六話
フィリップを乗せたイアンはごおと風を巻き起こしながら空に舞い上がった。翼で気流を捉えながら徐々に高度を増していく。
『…久方ぶりに山脈の近くまで行ってみるか?』
イアンが冗談めかして問うとフィリップもにやりと笑った。
「ああ。今日はどうせ休日で暇だからな。山脈の方まで一っ飛びするか」
『おう。行こうぜ!』
イアンが元気よく答えると頭を北のスーベニア山脈に向ける。雲の上まで来ると物凄い速さで向かったのだった。
スーベニア山脈に近づいてくると何故かもう一体の竜が近づいてきた。よく見ると橙色の鱗が特徴的ですぐにルーシーだとわかる。首の辺りには当然、スチュワートが乗っていた。
一体どうしたのかとフィリップは驚きを隠せない。きゅいいとルーシーが鳴く。
イアンもそれに答える。どうやら、二頭で合図をしあっているらしい。どうしたと尋ねようとした時にぴりりと首筋に電流が走るような感覚がした。殺気だとわかったのは後方を確認してからだった。そこには四頭ほどのダークドラゴンがこちらに向かっている。フィリップはイアンの首を軽く叩いた。
「イアン。ダークドラゴンがこちらに一斉に向かっている。対応できるか?!」
『どうだろう。俺とルーシーが本気を出せば、対戦できなくもないが』
「くっ。仕方ない。一旦、下りるぞ!」
イアンに指示を出すと一気に急降下を始めた。ルーシーたちも同様に地上に降下をしている。
フィリップは地面に降りるとイアンの首から飛び下りた。そして、持っていた魔具で竜騎士仲間に連絡を入れた。
〈こちら、フィリップだ。イアンと一緒にスーベニア山脈の近くにいる。ダークドラゴンが襲撃をかけてきて地上に降りている〉
そう彼が言うとすぐに聞き覚えのある声が答えた。
〈フィリップか。俺はスティーヴンだ。ダークドラゴンか。どのくらい数がいる?〉
〈四頭だ〉
簡潔に答えるとスティーヴンはううむと唸った。
〈四頭か。確かにフィリップとイアンが強いといっても倒すのが大変そうだ。何とか、救援に向かうまで持ちこたえてくれ〉
〈わかった〉
そこで魔具での通信は切れた。イアンが警戒の声をあげる。
ダークドラゴンがフィリップたちに空から襲いかかってきたのだった。
イアンがフィリップから離れて飛び立った。
『俺が相手をするからルーシーとスチュワートの方を見に行ってやれ』
「すまない。イアン!」
ダークドラゴンが一頭だけであればフィリップも応戦したが。四頭ではさすがに分が悪い。イアンの判断が正しいのだ。フィリップは唇を噛み締めると少し離れた場所で降り立ったルーシーたちを見に走った。フィリップがルーシーたちを見に行くと怪我はないようだった。彼らもダークドラゴンの気配を早くに感じとってフィリップたちを追いかけてきたらしい。
「…スティ!無事か?」
「フィーじゃないか。そっちこそ怪我はないか?」
「俺は大丈夫だ。ただ、イアンが戦いに向かった」
「…たった一頭でか?」
フィリップが頷くとスチュワートは無茶をすると苦味走った表情をする。二人してうつむいているとルーシーが話しかけてきた。