十三話
フィリップと飲みに行き、俺は珍しく千鳥足になるまで飲んだ。
家にはフィリップが送ってくれて朝方に起きた時にはちゃんと自室にいた。服は昨日の隊服のままだったが。それでも起き上がった時にずきりと頭痛がした。吐き気もある。どうしたものやらと思ったらがちゃりと自室のドアが開いた。
「……あ。スティ。起きたのね」
そこにいたのは母だった。両手にはお盆がある。上に水差しとコップ、小さな紙包み、カットされた果物が乗せられていた。
「昨日は酔っ払っていたからフィリップさんが寮じゃなくて。こっちに送ってくれたのよ。実家に帰ったというのはフィリップさんが騎士団と寮には連絡してくれたそうだから。安心していいわ」
母はそう説明しながら部屋に入る。ドアを閉めてお盆をテーブルの上に置いた。水差しからコップに冷水を注ぐと紙包みと共にこちらに持ってくる。
「これね。二日酔い用の酔い止めよ。飲んでみなさい」
「……ああ。わかった」
頷いて声を出したが。ひどく掠れていた。それに喉がひりついて痛い。母はこちらに来るとコップを手渡してくれた。受け取って一口含んだ。こくんと飲み込むとひりつきがましになる。
紙包みも受け取った。コップは母が持ってくれた。紙包みを開いた。大きく口を開けて中の白い粉薬をさらさらと舌の上に乗せる。全部を出しきると再びコップを受け取った。そのまま、水を飲んで粉薬共々飲み込んだ。けっこう苦くて眉間にしわが寄るのが自分でもわかる。
「お薬は飲めたわね。これ、桃を剥いたものなんだけど。食べられそうかしら?」
「色々とごめん。桃か。食べてみるよ」
「……無理そうだったらお水を置いて行くから。それをしばらくは飲んでいてね」
頷いて俺は桃の盛り付けられた皿を受け取った。小さなフォークを使って一口試しに食べてみた。吐き気はあるが。これだったらいけそうだ。そう思い、二口三口と食べた。とりあえず、空っぽだった胃に食べ物が入ったので気分的にも身体的にも落ち着いた。
「あら。食欲はあるのね。桃が全部食べられたんなら。スープかパン粥も大丈夫そうね。夕方になったら持ってくるわ。それまでは寝ていなさいな」
「わかった。寝てるよ」
母はそう言って皿とフォークを受け取る。そのまま、立ち上がって部屋を出て行った。俺は言われた通りにベッドに横になる。そのまま、夕方まで寝てしまったのだった。
その後、母や父が心配して看病してくれたおかげで翌日にはすっかり回復していた。母お手製のパン粥は久しぶりに美味しかった。俺は早速、フィリップが持って来てくれた隊服などに着替えて身支度をする。今は早朝だ。自室の外の廊下ではフィリップが待っていた。
がちゃりとドアが開き、フィリップが声をかけてきた。
「……スティ。準備はできたか?」
「ああ。隊服は着れたし。荷物も準備できたし。フィー。俺の着替えやら仕事の書類とか入ったカバン。これらを持ってきてくれたり連絡の事とか。いくら礼を言っても足りないよ。ありがとう」
「……どういたしまして。スティが酩酊するまで飲むのは珍しいからな。たまにぐらいだったら羽目を外してもいいと俺は思うぜ」
そうかと頷いた。フィリップはそれよりも仕事に行くぞと言う。俺は先に行く彼を追いかけながら騎士団の棟に向かったのだった。