少女は平穏を夢見る
響く悲鳴、人間の焼ける匂い肌で感じる炎の温度…そして手のひらに宿る温もり。
私の平穏が壊れた。
帝都よりはるか北、周りを山々に囲まれたアイロ村。人口は100人程度。決して豊かではないが野菜を作り羊を育てながら平和にそして充実した日々をおくっていた。だが確かにあの日の惨劇は所々に見られる破壊の爪痕から伺える。ここアイロ村は人類史において初めて人類が住む場所で豚顔族<オーク族>に襲撃された場所だ。豚顔族は知能こそ低いが人類を上回る身体能力と背丈を持っている。争いなどとは無縁だった事もあり襲撃されてアイロ村の人々はほぼ抵抗出来ずに嬲り殺された。結局生き残ったのは赤ん坊も含めて54人、約半数が殺された。あの惨劇から14年。村は着実に復興している。
「おーいエルメどこいくんだよ」
後ろから陽気な声が私を呼ぶ。声を聴いただけで誰だかわかる。この14年間ずっと聞いてきた声だ。
「昨日言ったでしょ、薬草を貰いに行くのよ」
声の主の黒髪の少年、いや青年と呼ぶべき年か
同い年のはずなのだが年下のように見えてしまう。背が自分とあまり変わらないためか、持ち前の人懐っこい性格せいか。
「そうだったけかな?どこか怪我したのか?」
青年は少しおどけてみせてから本当に心配そうに聞いてきた。その仕草に胸が熱くなる。いつからかこの少年と喋っていると胸が熱くなり頬が火照るときがある。そして一瞬あの惨劇を思い出してしまう。
「私じゃないわ、隣に住んでいるおじさんが手を切ってしまったらしくて」
頭に浮かんだイメージを振り払いながら精一杯の作り笑いを浮かべる。
「…そっか、エルメも大変だな」
少年はそれしか言わず元来た道を引き返してしまう。ただその顔には暗い顔を貼り付けて。この青年は分かっている。いまの私の立場。それを分かっていながら分からないふりをしてくれている。とてもありがたい、ただあなたをみている私の心が痛む。
青年と別れ薬草を貰いにまた道を進む。村に戻り薬草を届けた所で私に向けられる視線は決して感謝の視線ではない。畏れ、奇異、自分をどう扱って良いかわからないというあの視線。もう慣れた。でもいつまでも慣れない痛みもある。
平穏を求め故に平穏を失う。気づかないからこその平穏もある。平穏とは求めるものではないのかもしれない。
最後まで読んでくださりありがとうございます
まあ解説などいらないでしょうw
楽しんでいただけたら満足です。
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