....」
商人「い、いやいや!たしかに珍しいが王都にも似た目を持つ者はいるぞ!」
「数人程度だがいずれも偉業を成し遂げた者たちだ!きっとお嬢ちゃんも何かを成し遂げちまうんだろ うなぁ」
「あと数刻もすれば王都へ着くはずだ!宿は決まっているのかい?」
リン「いえ、恥ずかしい話ですが、あまりお金を持っていなくて..」
「村で摘んできた薬草を売ろうかと思いまして..」
商人「薬草かぁ、最近は魔物もあまり出なくてね、うちでも売れ残っちまってるんだ」
「大変だろうが、がんばるんだよ」
リン「は、はい..ガンバリマス..」
商人の言う通りに王都へ到着した
もう日も傾き始めていた
商人「じゃあ、お嬢ちゃん!ここまでだ!」
リン「はい、親切にありがとうございました。」
ゴト..ゴト..ゴトン
馬車は去っていった
リン「...はぁ..薬草...売れないのかぁ..」
「どうしよ..]
神様って..運命って残酷..そう頭で思ってしまった
ッ..キイィーーーーン..........
リン「あ..ぅ..」
リンの頭の中で鳴り響く音
リン「なに..?..これ....」
「頭の中がかき回されてるような...目の奥が焼かれるような..」
バタン---リンの意識が途切れる...
キーン..キーン..キーン..
鉄と鉄がぶつかり合ったような音
ボォゥーー
何かの燃える音
「...王よ、覚悟!」
紫色の髪をした美しい少女を取り囲むようにローブを被った老人達が何かを唱える
「図ったな..例え何千年かかろうとも..私は...」
美しい少女は最後の言葉を発することもできず、黒い渦に飲まれる
リン「ん..んぅ...」
「ここは?..」
目覚めると知らない部屋で寝ていた
リン「いまのは..夢..?」
夢にしてはかなり繊細に覚えている
ローブの集団、紫色の髪をした美しい少女
青年「目が覚めたか?」
気づくと部屋の扉の前に青年が1人リンを見つめていた
リン「えっと..ここは..?」
青年「ここは俺ん家さ、家の前で倒れていたからね、運ばせてもらったよ」
「具合の方は?平気かい?」
リン「はい、助けていただいてありがとうございました」
少しだけ頭がまだ痛いけど、あまり心配をかけるわけにもいかないよね
青年「倒れた際に頭を打ったのかな、すこし擦り傷があったから君の薬草を使わせてもらったよ」
「荷物を勝手に見てしまってすまないね、身元が分かればと思ったのだが」
頭部をすこし触ると包帯が巻かれていた
リン「と、とんでもありません!助けていただいた上、治療まで・・」
青年「ところで君は、旅人..かい?」
リン「昨日王都へ到着しまして、村のため出稼ぎにきました」
青年「なるほどね、君のような子は珍しくないよ!ケガが治るまでここでゆっくりするといい」
「名乗るのが遅れてしまったね、俺の名前はアイザック!鍛冶師さ」
リン「私の名前はリンです、改めまして助けていただきありがとうございました」
「本当に治るまでお邪魔してもよろしいのですか?」
アイザック「自分の家だと思って過ごしてもらってかまわないよ」
「幸い、この家は俺1人だからね..」
「では、仕事もあるし失礼するよ」
バタンッ
そう言ってアイザックは部屋を出て行った
すこし寂しそうな顔をして
アイザック「オッドアイ..か...」
悠久の時を生きる魔王
暗い部屋で今日も1人鉄格子の向こう側..夜空を見上げる
先日の頭痛は何だったのだろう
ここに閉じ込められてから一度も頭痛を感じたことなどなかった
あの日の事..ローブを纏った老人どもに封印された日の夢など
ここ数千年見ることもなかったのに...
