五話
フィリップはさて、どうしたものかと頭を働かせる。いつも、同僚で親友のスチュワートからは嫌がられているが。彼の妹が昔から好きだった。可愛いと思うのに彼女は自分の想いに一向に気づいてくれない。それが不満になり、他の女性に手をつけさせることになる。今まで、それの繰り返しだった。彼女の兄でもあるスチュワートからは女たらしだの遊び人だの散々言われた。
それでも、シルバーを諦めきれずにいた。一体、いつになったら気づくんだか。そう思いながらもフィリップは青い空を見上げた。周りには人影がない。
自身のパートナーである騎竜、イアンに会いに行く。イアンは黒い鱗と琥珀色の瞳の男竜で年齢は人でいうと二十代半ばくらいだ。性格も穏やかで口数が少ない。
イアンとパートナーを組んで早くも五年くらいになる。フィリップとしては竜ではなく可愛い女の子に会いにいくところだが。仕方ないと思いながら竜舍に向かった。
「…よう。イアン。元気にしているか?」
竜舍に着いて中に入るとイアンのいる所まで近づきながら声をかけた。黒の竜ことイアンは片目だけを開けてこちらを見てきた。
『…おや。フィリップじゃないか。また、女人にうつつを抜かしていたのか。いつになったら、シルバー嬢に想いを打ち明けるんだ』
いきなり、痛いところを突かれる。フィリップは頬をひきつらせながらも答えた。
「…お前な。いくらなんでもそれはひどくないか?」
『ひどくはないと思うが。見ているこちらとしてはもどかしいものだがな』
「ああもう。イアンに会いに来なきゃ良かった。顔を合わせるたびにシルバーちゃんの事を言ってくるんだから」
軽く頭を押さえながらもフィリップはうめいた。イアンはくつくつと笑った。
『自業自得だ。シルバー嬢にフラれたくなければ、女癖の悪さを何とかするんだな』
ふふんと言いながらイアンはやっと体を起き上がらせた。あくびをするとフィリップに視線を向ける。
「イアン。シルバーちゃんの事はおいおい、何とかするとして。訓練があるから外に出てくれ」
『わかった。では行くとしようかな』
イアンとフィリップは竜舍を出たのであった。
フィリップとイアンが外に出て鍛練場に向かった。遠目にスティーブとルーシーが見えた。ルーシーは人が乗る用の鞍と肩紐、頭には首まですっぽりと覆う布を被っていた。ルーシーはスティーブを首の辺りに乗せて翼を動かしている。飛ぶ準備をしているらしい。
『ん?ルーシーが飛ぼうとしているようだな』
「ああ。そうだな」
そんな受け答えをしながらルーシーが飛び立つのを見送った。イアンも立ち止まるとゆっくりとうつ伏せの状態になる。フィリップは竜舍に戻り、鞍と肩紐を取りに行く。
そうして他の竜騎士たちもやってきてイアンに鞍や肩紐を取り付けるのを手伝ってくれた。ルーシーが空に舞い上がるとイアンもフィリップを首の辺りに乗せたのだった。