八話
スチュワートに抱きついたのはルーシーらしかった。フィリップも唖然としてイアンは呆れていた。
『ルーシー。人型になってはスチュワートを運べぬだろうが。だから、俺は嫌なのだが』
ため息をつかれながら言われてルーシーは頬を膨らませて怒った。
「な、ひどいわね。嫌とは何事よ!」
『言った通りの意味だが』
イアンが素っ気なく言えば余計にルーシーはむきになる。
「せっかく、人型になったのに。そんな言い方はひどいわ!」
喧嘩を繰り広げるルーシーとイアンに二人はぽかんとなった。スチュワートもフィリップもいきなりの事に思考が追い付いていない。
「それよりもスティと触れあえるなんて何年ぶりかしら。これで添い寝や抱きついたりできるわ!」
ノリノリのルーシーにやれやれとイアンが見ていられないとまた、ため息をついた。スチュワートは混乱しながらも首に腕を巻き付けて抱きついてきたルーシーを払おうとした。が、ルーシーはそれに動じずにさらに体を密着させてくる。
「…スティ。甘く見ないでちょうだい。あたしも腕力はあるのよ」
「すまないが。ルーシーであっても女性に触れられるのは苦手なんだ。遠慮してくれ」
ごく真顔で言ったスチュワートにルーシーはふうとため息をつく。
「…どうしようもないくらいに女嫌いになってしまったわね。あたしでよければ、相手になろうかと思ったのに。惜しいわ」
「すまない。他を当たってくれ」
「わかった。人との間に子供を作る気はないから。ちょっと、スティに刺激を与えようかと思っただけだし。気にしないで」
ルーシーは気を取り直すためかにっこりと笑った。スチュワートもつられて笑う。その光景を眺めるフィリップとイアンだったが。
一人と一頭はルーシーに竜の姿に戻るように言い、渋々彼女は戻った。そうして、遅れてやってきた救援隊と共に王都に戻った一行だった。
あれから、ダークドラゴンの一件以来、ルーシーがイアンにアプローチをかけるようになった。どういう風の吹き回しかと騎士団の皆は不思議がっていたが。フィリップとスチュワートは理由を知っていた。
「…あいつらうまくつがいになれそうか?」
「さあ。さすがに俺でもわからん。フィーはどう思う?」
「んなこと言われてもな。スティがわからないんじゃ俺でもわからないな」
二人して頭を抱えた。ルーシーは人の姿になってイアンに会いに行っている。イアンもまんざらじゃないのか人の姿になって竜舍から出て外で話をしていた。
黒い艶々のまっすぐな髪と琥珀色の瞳の美青年と橙色の髪と金の瞳の可愛らしい美女の構図はなかなかお似合いだといえる。が、竜だと知らなければいえる話だった。フィリップとスチュワートは頭痛がしそうになった。
一体、どうしたらルーシーとイアンが仲良くなる要素があったのだろうか。人には計り知れない事だと言えた。




