二話
椰子の実にたどり着くと首をさするフィーにこういった。
「…お前な。店の売り子が良いと言っときながらうちの妹を紹介しろって。二股でもかける気か?!」
低い声で凄めば、フィーはにへらと笑う。それに余計にイラッとくる。「まあまあ、落ち着けよ。スティだって結構、もてるじゃないか。だったら、少しくらい回してくれても…」
俺は再び、フィーの首根っこを掴んだ。そして、腕で締め上げる。
「…いっ、いてて!!」
「…ふざけんな。そんなに彼女がほしけりゃ、自分で探してこい!」
悲鳴をあげるフィーに俺は渾身の力で告げた。
「…ううっ。わ、わかった。自分で探すから離してくれ!!」
俺はそれを聞いて締め上げていた腕を緩める。
「…本当だな?」
尋ねたらこくこくとフィーは必死に頷いた。俺は腕を離した。
「…はあ〜。危うく、あの世に行くかと思った。スティ、手加減くらいはしてくれよ」
「阿呆。お前に手加減するわけがないだろう。その女癖の悪さを直したら考えてやる」
そう言いながら椰子の実の店内に入る。
中にはテーブルが十ほどあってカウンター席は奥にあった。木造建築の一階部分が飲食スペースで二階は宿屋になっている。
「…いらっしゃい。おや、スティの坊やじゃないか。久しぶりだね」
女将ことエーリカさんがこちらに気づいて声をかけてくれる。遅れて入ってきたフィーにも声をかけた。
俺は挨拶をしながらエーリカさんに注文をしようと思った。
「…じゃあ、エーリカさん。お酒でうまいのある?」
「はいよ。お酒だったら、麦酒がおすすめだね。後は焼酎かな。お湯割りにしたらうまいよ」
「焼酎にする。お湯割りで頼むよ」
酒の注文をする。エーリカさんはあいよと言いながら準備をした。
「…後、鶏のスパイス焼きとライ麦パン、空豆のスープが俺の分で。フィーはどうする?」
「…えっと。俺は鶏肉のシチューと黒麦パン。それと魚のムニエルを頼む」
二人で注文をするとエーリカさんは品の名を復唱した。頷いたら、ちょっと待ってておくれと言ってエーリカさんは厨房に入っていった。
しばらくして、鶏肉のスパイス焼きにライ麦パン、空豆のスープがお盆に載った状態で出された。フィーの分も同様にしてある。
鶏肉のシチューに黒麦パン、魚のムニエルがほかほかと湯気を立てている。酒も俺が焼酎のお湯割り、フィーは麦酒でそれを飲みながら食事にありつく。
「…う〜ん。ここのシチューはうまい。スティもそう思わね?」
「ああ、思う。鶏肉のスパイス焼きもうまいぞ」
「…そうだよな。俺のムニエルもな」
そう言い合いながら笑う。フィーも上機嫌で麦酒をあおった。
二人して酒を楽しんだのであった。