魔王「あの忌々しい魔術師どもめ..」
「はぁ..外の世界は一体どうなっておるのだろうな」
数千年諦めていた脱出だが、今日だけはなぜか試してみたくなった
きっとあの夢を見たせいだろう
魔王は右腕を前に出す
体内の保有魔力は全盛期となんら変わらない
魔法を発動すると空中で術が霧散する
魔王「むぅ、使えぬな・・」
「そういえば、眷属への乗り移りなどは試した事はなかったな..」
魔王直属の眷属はどれも高位の魔族で20人の眷属はそれぞれ魔王の能力を1つずつ保持している
魔王の能力により場合によれば数千年、数万年生きる事も出来るだろう
魔王「さて...」
魔王は集中する、数万年ぶりの乗り移りの感覚を取り戻す
反応がない...
もう眷属は皆居なくなってしまったのか?
諦めて目を開く
ーーーッ
「眩しい.......」
眩しい!?
一面の白い世界、数万年間ずっと夜の世界であったはずの部屋
懐かしい光、太陽の光
ここは一体...
「え..?」
リン「ゆっくりすると言っても、ずっと寝てるのも暇だなぁ」
アイザックに助けられてから丸々2日も引きこもりっぱなしだ
リン「王都に来たのは初めてだし、すこし街を見てまわろうかな..!」
金髪少女は残りわずかなお金を片手に鍛冶屋を出る
リン「アイザックさん!すこし街を散歩してきます」
カーン、カーン、カーン、カーン
剣をうつ青年はリンの行動に気が付いたようですぐに返事をする
アイザック「あぁ、夕暮れまでにはかえってくるんだよ」
寝たきりのリンを心配していたのか青年の顔がすこし晴れやかになった
鍛冶屋を出るとT字路になっていてちょうど目の前が露店通りのようだ
リン「そろそろお仕事みつけないとなぁ..」
リンの所持金は村を出てから少しずつ減りいまや銅貨3枚
宿屋に泊まるには銅貨10枚は最低でも必要と考えるととても心細い
リンの独り言が聞こえたのか、すこし裕福そうな夫人に声をかけられる
夫人「あんた、仕事を探しているのかい?」
「ちょうど人手が欲しかったんだけど、話だけでも聞かないかい?」
どんな仕事でも引き受けるつもりだったリンは夫人の言葉に食いつく
リン「あ、はい!どんなお仕事でも引き受けます!」
夫人「よかったよかった、ちょうど監視塔の清掃作業の時間がもうすぐでね」
「雇っていた子が急に寝込んじゃってねぇ、かわりを探していたのさ」
監視塔の存在は王都へ入るときにすこし見た
フェルト王都は天然要塞に囲まれているおかげで
監視塔は南の草原側にしかない
数も少なく日暮れにはアイザック鍛冶屋に帰れるだろう
リン「はい!ぜひその清掃、私にやらせてください!」
夫人「そうかいそうかい、なら案内しよう、こっちだよ」
アイザック「オッドアイ..か...」
4年前、流行り病で倒れた両親
2年前、盗賊に敗北し帰らぬ人となった冒険者の妹
アイザックはリンと妹を重ねていた
同じオッドアイであった妹はそこそこ名のある冒険者チームに所属していた
オッドアイは偉業を成し遂げる
そんな傲慢が招いた事故
アイザック「フッ..まるで妹が帰ってきたみたいだな..」
カランッカランッ
アイザック「おっと、お客さんかな」
リン「んーー、これで一通り清掃も終わったかな..!」
「それにしてもいい景色ねー、そろそろ日も暮れるし」
「報告して帰りにおいしいものでも買っちゃおうかな!」
キイィーーーーン
リン?「眩しい.......」
リン「え..?」
「私..いまなんて...」
リン?「む?もしや眷属が生きていたのか?」
リン「眷...え?」
リン?「数万年ぶりの太陽じゃ~、よいものじゃの~」
「むむむ?角がない..この体..人間か!?」
リン「ど、どういうこと?」
「どうして私、勝手にしゃべって..」
リン?「ふむ、どうやらおぬし、私の眷属の末裔のようじゃの」
「第12眷属の魔力をすこし感じるのぉ」
「私の名は!.....名は....」
「思い出せぬ! この数万年ですっかりわすれてしまった!」
リン「えっと!?」
リン?「すまぬ、混乱させたな」
「私は魔王...数万年前に封印された魔王じゃ」
初めての小説投稿 なろう投稿で拙いですが
よければ見ていってください~